第9話 クエスト・クエスト・クエスト(1)

 そのままの勢いで私は一階に下りると、エミリーさんに挨拶して職業ギルドから外に出た。ピコンッという電子音が聞こえると、機械精霊が話しだした。


《チュートリアル教官からアイテム(3)が届いているのです。インベントリに移すのです?》

(お願いします)


 中身はチュートリアルの基礎編、応用編、実践編のクリア報酬だった。

 インベントリを開くと、ビギナーシャツ、ビギナーボトム、ビギナーブーツの3つの衣装が入っていた。初期状態で着ているハーフリングの服シリーズは普段着といった感じで防御力なども設定されていないけれど、このビギナーシリーズはそれぞれ物理防御(+5)といろんなステータスアップ効果がついている。ただ、アイコンで見てもデザインまではわからない。


(機械精霊さん、これ試着できる?)

《試着モードを使うとホログラム上で試着することができるのです。試着モードを使用するのです?》

(お願いします)


 機械精霊に返事をすると、目の前に試着したい服を着た自分のアバターが表示された。ビギナーシャツというだけあって、シンプルな生成り色にお腹のところに何かの模様が染められたカットソーだった。


「かわいいっ! けど、下着がっ!!」

《他のプレイヤーには表示されないのです、安心なのですよ》

「そ、そうなのね。ビギナーボトムとブーツも履いた状態にできる?」

《了解なのです。ビギナースカートとブーツを履かせるのです》


 一瞬で顔が真っ赤になったのがわかる。VRゲームの中なのに顔が熱いって感じるのがすごいね。


 アバターにビギナーボトムとブーツが適用された。ビギナーボトムは綾織りでできたショートタイプのキュロットスカート。ブーツは編み上げになっていて、脛の半分くらいまで覆う感じなんだけど、なぜか靴下までついている。

 ハーフリングの服は民族衣装って感じがして嫌いじゃないけど、これなら普段着っぽくていいね。


(そのまま着用でお願いします)


 機械精霊に返事をすると、一瞬で着替えが終った。わざわざ脱いだりしないでいいのは手間が省けていいね。VRの中だと裸になったりして、猥褻な行為ができると思っている変態さんたちもいないわけではないと思うけど……。


(ねえ、機械精霊さん。他のプレイヤーに触ったり、その……変なこととかできたりするの?)

《アルステラでは、基本的にプレイヤー間のボディタッチはできないのです。目には見えるのです。でも手を伸ばすとすり抜けるのです》

(ああ、なるほど……ありがとう)


 門のところでスポーンしたときに、大勢の人たちが重なり合っていたからね。よくわかった。


 服を着替えたのはすごくいい気分転換になった。ログインしたときは1,000リーネしかなかったのに、今はクエストを1つ終わらせただけで300リーネも増えた。といってもたったの300リーネなんだけどね。

 職業ギルドの前にはいくつかお店が並んでいた。ちょうど正面に見えるのは雑貨屋さんだ。


(いろんな店があるんだなあ)

《特定の条件を満たすと、二次職業を得ることができるのです。更に露店許可証を手に入れると露店を出して売買することができるのです》


 後学のためにも少し覗いてみるか、と思った私はまず正面の雑貨屋に入った。

 出迎えてくれたのは犬人族の男性で、小奇麗な衣装を身にまとっていた。


「いらっしゃい。見ない顔だね、この町は初めてかい?」

「ええ、今日来たばかりなんです」

「そうかいそうかい。うちは見てのとおり雑貨屋だ。欲しいものがあれば、いや、グラーノの町から来る商人が最近来ないんだ。取り寄せは厳しいが、店頭に並んでいるものなら在庫はあるよ」

「そうなんですか……」

「そうだ、あんた冒険者だろ? だったら、この白地図にどこが誰の家か、埋めてきてくれないかい?」


《クエスト「町の地図更新」が発生したのです。クエストを受けるのです?》


  クエスト番号:007

  受注条件:冒険者レベル3以上

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:町の地図更新

  発注者:テオ

  報告先:テオ

  内 容:白地図に家の住民を書き込んで返却する

  報 酬:経験値75×2 貨幣500リーネ 木綿の服(上下)


 経験値150というと、職業クエストと同じくらいもらえるってことだよね。また幾つもレベルが上がるかな。

 でも、なんで75×2っていう表示なんだろう。


「はい、やります」

《クエスト「街の地図更新」を受注したのです。町にある家、店などをまわって白地図に住民を書き入れ、テオに渡すのです》


 テオから白地図を受け取ると、挨拶を済ませると私はすぐに隣にある建物に向かった。隣は料理屋だった。


「いらっしゃい、何にするね?」

「ごめんなさい、テオさんに頼まれて地図に家主の名前を書き込む仕事をしているんです」

「なんだ、客じゃないのかい。あたしゃスザンネ。このとおり料理屋だよ。今が稼ぎ時だからね、さっさと……いや、悪いけどこの弁当を冒険者ギルドのレオポルド、門番のパウル、代官のハリーに届けとくんな。褒美はこれで、どうだい?」


《クエスト「ついつい忘れるお弁当」が発生したのです。クエストを受けるのです?》


  クエスト番号:009

  受注条件:冒険者レベル3以上

  クエスト種別:サブクエスト

  クエスト名:ついつい忘れるお弁当

  発注者:スザンネ

  報告先:スザンネ

  内 容:冒険者ギルドのレオポルド、門番のパウル

      代官のハリーに弁当を届ける

  報 酬:経験値75×2 貨幣500リーネ

      魔法書(生)ウォッシュ


(この魔法書というのはなあに?)

《魔法を覚えることができる本なのです。報酬のウォッシュは生活魔法なのです》


 魔法きたよ!

 やっぱりファンタジー系のRPGなんだから魔法は覚えたいよね。しかも今回は報酬でもらえるのはありがたいっ!


「地図を完成させるついでならいいですよ」

《クエスト「ついつい忘れるお弁当」を受注したのです。冒険者ギルドのレオポルド、門番のパウル、代官のハリーにお弁当を届けるのです》


 地図を書くついでに代官のハリーって人のところに行けばいいんだし、弁当を渡すついでにパウルさんのところに行けば、最初のクエストの報告もできる。一石二鳥ってやつだよね。

 こうなったら、続けて受けられるのは受けちゃおう。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る