第20話 フォレストウルフ戦(2)

 前脚を傷めて動きが鈍いフォレストウルフAの背中に着地するように両足を突き立てると、フォレストウルフAは耐え切れずに体勢が前に崩れた。その後頭部に私はアイアンダガーを突き刺す。


 HPゲージが0になり、フォレストウルフAもポリゴンになったあとに砕け散った。

 残ったフォレストウルフCが首のナイフを抜くのを諦め、私に向かってくる。

 フォレストウルフの大きさは私と同じくらい。ただ、明らかにフォレストウルフの方が重い。その身体で私に飛びつき、組み付いて首を狙ってくるつもりだろう。

 私もそんな簡単な方法でやられるつもりなんて毛先ほどもない。左脚で地面を蹴って、横跳びに避け、再びフォレストウルフCと向き合う。

 再度フォレストウルフCが私に向かって飛び掛かってきたのを、今度は街道に築かれた柵を蹴って横からフォレストウルフCを蹴り飛ばす。

 私が蹴ったのは突き刺さったスローイングナイフの柄の部分。


「キャンキャンッ!」

「あ、ごめん……」


 狙ったんだけどね。

 蹴られた勢いと、更にナイフが根元まで刺さった痛みのせいか、フォレストウルフCが転げまわった。

 私は何も言わずツカツカと近づき、アイアンダガーをフォレストウルフCの胸に突き立てた。

 瞬時にフォレストウルフCはポリゴンに変わり、砕け散った。


《90リーネを入手したのです。

 フォレストウルフの魔石×3を入手したのです。

 フォレストウルフの毛皮×1を入手したのです。

 フォレストウルフの牙×1を入手したのです》


「犬とかオオカミは辛抱強いっていうから、そんなにキャンキャン言わないと思ってたのに……あなたもそう思うでしょう?」


 私は振り返ると、視線の先にいた大きな影に向かって言った。

 日が陰ってきた森の中、その魔物は赤い目を輝かせ、ダラダラと涎を垂れて私を見つめ返す。


「汚いなあ……」


 こいつがメインクエストで戦う最初のボス、バトルウルフだってことは見ればわかった。だって、フォレストウルフの3、4倍はありそうな体躯をしているからね。

 漆黒という言葉が似合う黒い体毛に、私の脚ほどもある長さの爪、口元に見える長く太い牙。バトルウルフという名前に負けない、堂々とした佇まいをしていると思う。涎が無ければね。


「ウォォォォオオオオン!」


 バトルウルフが私との戦いの前に遠吠えすると、その遠吠えに呼応するかのように、フォレストウルフが集まってきた。

 10、20、30……その数は見る間に増えていく。


 ヤバいことになってしまった。さすがに私が1人で相手にするには多すぎる。


 でも静寂の森でフォレストウルフたちをまとめているだけあって、バトルウルフの前に立とうとする個体は1頭もいない。すべて、バトルウルフの後ろでこちらを見ている。


「よくできているわねえ……」


 野生のオオカミは必ずボスが先頭に立ち、他のオオカミはボスの前に出ることがない。それがオオカミや犬が集団で生活するうえでのルールであり、習性らしい。私はペットを飼ったことがないけれど、盲導犬を含め、上手にしつけられた犬は散歩の際は飼い主の前を歩こうとしないというからね。

 オオカミや犬の習性までしっかりとAIに組み込んでいるなんて、ゲームの作りこみが半端じゃないよね。

 でも、一斉に掛かってこられないから、こちらとしては好都合ね。


「ガウッ!」


 バトルウルフが吼えた。どうやら私の実力を試そうと、近くにいたフォレストウルフで力試しをするつもりらしい。

 戦闘モードになって、二頭のフォレストウルフの頭上にHPゲージとフォレストウルフA、Bの名前が表示された。


 私は面倒だなあとは思いつつ、少し本気を出していくことにした。

 バトルウルフに舐められて、雑魚のフォレストウルフばかりけしかけられてもたまらないからね。


 私が左右のナイフをギュッと握りなおすと同時、二頭のフォレストウルフが私に襲い掛かってきた。

 まず私はフォレストウルフAが飛び掛かってくるのを左へとステップして避けた。すれ違いざまに右手のアイアンダガーで下から突き上げるようにしてフォレストウルフAの喉笛をかき切り、返す手で首元に突き刺した。これだけでフォレストウルフAのHPゲージは残り2割にまで減少した。だが、ほぼ同時にフォレストウルフAを飛び越え、フォレストウルフBが私に覆いかぶさるように飛びついてくる。その顎を下から蹴り上げた私は、体勢が崩れたフォレストウルフBの喉に左手のアイアンナイフを突き刺した。フォレストウルフBのHPゲージは7割削れ、残りは3割ていどにまで減った。

 だが、2頭のフォレストウルフは、「キャイン」という悲鳴を上げることも、痛みを堪える「ヒーン」という声も出すことなく、ただ私に立ち向かおうと立ち上がる。

 バトルウルフの命令に従う以上、他のフォレストウルフの士気が下がるようなことはできないのかな。


「敵ながら天晴だね」


 HPが半分以下になり動きが鈍ったフォレストウルフAとBに対し、私は素早く近づくと、共に眉間に止めを刺した。


《60リーネを入手したのです。

 フォレストウルフの魔石×2を入手したのです。

 フォレストウルフの毛皮×1を入手したのです。

 フォレストウルフの爪×1を入手したのです》


(ドロップアイテムは都度言わなくていいよ。タイミングを見てまとめて言ってくれればいいわ。あと、これから戦闘に入るから簡易な命令になるけど許してね)

《とんでもないのです。簡易コマンドを戦闘モードとして記憶したのです》

(戦闘モードは口調を丁寧におねがい)

《承知しました。口調を丁寧に変更しました》







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