第19話 フォレストウルフ戦(1)

 紫の靄が渦巻く街道に足を踏み入れると、早速フォレストウルフが気付いてやってきた。最初は2頭。シベリアンハスキーほどの大きさがあり、更に顔つきを凶悪にした感じだ。

 戦闘モードに入ったせいか、左のフォレストウルフの頭の上にフォレストウルフA、右にフォレストウルフBと表示され、HPゲージが現れた。


 私は即座にスローイングナイフをフォレストウルフAの額にめがけて投げた。スキル補正が掛かってナイフは一直線にフォレストウルフの眉間に向かって飛んでいく。


「キャインッ!」


 私はこちらに向かって駆けよってくるオオカミに当たるとは思っていなくて、牽制になってくれればいいと思って投げたんだけど、見事に突き刺さってくれた。

 フォレストウルフAにナイフが突き刺さった瞬間、“Critical!!”の文字がフォレストウルフAの頭に表示され、HPゲージが残り1割にまで一気に減った。


「ゲーム補正とスキル補正のおかげね」


 加えて言うなら、ロビンさんの作ったスローイングナイフが優秀ってことかな。

 私は地面を蹴って街道横に連なる柵に足を掛け、高くジャンプした。およそ2ⅿほどの高さに飛びあがると、慌てて静止したフォレストウルフBは空に飛んだ私を見上げていて、その無防備な顔を晒していた。

 私は2本目のスローイングナイフを腰から抜き、再び眉間を狙って投げた。


「ギャンッ!」


 高低差のせいか、先ほどより勢いを増したナイフが右目に突き刺さった。フォレストウルフBのHPバーが5割削れた。

 痛みに飛び退いたフォレストウルフBが勢いよく街道のフェンスにぶつかる。私はフォレストウルフBに駆け寄り、逆手に持ったアイアンナイフを首筋に突き刺し、右手のアイアンダガーで喉笛を切り裂いた。

 アイアンナイフの突き刺しでHPバーが更に半分になり、アイアンダガーでHPは0になった。

 バシュッという音と共に、フォレストウルフBがポリゴンに変わり、砕け散った。

 残るは最初にナイフが刺さったフォレストウルフA。既に朦朧としているのか、少しずつHPが減ってきていた。私はフォレストウルフAの背後に回り右手のアイアンダガーで首の付け根に突き刺した。

 フォレストウルフAはHPバーが0になり、ポリゴンになって砕けた。


《60リーネを入手したのです。

 フォレストウルフの魔石×2を入手したのです。

 フォレストウルフの毛皮×1を入手したのです。

 フォレストウルフの爪×1を入手したのです。

 スローイングナイフを回収したのです》


「最初の戦闘は2頭ね、次はもっと増えるのかな」


 視線を上げると、少し先に3頭のフォレストウルフがいるのが見えた。


「かかってきなさい」


 ツカツカと3頭のフォレストウルフがいる場所に近づいていくと、私はスローイングナイフを構えて言った。

 フォレストウルフがその言葉を理解したのか知らないけど、3頭が戦闘モードに入った。左から順にABCの名前がついて、HPゲージが表示される。

 中央にいたフォレストウルフBがまず駆け出し、私に向かって飛びついてくる。AとCの2頭はタイミングを合わせたかのようにその後ろからやってきた。

 私はまたスローイングナイフを抜いて、フォレストウルフBに向けて投げ、そのまま街道のフェンスの上に飛び乗った。

 スローイングナイフはまたフォレストウルフBの右目に突き刺さる。


「キャインッ!」


 オオカミらしい悲鳴が響き、フォレストウルフBが怯む。

 私は再びフェンスを蹴って空中に飛び出す。フォレストウルフAとCは私を目で追っているので、また腰からスローイングナイフを抜いて左右の手で投げつけた。

 左手の精度はよくないのか、フォレストウルフAに向けて投げたナイフは前脚の付け根に突き刺さった。右手で投げたナイフはフォレストウルフCの首筋に深く突き刺さった。


「キャンッ!」「キャンキャンッ!」


 明らかに2頭の動きが鈍る。前脚にナイフが刺さったフォレストウルフAは前脚を引きずっているし、首筋に刺さったフォレストウルフCは「ヒーンヒーン」と悲し気な声を出してナイフを抜こうとしている。


(普通ならナイフが抜けると失血死すると思うけど、ここはゲームだしなあ)

《規制があるのです》


 魔物を倒せばポリゴンになって爆散する。

 アルステラはリアルな表現に拘ったゲームだけれど、VRMMORPGでは出血を含むグロテスクな表現は規制されているんだよね。非常にリアルに表現された世界でリアルにグロテスクな部分まで再現すると、プレイ中に失神する人が出たりする。それに、「動物や人を殺める」ということへの抵抗感が減るということもあって、倫理的にも規制をせざるを得なくなったというのが理由らしい。

 ただ、そのせいで出血量などは見てもわからないので、プレイヤーからは「残念だ」という声が多くあがっている。


 念のためフォレストウルフに止めを刺すことにし、私は2本のナイフを抜いて構えた。

 右目にナイフが刺さったフォレストウルフBが果敢にも私に向かって噛みついてくる。私は屈んで右手のダガーを下顎から頭に抜けるように突き刺し、蹴り飛ばした。フォレストウルフBは宙を舞いながらポリゴンになって砕け散る。


「まず1頭……」


 次に前脚にナイフを刺したフォレストウルフA。私が近づくと後退あとずさるが、逃がしはしない。1歩、2歩と地面を蹴って私は高く飛んだ。







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