第18話 女性エルフ
街道入口の方に到着すると、たくさんのプレイヤーが座り込んでいた。
(どうしたんだろう?)
何人かはビギナーシャツを着ている人がいるが、私のように上下揃っている人はいない。それどころか、ほとんど全員が初期装備のままの格好をしている。
「ねえ、あなた。その装備はどうしたの?」
突然、背後から声を掛けられた。慌てて振り返ると、そこには金髪碧眼で尖った長い耳をした女性エルフさんが立っていた。
「ねえ、聞いてる? あなた、その装備はどこで手に入れたの?」
「装備って、どれのことです? その前に、どちらさまですか?」
「あ、ごめんなさい。私はローラって言うの。見てのとおりエルフ族よ」
「私はハーフリングのアオイと言います。とりあえず、服はチュートリアルで貰ったビギナーシャツと、ビギナースカートですね」
一瞬、私たちの会話を聞いていた人たちの間がざわついた。
「え? ちょっと待って、あの鬼畜なチュートリアル応用編をクリアしたの?」
「ええ、確かにちょっと難しかったかな」
「マジかおい……」
あ、流石女性エルフ……。今の話し方は地がでたよね。
なんて思っていたら、他の人たちも私のまわりに集まってきた。
「あのクエストを終わらせたのかよ。すげえな」
「その報酬がそのスカートなの?」
「男物はどんなのか知ってるか?」
みんなで同時に質問されてもわかんないよ。私、聖徳太子じゃないんだから。
「待って! ちょっと待って! 私が話してるんだからあんたたちは黙ってなさいよ。代表して聞いてあげるから」
女性エルフのローラさんが場を取り仕切ってくれるようだ。
他の人たちも渋々といった感じで黙り込んでしまった。
「とりあえず知りたいのは装備のこと。他の装備はどうしたの?」
「グローブとかこの胸当てとかですか?」
「ええそうよ」
「ナツィオの町で受けるクエストがあって、それで貰いました。あと、このナイフは職業ギルドのクエストですね。クエストやっていれば、いろいろともらえますよ」
「そうなのね。正式版からクエストが実装されたのは知っていたけど、町にいろいろあるのね。あと、メインクエストはどこで受けるのかしら?」
なんか、他の人たちがすごくざわついてる。
すごく注目されているみたいだし、どんどん他の人たちが集まって来てる。
まあいいか、とりあえず話しちゃおう。
「最初に門番のパウルさんと話をすることですね。それから冒険者ギルドで登録すること。町ではクエストを9個受けられるから、それを全部終わらせてください。すると、ギルド長が特別にDランクにしてくれます。Dランクになると、メインクエストが受けられますよ」
「マジかあ……」
ローラさん、いや他の人たちもすごく残念そうな顔をしてる。
でもマジなんだよね。
「テレポは覚えてます?」
「テレポ?」
「ええ、テレポ。ナツィオの町の広場にあるポータルコアを登録すると、フィールドや他の町から一瞬で移動できるんですよ」
「え、そんなのあるの?」
「あります」
「マジかあ……」
「マジですよ」
「あんた、いや、アオイさん。レベルいくつ?」
「私は今、13ですね」
「えええ、クエストしかしていないのに?」
「失礼なっ! 多少はフィールド出て野兎を倒したりしましたよ?」
野兎3匹と、ヒュージスライムだけだったけど……さっき、タイニーエイプを1匹倒したもん。
「まあ、戦闘経験は少ないのは間違いないですけど……」
「でもね、私、さっきまでずっとMOBを倒し続けてやっとレベル9よ? 他の人も似たり寄ったりじゃないかしら」
《レベル9までに必要な累積経験値は985なのです。4人組でのパーティプレイの場合、350匹ほどのMOBを倒す必要があるのです》
(ナイス説明!)
思わずナビちゃんを褒めた。とてもいいタイミングで、完璧な情報提供……有難いね。もしかして、AIだから成長してる?
「そ、そうなんですね……クエストで経験値も貰えますし受けた方がいいですよ」
「うん、メインクエストを受けるには町で9つのクエストを受けて終わらせる……でいいんだね?」
「そうですよ。最初はパウルさんのところから。冒険者ギルドとポータルコア、職業ギルドの登録をするクエストですね。あと、最初の方に受けておくといいのが雑貨屋にいるテオさんの地図更新クエストです」
地図更新クエストは実質、修行のようなものだからね。頑張って欲しいと思う。
「ありがとう、助かったわ。私たちも町に戻ってクエストを受けてくることにするわ」と、ローラさんが言った。
他の人たちからも何故か感謝された。
これは完全にメインクエストが受けられずに森の中に入れなかった感じなんだろうね。
「うん、それはいいんだけど……どうしてみんなここにいたの?」
「町でいくつかのクエストは発見されているのよ。でもね、メインクエストだけは始まりがわからなくて、メインクエストを受けてきた人が現れるのを待っていたの」
「なるほどね。確かにわかりにくいもんね……」
サブクエスト全てのクリアがメインクエストスタートの条件だなんて、誰も思わなかったでしょうね。特に、あの地図クエストはかなり大変だから受けるのも躊躇う人が多いと思う。だから余計に進まない感じなのね。
「じゃあ、私たちも町に戻るわ。ありがとうね」
「いえいえ」
ローラさんは手を振って、ナツィオの町のある方向へと走って行った。先にパーティメンバーたちもいるのだろう。
最初はいきなり「あんた」なんて呼ばれてムッとしたけど、中身の人はいい大人だから落ち着いたらちゃんとしてたね。
《ローラからフレンド申請が来ました。許可しますか?》
(保留で!)
《ローラからのフレンド申請を保留しました》
会社は選べるけれど、入ってしまえば上司や部下は選べない。でも常に友だちは選べるからね。私はちゃんとお話をして選ぶ主義なんだよ。
それにこのままだと情報だけ搾り取られて、自分には何のメリットもないなんてこともありそうだもの。まあ、とにかく友だちになるにはもっとお話をしてからね。
静寂の森の前が静寂になったわ。たぶん万人単位でこの入口に来ていたのだろうけど、今は人っ子ひとりいない。
みんな本当に困っていたんだなあ、と思いながら私は街道入口に向かった。
真っすぐに延びてきた街道が、森の入口から先は紫色の靄のようなものに覆われている。
中に一歩踏み込もうとしたとき、ナビちゃんの声が脳内に響いた。
《クエスト「バトルウルフを討伐しろ!」が進んだのです。バトルウルフ討伐戦に入るのです。いいのです?》
(もちろん、はいですよ)
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