第2話 森の中で(2)

 少女が体勢を整えるために距離を取ると同時、バトルウルフは遠吠えを上げた。


「ウォーーーーンッ!」


 バトルウルフの背後にいたフォレストウルフの瞳が赤く輝き、バトルウルフを庇うように前に出た。

 5頭の頭上にHPバーが現れ、フォレストウルフAからEという名前が表示される。

 ここでバトルウルフに回復されるなんてことはないが、さすがにフォレストウルフを5頭も差し向けられると厄介だ。だから少女は自重なしのフルスピードでフォレストウルフに立ち向かう。

 まず少女は飛び掛かってくるフォレストウルフCの下顎に蹴りを入れ、仰け反ってがら空きになった喉元にアイアンナイフを突き立て、引き裂いた。“Critical”の文字が表示され一気にHPバーが90%近く削れた。

 休むことなく襲い掛かってきたフォレストウルフBの飛び掛かりを少女はジャンプして躱し、続けて大口を開けて飛び掛かってくるフォレストウルフDの頭を踏みつけ、高く跳びあがる。フォレストウルフEが間抜けな顔をして少女を見上げているので、そこにスローイングナイフをスキルに任せてポイポイと投げる。右手で投げた一本はフォレストウルフEの眉間に吸い込まれるように突き刺さるとHPを70%近く削り、次の1本が目に刺さってHPを削り切った。

 勢いあまって通り抜けたフォレストウルフBが向きを変えた時には、少女はAGIの高さを生かしてフォレストウルフBの背後に移動していた。顔を向けて少女に気付いたフォレストウルフBだが、その瞬間にアイアンダガーが眉間に突き刺さる。“Critical!”の文字が表示され、フォレストウルフBのHPが全損。ポリゴンになって砕け散った。

 既にフォレストウルフCは虫の息で、残るはフォレストウルフAとDだけだ。


「噛みつきばかりなのね」


 どのフォレストウルフも飛び掛かって少女を押し倒し、噛みつこうとしてくるので少女には対処が簡単だった。フォレストウルフは直線的な動きだから避ければいいし、顎を蹴り上げればがら空きの首元を晒してくれる。


 フォレストウルフAが先に飛び掛かってきたので、再び下から顎を蹴り上げ、少女はがら空きの喉にアイアンダガーを突き立てた。HPバーが60%ほど削れる。そのアイアンダガーを抜く反動で左手のアイアンナイフを再び首に突き刺すとフォレストウルフAがポリゴンになって砕け散った。

 ほぼ同時にフォレストウルフCがポリゴンになって砕け散る。継続ダメージで最後はHPがなくなったようだ。


「あとはあんたね」


 残るはフォレストウルフD。僅かな間に4頭の仲間が殺されたのを見て、フォレストウルフDは「クゥゥン」と鳴いて視線を少女から逸らした。

 少女はひと息でフォレストウルフDの前に移動すると、後頭部の付け根にアイアンダガーを突き立て、首筋を切り裂いた。

 再び“Critical”の文字が現れ、フォレストウルフDがポリゴンとなって砕け散った。


(クリティカル判定が甘くない?)


 少女が機械精霊と思念で会話する。


《急所攻撃はクリティカル判定が出やすい場所です。ナイフは特に急所攻撃がしやすいうえ、アオイはDEXの値が高いので、更に確率が高くなっているようです》

(なるほどお)


 手下のフォレストウルフを倒されたバトルウルフは動かない右後ろ脚を引きずりながら、前脚と左後ろ脚で立ち上がった。


「立っちゃったのね」

「グルルゥゥッ」


 バトルウルフの首が届く範囲になると、噛みつきがやってくる。だが、キレがない。バランスをとるため、どうしても力いっぱい首を動かすことができないからだ。

 大きく開いた口が向かってくるが、少女はわざと右前脚の方へと避けた。

 アオイを抑え込もうとバトルウルフは右前脚を振り上げる。アオイを抑え込めればバランスはとれるし、避けられても地面に前脚が着けばバランスを回復することが可能だからだ。でも逆に――


「こっちががら空きなんだ、よっ!」


 アオイは瞬時にサイドステップを踏んで、左前脚の関節にナイフを深く突き立てた。


「ギャンッ!!」


 バトルウルフは右前脚と左後ろ脚の2本では立てず、今度は顔面から地面へと崩れ落ちる。少女は下敷きにならないよう、再びサイドステップを踏んでそれを避けた。

 見ると、バトルウルフのHPバーは残り30%にまで削れていた。

 実質、「フセ」の状態でほとんど動けなくなったバトルウルフは、もうサンドバッグといっていい。首を動かしてアオイを攻撃してくるけれど、右目が潰れている以上、死角に入ればやりたい放題だ。ガシガシと右脇腹、肝臓のあたりを集中的に両手のナイフで削っていくと、失血のせいかバトルウルフの動きが鈍ってきた。

 再びバトルウルフの正面へと移動したアオイは、バトルウルフの死角と動かない左前脚を上手くつかって噛みつき攻撃を避け、2本のナイフで何度も首を攻撃した。


 分厚い毛皮と脂肪に阻まれはしたものの、数分後にはバトルウルフはポリゴンへと変わり、砕け散った。


「ふう……」


《メインクエスト M-002 バトルウルフを討伐せよ! が進みました。

 商人オスカーに街道の安全確保を報告しましょう。

 経験値の上昇を確認しました。

 レベルが上がりました。

 レベルが14になりました。

 バトルウルフの魔石×1

 バトルウルフの牙×1

 バトルウルフの前爪×4

 バトルウルフの毛皮×1

 フォレストウルフの魔石×5

 フォレストウルフの牙×2

 フォレストウルフの毛皮×1

 フォレストウルフの爪✕1

 1,150リーネを入手しました

 スローイングナイフを回収しました》






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