第4話 種族を決めよう

 画面はゆっくりと切り替わった。そこは、真っ暗な空間の中に浮かぶ研究室のような場所。宙にモニターが浮かんで何か文字が表示されているし、計器やスイッチがたくさんついた機械などが並んでいる。

 正方形に切り出された大理石のような石が床に敷き詰められていて、嫌でもここがメタバースの中だということを思い知らせてくれる。


《はじめましてっ! アルステラの世界へようこそなのです! 私はプレイヤーをサポートするために作られた機械精霊なのです!》


 くるくると回転しながら飛び出してきたのは、身長20cmほどの小さな女の子。背中に羽が生えていて、せわしなく動かしては宙に浮かんでいる。


「えっと、ナビゲーターみたいなもの?」

《そうなのです。各種の操作をお手伝いする機能と、プレイヤーの疑問、質問にお答えする役割を命じられているのです!》

「へえ、よろしくね。最初は何からすればいいのかな?」

《まずは種族を選び、アバターを作成するのです!》


 機械精霊が指をパチンと鳴らすと、目の前にスクリーンのようなものが表示され、種族名が書かれたプレートがずらりと並んだ。

 手を伸ばして最初にヒト族に触れてみると、標準的なヒト族の男性が下着姿で表示された。


「性別を女性に変更して」

《はいなのです!》


 私が声で機械精霊に指示を出すとヒト族の男性が消えて、同じ場所にヒト族の女性が表示された。

 白い肌にブロンドヘアという典型的な欧米系の女性が下着姿で立っている。所謂ボンッ、キュッ、ボンッという感じなんだけど、VRMMORPGに出会いを求める女性には需要があるらしい。スクリーンには説明欄が表示されていて、そこにはアルステラの世界におけるヒト族の特徴や制限などが書かれていた。


〈ヒト族〉

 アルステラで最も人口が多い種族。全てのパラメータにおいて平均的。

 育て方次第で様々な能力を発揮する可能性を秘めた種族である。



「このCというのはどういう意味なのかな?」


《AからEとSの評価があり、Sだと上限55、Aは上限50、Bは上限40、Cは上限30、Dは上限20、Eは上限が10で下限は5になるのです。キャラクター作成時にランダムで数字が入り、合計が165になるように調整されるのです。レベルが上がった時のステータスも、自動振り分けにしているとこの値に基づいて自動で割り振られるのです》


 私はそれを聞いて感心しつつ、表示されているヒト族のパラメータを確認した。


  初期ステータス:

   STR:C

   VIT:C

   AGI:C

   DEX:C

   INT:C

   MND:C

  加護:特になし

  種族特性:特になし

  職業適性:特になし

  制限事項:身長150㎝から180㎝まで


「なっ、身長は150㎝から、だと!?」


 表示されている制限事項を見て、私は愕然とした。

 大学を卒業して2年目、満24歳の私の身長は145㎝しかない。小学5年生の頃からXRDを使うようになって、残念だけど身長が伸びなかったんだよね。

 現実との身長差なんてゲームのキャラクターなので気にすることはない、なんて思われるかも知れないけどさ、実はすごく大切。視点の高さや手足の長さが現実の身体と違うと距離感が狂ってVR酔いになりやすくなるし、現実に戻ったときにも視点の違いや距離感の違いによって脳が混乱するという問題があるんだよね。だからVRMMORPGに限らず、VRゲームでのアバターは現実世界に近い容姿を選ぶのが無難なんだよ。

 仕方がないので、私は手を前に突き出し、身長5㎝の差がどのくらいなのかイメージしてみた。身長145㎝の私にとって5㎝の身長差は大きい。だけど、身長で5㎝の差なんて手足の長さになると誤差だ。それに手足の長さも調整できるから問題なし。それよりも、ゲーム内で視点が5㎝高くなるというのは、ログアウトしたときに悲しくなる気がする。

 残念だけど、ヒト族はないかな。種族特性はステータスが均一的なので何でもできる。とても器用な種族といえばそうだけど、育成方針が決まっていないと、あれもいい、これもいいとか考えながらステータスを振り分けて中途半端になりそう。


「次の種族をお願い」

《次はエルフ族なのです》


 口頭で指示を出すと、今度はエルフ族の女性が表示された。

 エルフ族は土と水の精霊から加護を受けていて、INTやDEXの値が高い種族だった。金髪碧眼、尖った耳、均整のとれた美しいスタイルはとても魅力的だと思う。

 でも、身長制限は150㎝から180㎝で、ヒト族の女性と同じだ。ヒト族と同じ理由でパスかな。それに、やっぱり中身がおっさんだとか言われそう。


 ゲームの世界もLGBTQへの配慮が行われている。いや、ゲームの世界だからこそ配慮されているという方が正しいと思う。

 XRDとPUTを連動させると生体情報を用いた個人の識別が可能なんだけど、精神的な性別までは機械では確認できないからね。本来自分がなりたい姿になれる――そんな場を求めてVRゲームの中では自分が理想とする性別のアバターでプレイしていることが多いらしい。

 でも、異様に中年男性が眉目秀麗な女性エルフを選んでプレイすることが多いのも事実でね。あるゲームでは国勢調査と称して実際にPUTに登録されたユーザ情報から統計をとったことがあるんだけど、女性エルフでプレイしている人の8割が40歳以上の男性だったんだよね。その結果、現実が女性でも女性エルフをプレイしていたいら。中身がおっさんだと勘違いされることが多いんだよね。


 続いて、獣人系種族をチェックした。

 獣人系の特徴としては、何かの初期ステータスが突出していること。例えば猫人族なら敏捷性が高く設定されていて、虎人族はVITが高めだったりする。他にも犬人族はINTとMND以外が同程度の初期値になっていて、兎人族はAGIとDEXが高い。

 一方、獣人系は共通して魔法適正が低いという問題があるんだよね。

 新たに追加された狐人族には種族固有の狐火という魔法があるようなんだけど、他の属性魔法への適性が期待できない。容姿は妖艶な感じでとても格好良かったのだけれど諦めた。やっぱりファンタジー世界なんだから、魔法がないと物足りなくなりそうなんだもん。


 残った種族は妖精系種族。エルフも妖精系種族なんだけど正式サービスから追加された妖精系種族は別に並んでいたんだよね。

 まずはドワーフ族。適正身長が低めの100㎝から140㎝まで。STRとVIT、DEXが高くて生産系や前衛向きの種族だった。


「女の子なのに髭が……」


 思わず声が出た。

 幼稚園児のような体型をしつつ、髭が生えているというのは無理だった。

 他にも土と風の加護があって裁縫が得意なシルキーや、水と火の加護があって料理が得意なブラウニー、風と水の加護があって魔法特化のピクシー族なんていうのもあった。


 そんな中、私の目はある種族を紹介する画面で止まった。


〈ハーフリング族〉

 風と火の精霊の加護を受けている妖精種。体格は小さく、敏捷性と器用さ、魔力が高いので戦闘系では斥候職に向いている。また、生産系は風や火を使う職業に向いている。


 初期ステータス:

   STR:E

   VIT:D

   AGI:A

   DEX:B

   INT:B

   MND:C

 加護:火精霊の加護、風精霊の加護

 種族特性:特になし

 職業適正:(戦闘系)スカウター、ウィザード

      (生産系)彫金師、錬金術師、魔導具師

 制限事項:身長120㎝から140㎝


 サンプルの女の子は、精霊の加護を受けているせいか美しさと、低身長ならではの可愛らしさが特徴的な外見をしていた。


「初期特性はAGIとDEX、INTが高くて魔法も覚えそうだし、種族はハーフリング、スカウターで行こう。これで決定で!」






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