第16話 マッピング
「今日はここまでだ。次はマッピングを覚えたら来なさい」
「あの、マッピングも覚えました」
「なに? そうか、ではこのまま課題に進むとしよう。ついてきなさい」
私は頷くと、バートさんについて歩いて行った。
今度は、訓練所の中にある階段を下りていく。
「ここから地下水路の中に入ることができる。マッピングのスキルを使って地下水路の地図を作り、私の部屋に持ってきなさい」
《職業(スカウター)クエスト003が発生したのです。受けるのです?》
クエスト番号:SC003
クエスト種別:職業クエスト
クエスト名:未踏の地の地図を作れ
発注者:バート
報告先:バート
制 限:スカウター レベル10以上
内 容:地下水路の地図をマッピングスキルを
つかって作成する
報 酬:経験値 750×2 1,500リーネ アイアンダガー
「はい、頑張ります!」
私が返事をすると、ナビちゃんがいつものようにクエストの受託を宣言してくれた。
クエストが始まるとバートさんはくるりと向きを変え、自室の方へと向かって行った。
《レベル10になったのです。装備品の見直しができるのです》
(そうね、最強の組み合わせにしたらどうなるかな?)
《試着モードを使用するのです。現在着用している装備、インベントリの装備を組み合わせるとこうなるのですよ》
アオイのアバターが試着モードで視界中心に表示された。
(右手)アイアンナイフ(ATTK+15)
(左手)なし
(頭)レザーキャップ(INT+10)
(体)ビギナーシャツ(MND+10)+皮の胸当て(VIT+10)
(腰)レザーベルト(STR+5)+スローイングナイフ(5)
(脚)ビギナースカート(VIT+10)
(手)レザーグローブ(DEX+10)
(足)ビギナーブーツ(AGI+10)
(耳)冒険者のピアス(経験値2倍)
(首)なし
(腕)なし
(指)スカウトリング(AGI+10)
「えっ!?」
私はある項目に目が留まり、つい声をあげてしまった。
《どうかしたのです?》
(冒険者のピアス、経験値2倍って……)
《今頃気が付いたのです?》
(これでレベルが上がるのが早かったんだね。まさかチートアイテム?)
《チュートリアル報酬なのです。クリアすれば誰でも貰えるものなのですよ》
(へえ、じゃあ他のプレイヤーも同じってことなんだね。びっくりしたよ)
私は耳に装着されたピアスを触りながら、試着内容を再確認した。
(あれ、綿の服って貰わなかったっけ?)
《ビギナーシリーズは付与効果が高いのです。だから、そのままにしているのですよ》
(了解。左手が空いてるけど、盾とか持つ感じかな?)
《両手にナイフを装備することも可能なのです。その際の攻撃力は右手で計算されるのです。左手装備時の攻撃力は、右手に持つ場合の75%になるのです。左手にもナイフを装備するのです?》
なんか、盾って丸いのとか、四角いのとか、いろんなのがあると思うんだけど、高い敏捷性を使って戦うスタイルなら、盾が邪魔になる気がするんだよね。とりあえず、お試しで左手にもナイフを持ってみようかな。
(うん、左手に初心者のナイフを持つ感じにしてくれる?)
《試着装備を変更したのです》
うん、皮の胸当てがつくと強そうに見えるし、腰のベルトには2本のナイフとスローイングナイフが装着されてて格好いい。
ただ、レザーキャップは可愛くないなあ。キャップっていっても、野球帽みたいじゃなくて鍔がないからかな。
(頭装備を見えなくするってできる?)
《はい。頭装備を非表示にするのです?》
(うん。そのまま着用でお願い)
《装備を一括変更したのです。スキル<双剣使い>を取得したのです》
今まで、目の前でアオイが着ていた装備一式が反映された。一気に腰のあたりに重みを感じるけれど、ステータスが上がっているのもあって、全く苦にならない。
新たに<双剣使い>というのを取得したのは気になるけど、まずはこの格好で地下水路のマッピングをすることにしましょう。
スペインなんかだと断崖の町みたいなのがあるけど、そういうところは遠くから水路を作り、その上に町を作っていたりする。このナツィオの町も東にある川の源流から水路を引いて、その上に町を作ってあるようだった。
マッピングスキルは、どうやらこのような水路やダンジョンの中で歩いたところを地図に起こすものらしい。ただ歩くだけで視界の中に開いたマップの中に書き足されていくのがとても楽しい。
小一時間ほどで地下水路の地図が完成した。
私はそれを持って、バートさんの部屋に戻り、報告を済ませた。
《クエスト「未踏の地の地図を作れ」を達成したのです。
経験値の上昇を確認したのです。
レベルが上がったのです。
レベルが12になったのです。
1,500リーネを入手したのです。
アイアンダガーを入手したのです》
おおっ、またレベルが上がった。
「次は、罠解除を覚えたら来なさい」
「はい、ありがとうございました」
私は礼を告げると、職業ギルドを出た。予定通りレベルが10に、いや12まで上がったからね。メインクエストを進めようと思うんだ。だって、ナツィオの町にはもうレベル15のクエストしか残っていないし、まだ戦闘経験が全然積めていないからね。
門の前でパウルさんと挨拶を交わし、町を出た。
相変わらず町の外には人が多い。入口に立って眺めている間にも新たにログインしてきた人たちが飛び出し、片手剣やら斧を手に野兎に襲い掛かっている。中には魔法職らしき人もいるし、弓を背負って走っている人もいるね。素手で殴っているのは何の職業の人かな。
不思議なのは皆さん、民族装備のままなんだよね。私のようにビギナー装備を着ている人がいない。まあ、私のメッセージボックスに届くのも少し時間がかかったからね。たぶん、サービス開始直後で処理に時間がかかってるのかもね。
さて、街道沿いに進めばグラーノに着くことは知っている。まずは静寂の森のあたりまで急がないとね。
私はいつものように駆けだした。
「うぇぇえっ! 野兎の肉を取りに来た時よりも速くなってる!!」
現実世界で私が本気で走っても時速10㎞も出せればいいところだけど、今の速度はたぶん世界記録レベルだと思う。
「アハハッ!!」
思わず笑い声がこぼれるほど速い。視界に映る人たちを避けながら走る余裕があるのに、恐ろしく速いんだもん。
あ、初めてみるMOBだ。ちょっと戦ってみるかな、とその前に簡易鑑定だね。
名前:レディバグ
レディバグってことはテントウ虫だよね。確かに見た目はそうなんだけど、大きさが直径60㎝くらいあってメチャクチャ気持ち悪いかも。
でも、レベル12の私からすると、雑魚MOBでしかないんだけどね。とりあえず倒してみようかな。
「それっ!」
腰から抜いたアイアンナイフで切りつけると、一撃でポリゴンになって消えていった。
《アイテム「
何に使うのかわからないけど、黄色い液体が入った瓶がドロップした。
ゲームだからね、瓶まで用意されてるのはありがたい。けど、何に使うんだろうね。
名前:瓢虫の血
用途:錬金術で使用する
簡易鑑定だとこの程度の情報しか出ないのね。でもまあ、錬金術で使うなら持っていて悪くないかな。
街道を進んでいくと、他にも獣や魔物が現れた。スライム、大きな栗鼠のヒュージスキュラス、口先が尖ったネズミのようなシュルー、巨大なエリンギのようなフングス。特にコエラスという獣がカピバラに似ていた。大きさは倍以上あったけどね……。
更に進むと突貫羊やガルムといった、大人の人間よりも大きな獣が出てくるようになった。さすがに大勢の人たちがパーティを組んで狩りをしていた。ほとんどがファイターとアタッカー、ウィザード、僧侶の組み合わせだったけど、ファイター2人、ハンター、僧侶の組み合わせみたいなのもいた。
魔法使いがファイアボールを放つのを初めてみたけど、なかなかの迫力だね。そういえば、私も魔法を覚えられるはずなんだけど……まあいいかな。
気が付くと街道から少し離れた場所に来ていた。
静寂の森の近くにまでやってくると、フィールドに出たタイニーエイプに出会った。キイキイと大きな声で叫んでは石を拾って投げつけてくる。間合いを詰められるのが嫌なのか、一定の距離を保とうとしてくるのが面倒臭い。
私はスローイングナイフを腰のベルトから取り出し、スキルに任せて投げつけた。剣先がゆっくりと大きな弧を描き、タイニーエイプの首に突き刺さった。
先ほどまでキイキイと鳴いていたタイニーエイプだけど、喉に穴が開くと息ができないようで、声が出なくなった。
私は一瞬で背後を取ると、アイアンナイフを後頭部へと突き刺した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます