幕間 配信エルフの1日(1)
「はい、始まりました。ゲーム配信チャンネル『ローラブランド』の始まりのお時間です!」
俺はログイン直後のナツィオの町でゲーム仲間と集合して、ゲーム配信を始めた。
ローラブランドとは、〝ローラ+ラブ+ランド〟と〝ローラ+ブランド〟の2つの言葉を意味する俺の配信チャンネルの名前。チャンネル登録数は100万人を越えているので、中堅に指が掛かりそうなくらいの位置にはいると思っている。
【山羊おにぎり】「お、始まった」
【Robert'T】「おはようございます」
【Yōushì’X】「こんばんは」
【Nguyen'G】「待っていたよ!」
…………
配信も自動翻訳されるから、全世界に視聴者がいる。だから、チャンネル登録数は高くなるんだよね。実にありがたい。ただ、ちょうど朝を迎えた国の人や、既に夜になっている人たちなどバラバラなので挨拶もバラバラだ。
「ご視聴、ありがとうございます。今日の配信は、日本時間の21時にサービス開始した『アルステラ』からお送りしますよ。さっきまでキャラメイクとチュートリアル編を配信していたから、そちらから続けて視聴してくださっている方も、ありがとうございます」
【Jose'R】「美しいエルフさんだね」
【ツナマヨ】「ええんやで」
【George’M】「配信が楽しみです」
…………
「そうそう、私はいつものようにエルフを選んだよ。美を追求する者としてはヒト族もいいけど、やっぱりエルフなのよね」
【にがい棒】「80%は中身おっさん」
【Allan'M】「何て魅力的なんだ」
…………
「キャラメイクの時にも言ったけど、好きな種族と性別を選べばいいのよ。ロールプレイングゲームなんだから、どんな自分をロールプレイしていくかも楽しみの1つなんだし」
まあ、実際に俺も男だ。でも、普段から女装するなんてことはしていない。外見的に理想の女性を作りだし、理想の女性を演じることでゲームを更に楽しむ。それが俺の楽しみ方だ。
さて、こうして外見の話ばかりしていても時間がもったいないので、ゲームを先に進めることにしよう。
まずは、パーティメンバーの紹介だ。
「じゃあ、アルステラを一緒にプレイしてくれるメンバーを紹介するよ。最初は猫人族のミャーコ」
「ミャーコですにゃ。武器はこのナックルにゃよ、よろしくですにゃ」
「もうロールプレイに入ってるみたいね、すごい気合だわ」
「毎回、すぐに失敗するからにゃ。今日は一度も語尾を忘れないにゃ」
「はいはい」
ちょっとしたトラブルなどでつい普段の言葉がでるのはよくあること。
それがミャーコの場合は10分も続かないから性質が悪いんだけどね。
「次はヒト族のヒロキ」
「ヒロキっす。前衛職をやらせてもらいます。よろしく」
ヒロキの口調が硬い。登録者数100万超えのチャンネルに出演するというので、緊張しているんだろう。キャラメイク後の休憩時間も俺に「心配だ」と、P2Pトークを送ってきていたし。
【John'J】「落ち着いて。深呼吸は大切」
【肋骨戦士】「リラックスしいや」
…………
「たくさんの人に配信されるからかな、かなり緊張しているみたいですね。お願いだから心拍数上げ過ぎて強制ログアウトって事故はだけはしないでね?」
「ど、どど、努力します」
「最後はヒト族のタカサンさん」
「タカサンでいいですよ。僧侶やります、タカサンです」
【Maria'P】「よろしくおねがいします」
【Péngmèi'Y】「がんばって」
【マグナム】「よろ~」
…………
さて、メンバーの紹介も終わったところだし、まずはこのゲームについての説明からね。
「次に、このアルステラというゲームを簡単に説明するわね。創造神アルスが作った星に、大地、水、天空、火の神が生まれ、それぞれの神々が新たに神や眷属を作って栄えてきたとされてるの。しばらくは平和が続いたけれど、光の神と同時に生まれた闇の神が反乱を起こして邪神になってしまった。神々は協力して邪神を倒すんだけど、その邪神の眷属が暗躍して平和な世界に争いが起こる……そんなストーリーね。全体はまだわからないけれど、私たちプレイヤーはいつか復活する邪神を倒すのが使命みたいな感じ。そのキーワードがゲームのサブタイトル『優渥なるアポストル』だと思うわけ」
【粘土のたらこ】「ふむふむ」
【Robert'T】「恵み深き使徒」
【添い寝マグロ】「アポストルは使徒?」
【山羊おにぎり】「ほええ」
…………
外国版のサブタイトルを読み上げると、再度翻訳されちゃうから意味を説明しなくて済むのは楽でいい。でも正直なところ、オープニングムービーはまだバージョンが若いこともあって、いい情報がないんだよね。
「そうそう、その『使徒』というのが私たちプレイヤーを指すのか、それとも登場するNPCなのか、これからプレイして理解していくわけだけど……なんか騒がしいわね」
『そこで何か揉めてるみたいにゃ』
『白い虎人族の大男と、小さいハーフリングが喧嘩してるっぽいな』
ニャーコが指さした方向を見ると、確かにハーフリングの女の子が虎人族の男を睨み上げていた。そこに、黒い豹人族の男が割り込んで制止している。
「おい、やめとけ。正式サービスで新しい種族が増えただろうが」
「なあ、この身長であのでかい魔物と戦えると思うか?」
「知らねえよ、それよりレベル上げにいくぞ」
「そういや、正式サービスで全リセットのやり直しだったな。とっととレベル上げに行くか」
どうやら喧嘩を吹っ掛けたのは虎人族の男らしく、それを知人の豹人族の男が止めたところらしい。
「おうよ! 俺さ、ベータの最終日にいい狩場を見つけたんだぜ、行ってみるか?」
「そりゃ行くしかないだろう」
虎人族と豹人族の男たちは2人並んで町の外へと駆けだしていった。それに釣られるように他のプレイヤーたちもどんどんと町の外へ向かっていく。
「皆さん、ごめんなさいね、スポーンする場所に近かったからどうしても騒がしくなっちゃうみたい。それにしても、初日からギスギスさせてほしくないものね」
しばらく揉めている様子を見つめていたけれど、俺は配信中であることを思い出してカメラに向かって話しかけた。
視聴者数を確認すると、約54万人もの人たちが配信を見てくれている。
今日サービス開始のゲームを配信するから、期待されているんだろう。
【Maggy'B】「そうだね。その気持ちはよくわかるよ」
【にがい棒】「わかりみ」
【マグナム】「ハーフリングの子、かわよー」
【Nguyen'G】「それよりも、『いい狩場』が気になります」
確かにハーフリングの女の子はかわいい。銀髪で前下がりボブという髪型、淡い青色の瞳がクールな感じを表現しているようで、小さいのに大人っぽさのようなものを感じさせる。
それはいいとして、そろそろゲームを進めないとね。豹人族の男が言っていたように「いい狩り場」というのがあるなら、俺たちもご相伴にあずかりたい。町の紹介はあとにして、とりあえずエリアボスを倒すのを優先するとしましょう。
「確かに『いい狩場』という言葉が気になりますよね。ベータテストのときはこのゲーム内にクエストは殆ど実装されていなかったので、いきなり町の外に出て戦うのが一般的のようです。ほら、みんなもスポーンしたらすぐに外に向かっています」
『ミャーコたちも外に行くのにゃ』
『とりあえず行ってみるか?』
「町の紹介だとかは後でやるとして、とりあえず町の外で狩りをしてみましょうか」
待ちきれないと言った感じでパーティメンバーたちが催促するので、当初予定していた最初の町、ナツィオの紹介は後回しにして俺たちは外に向かった。
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