第8話 職業クエスト
「再発行には5,000リーネが必要ですので注意してください。あと、これが冒険者ルールブックです。ランク特典の説明の他に、禁止事項などが掲載されていますので必ず目を通してくださいね。依頼はそこの掲示板に掲載されていますが、直接依頼というかたちで町の人から受けることができます。その際は依頼書兼完了報告を持ってきてくださいね」
「ありがとうございます。あと職業ギルドってどちらにあるんですか?」
「職業ギルドはここを出て、ポータルコアのある広場を西へいけば大きな建物があります。そこが職業ギルドですよ」
「じゃあ、先に職業ギルドに行ってきます!」
「はい、気をつけて」
私はリジーに手を振って冒険者ギルドを出た。
言われた通り、冒険者ギルドを出てポータルコアのある広場から西に向かう。
(で、冒険者ハンドブックって何が書いてあるの?)
《冒険者として守るべきルールと、ランク特典などについて記載されているのです。読むのです?》
(あ、うん。自分で読むから開いてくれるかな?)
《はいなのです》
手の上にインベントリから取り出された冒険者ハンドブックが現れた。
表紙を捲ると、視界の中にページが浮かび上がり読めるようになっている。
〈冒険者のルール〉
一つ、冒険者同士の争いをしてはならない。
一つ、冒険者は窃盗、強盗、恐喝、詐欺、傷害、殺人等の犯罪行為をしてはならない。
一つ、冒険者はわからないことはギルド職員に確認しなければならない。
これらのルールを守らない者は、その影響や重要度に応じギルドマスターにより罰則が適用される。
読み上げてみると、特に重要なこと以外はギルド職員に確認しろとしか書かれていなかった。他にもルールがあると思ったが、何ページめくっても書いていない。
《あまり複雑なルールにすると、理解できないプレイヤーがいるからなのですよ》
(なるほどね、確かにルールは簡潔明瞭なものの方がいいかも)
このゲームはオープンワールドでプレイする。日本人、中国人、インド人、アラブ人、東欧の人、西欧の人、米国人、ロシア人、南米の国出身の人……さまざまな国の人がいて、ゲームの中はさまざまな文化が入り混じっている。
所変わればルールも変わる。どこか一つの国のルールにこだわって作ると、どうしても価値観の違いでトラブルになる。
だから、最低限のルールにしておく。とてもいい考え方だと思った。
続いて冒険者の特典について確認すると、次のように書かれていた。
Eランク: ギルドが身分を保証する。
討伐系の依頼を受けられる、
Dランク: 他の町のギルドでも活動ができる。
D級ダンジョンに入ることが認められる。
地方ギルド長が認めれば昇格できる
Cランク: 国内での活動が認められる。
C級ダンジョンに入ることが認められる。
都市ギルドでの昇格試験が必要
Bランク: 下級貴族(子爵以下)と同等の扱いを受ける
B級ダンジョンに入ることが認められる
王都ギルドでの昇格試験が必要
Aランク:上級貴族(伯爵以上)と同等の扱いを受ける
A級ダンジョンに入ることが認められる
2つの国の王都ギルドでの昇格試験の合格が必要
簡単にまとめると、Dランクで一人前、Cランクで国を跨いで活躍できることが保証され、Bランク以上になれば貴族との交流が認められるって感じなのかな。
お貴族様の相手とかしたくないけれど、上級のダンジョンに入るにはどうしても試験はクリアしていかないといけないってことみたい。
(貴族を相手にするなんて、面倒臭いね)
《ダンジョンのランクに合わせて作られた制度なのです。ダンジョンで得られる宝物の取引が対等にできるように作られたのですよ》
(でも、Bランクの冒険者がとってきたものを伯爵や侯爵クラスの貴族が買い取るなんてこともあるんでしょ。言いなりにしかなれないじゃない)
《その場合は、他の子爵が仲介したり、冒険者ギルドを仲介したりして取引するのです》
(なるほど、そういう方法もあるのね)
貴族扱いになるからといって、特に貴族と付き合わないといけないってことはないらしい。だったら気楽だよね。
冒険者ギルドで案内してもらったとおり道を進んでいくと、冒険者ギルドの数倍はある建物の前に出た。
土台となる石組みの基礎の上に立つ六階建ての建物は、まるでドイツの旧市街の中にある建物のよう。尖った三角屋根に、一階と二階部分は四角い石枠の窓、三階から六階までは木枠のアーチ窓が等間隔に並び、木の柱や筋交いが入っていた。各階の角には猿に羽が生えたような生き物を彫った石像が置かれている。
「あれは魔除けかしら?」
私は古い建築などを見るのも好きなので、このようなオブジェのある建物は大好きだった。
《はい、魔除けなのです。こちらが職業ギルドなのです。ナツィオは規模が小さい町なので、この建物の中に各職業の職員や訓練員がいるのですよ》
(へえ、そうなんだ)
職業ギルドの中は冒険者ギルドと違ってとても静かだった。
正面にいくつかのカウンターがあり、そこの受付らしきNPCに声を掛ける。
「すみません、職業登録に来ました」
「あら、いらっしゃい。希望する職業は何かしら?」
「スカウターです」
「わかりました。ご案内しますね」
2階にあるスカウターギルド室へと案内された。
途中、職業ギルドの受付嬢というのはどういう職業なのか気になって簡易鑑定してみた。
名前:エミリー
種族:ヒト
職業:職業ギルド ナツィオ支所職員(受付)
簡易鑑定というだけあって、あまり細かなことはわからないみたいね。
スカウターギルド室にはスカウターギルドの支部長兼訓練員のバートという人に紹介された。自己紹介を済ませると、バートさんが話しかけてきた。
「早速だが、訓練員としてアオイに課題を出そうと思う。スカウタースキルの<索敵>を使い、この職業ギルドのどこに人がいるか教えて欲しい」
《職業(スカウター)クエスト001が発生しました。引き受けるのです?》
クエスト番号:SC001
クエスト種別:職業クエスト
クエスト名:スカウターの心得
発注者:バート
報告先:バート
制 限:スカウター レベル1以上
内 容:職業ギルドのバートから課題。
ギルド内の人を初期スキルの《索敵》を
使って見つけて報告する。
報 酬:経験値 75×2 300リーネ スカウトリング
「はい、やってみます」
《職業クエスト「スカウターの心得」を開始したのです。スキルはスキル名を念じるだけで起動するのですよ》
(オッケー、じゃあやってみるね。<索敵>!)
私が念じると、視界の中にホログラムのような円筒形の何かが現れた。その筒の底が少しずつ上昇しはじめると、柱や壁がくっきりと表示され、部屋の中にいる人を表す緑の光が表示されていく。なんだか、私を中心とした半径15mくらいの範囲を地面から上に向かってスキャンしていくような感じ。
へえ、索敵ってこんな感じなんだ、と感心しながら緑の点の場所と数を確認し、報告した。
「ブラボー! 合格だよ、お嬢さん。合格報酬としてこれを渡そう」
「あ、ありがとうございます」
《経験値の上昇を確認しました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが上がりました。
レベルが4になりました。
スカウトリング(AGI+10)を受け取りました。
300リーネを入手しました》
「ふえっ!?」
「どうしたのかね」
「い、いえ、何でもありま、せん」
職業クエストを終えただけで、レベルが一気に上がったので思わず声がでてしまっただけだよ。恥ずかしいなあ。
「索敵はスカウターにとって基本中の基本。使い慣れて更に広い範囲も索敵できるようになっておくように。
じゃあ、今日はここまでだ。次は罠察知を覚えたら来なさい」
「罠察知ですね、わかりました」
私はお辞儀をすると、バートさんの部屋から逃げるように出てきた。
あれ、MOBと全然戦ってないんんだけど、スキルとか覚えるのかな。
《ステータスの振り分けはどうするのです?》
(ステータスの振り分けは……自動でいいかな)
《種族特性に合わせた振り分けを自動で行うのです。よろしいのです?》
(いいよ、でも特に職業ギルドでスキルを教えるとかいうことはないのね)
《職業スキルはクエストで貰えるスキルもあるのです。ただ、基本的にレベルが一定に達すればスキルは覚えるのです。覚えたスキルには熟練度があり、使えば使うほど練度が上がるのです。索敵の場合はこの建物がすっぽり入るくらいの大きさから始まり、練度が上がれば半径1Kmほどの範囲に広げることが可能になるのですよ》
それは頑張らないといけないな、と思った私は職業ギルドを出るべく歩いていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます