第17話 商人を探して

 静寂の森に近い場所まで来たとはいえ、レオポルドさんの話だとタイニーエイプは森の中で暮らす獣だったはず。それが草原で現れたので私は少し違和感を受けた。


(ねえ、どうして草原にタイニーエイプがいるの?)

《クエストにあったとおりなのです。縄張り争いの影響なのですよ》

(やっぱりそうなんだ)

《職業クエストでアイアンダガーを入手しているのです。装備の見直しができるのです》

(あ、お任せでお願いします)


 ベルトに装着されている2本のナイフが入れ替わったのがわかった。

 右手にアイアンダガー、左手にはアイアンナイフという構成になったんじゃないかな。


「えっと、レオポルドさんから貰った地図だと、この先あたりにタイニーエイプの集落がある、と……」


 森の外周に生えている木に近づいた私は、チュートリアル応用編で覚えた身体操作で木の上に登った。とても太い木が何本も生えているので、ビルの間を左右に飛びながら登るのと同じように、ただ蹴りながら上がるだけなので簡単だ。軽い身体に感謝しないといけない。

 木の上に登ると、今度は他の木の枝を伝って幽寂ゆうじゃくほこらの方向に向かうため、森の奥へ移動した。

 途中、隣町であるグラーノに繋がる街道が見えた。歩いている人、馬車や馬に乗る人がおらず、フォレストウルフらしき魔物の姿だけが見えた。

 そのまま街道に沿って移動していると、街道が分岐しているところに到着した。


《左がグラーノ、右が幽寂の祠への道なのです。幽寂の祠は、太古の昔に邪神の一部を封印した場所とされているのです》

(へえ、そこはダンジョンになっているの?)

《現在はダンジョンではないのです》


 ナビちゃんはAIなので正直だよね。今はダンジョンじゃない……ってことは、何かの理由でダンジョンになるのか、昔はダンジョンだったのかのどちらかだと私は考えちゃう。

 まあ、現在はダンジョンじゃないし、クエストにも関係しないなら行く必要はないかな。ただ、この祠の方向に商人さんたちが逃げている可能性があるんだよね。


 祠の方向へと木と木の間を飛び越えながら移動していくと、3台の馬車が狭い石畳の路上に止まっていた。

 馬車のうち2台は荷物専用の荷馬車、もう1台は乗合馬車のようだ。その馬車を周囲を囲むように並べ、その中心に集めた薪で暖を取っている人たちがいた。周囲を警戒している人たちを含めると、合計14人くらいはいると思う。


 私は木の枝を使って下まで一気に下りて、声をかけた。


「こんにちは、私はD級冒険者のアオイと言います。皆さんはナツィオに向かう商人の方々でいいですか?」


 人々が小声で言葉を交わし、一瞬だけその場がザワついた。だが、1人の男性が前に出たことで皆が落ち着きを取り戻す。


「私はグラーノの商人、オスカーと申します」


《メインクエスト「静寂の森にいる商人を探せ!」を達成したのです。

 経験値の上昇を確認したのです。

 レベルが上がったのです。

 レベルが13になったのです。

 5,000リーネを入手したのですよ》


 おっと、そういえば報告先は「商人オスカー」になっていたね。まずは見つけるまでのクエストということだったんだ。ということは続きがあると思うんだけど……。


 そんなことを考えている私を無視するかのようにオスカーは話し続けた。


「実は、グラーノからナツィオの町に向かう途中、フォレストウルフの群れに襲われましてね。街道を曲がってこちらへと逃げてきたのです」

「誰も怪我などはありませんか?」

「全員がそれなりの怪我をしていたんだが、初級治療薬が足りなくてね。1人、あちらの方が軽傷だからと後回しにしてくれたんだ……」


 オスカーさんが指さす方向には30歳くらいの夫婦らしき2人組がいて、夫の方が左腕を怪我していた。傷は塞がりかけていているようだが、傷の中央あたりはまだ血が滲みだしている。


 普通なら縫うくらいの怪我だと思うけど、そうだ。


「じゃあ、これをあの方に渡してあげてください」


 私はインベントリに入っていた初級治療薬を取り出し、オスカーさんに手渡した。


「これは、初級治療薬じゃないですか。いいんですか?」

「放っておくと化膿かのうするかもしれませんからね。少しでも早く治療する方がいいと思いますよ」

「君の言うとおりだ。少し待っていてくれ」


 オスカーは怪我をした男性のいる場所に急いで向かうと、2人に初級治療回復薬を手渡した。

 初級治療薬を受け取った2人が何度もこちらに頭を下げてくる。正直、早く使った方が良いと思うんだけどね。


「すまない。ところで、アオイさんはここにくる間にフォレストウルフの群れに襲われなかったのかい?」

「私は木の上を移動してきたので特には……でも、群れで動いているフォレストウルフが街道にいるのは見ましたよ」

「フォレストウルフの統率をしているのはバトルウルフという魔物なんだが、そいつを退治すればフォレストウルフも森の中に戻っていく。

 君はD級冒険者なんだろう? バトルウルフの討伐を頼めないか?」


《メインクエスト「バトルウルフを討伐しろ!」が発生したのです。クエストを受けるのです?》


  クエスト番号:M-002

  クエスト種別:メインクエスト

  クエスト名:バトルウルフを討伐しろ!

  発注者:商人オスカー

  報告先:レオポルド

  内 容:静寂の森の街道を塞ぐ元凶、バトルウルフを倒す

  報 酬:経験値500×2 貨幣5,000リーネ ??????


「やってみます!」

《メインクエスト「バトルウルフを討伐しろ!」を受注したのです。静寂の森の街道にいるバトルウルフを倒すのですよ!》

「ありがとう、君ならバトルウルフを倒せると信じている。ただ、こちら側から行くとフォレストウルフがたくさんいるはずだ。我々もグラーノからやってきて、前に進める状況じゃなくなったからこちら側に逃げてきたくらいだ。間違いない。

 逆に森を抜けて、ナツィオ側の街道入口から入った方が楽に戦えるだろう。是非そうしてくれ」


 ここに来る途中に見えたけれど、確かにフォレストウルフの群れが街道をうろうろとしていたからね。あれを殲滅してからバトルウルフと戦うなら、確かにナツィオ側の街道入口に戻った方が良さそうね。


「ありがとうございます。行ってきます」


 私は「気をつけて!」というオスカーさんの声を背に、再び木の上に登ると枝伝いに森の外に向かった。






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