第23話 力を使う意味(瑠衣side)



愛凛side


私は2人にとある疑問をぶつけてみた。


愛凛「…怖いと思わないのか?」

ラミ「ん?何がだい?」

愛凛「凛怜の事や私達の事だ。私達は良くも悪くも異常種、あなた達から見たら化け物でしかないんじゃないのか?」

…このような質問は残酷な物だと分かってる。

けど、私の性質上、疑ってかかってしまう。

当然、嫌な顔のひとつもされる覚悟だ。


杏華「何を言ってるのかしら?私達を甘く見ないでちょうだい。」

ラミ「というわけさ、私達は別に君達を化け物なんて思ってもいないし、怖がってもいないよ。」


予想外にも、馬鹿にするなと言う顔と澄まし顔が私の目に写った。


愛凛「…これでもか?」ギロッ


今度は、殺気を込めて言ってみる。

分からない、ただ媚びているだけ?それとも強がってる?何にも該当しない。

私が見てきた醜い奴らの顔と全くもって違うのだ。

だが、凛怜の古い知り合いだからといって、警戒をしない訳にもいかない。


瑠衣「あいrっ!?紅葉姉さん?」

止めようとする、瑠衣姉さんを紅葉姉さんが止めてくれる。


ラミ「…変わらないよ、怖いなんて思うことはない。」

杏華「同感ね。あなたがどれだけ脅そうと変わる事は無いわ。」

…本気でそう思っている目だ。


愛凛「…失礼しました、非礼を詫びます。」

私はそれを確認し、殺気を引っ込める。

まだ信用した訳ではないが、少なくとも凛怜に危害を加える様な事はしないと思うには十分だった。


ラミ「いや、君のそれは当然の反応と言えるよ。」

杏華「私も気にしてないわよ。」

愛凛「…感謝します。」


これで終わり…という訳にはいかない。


凛怜「…はい、終わりって訳にはいかねえよ、なぁ?愛凛。」

どす黒く低い声のする方向を見ると、そこには、凄まじい威圧感を放っている、凛怜が立っていた。




紅葉side


この肌をピリつかせるような威圧感、これには覚えがあった。


凛怜「何してたんだ?」



ラミ「い、いや、凛怜?私達は別に気にしていないよ?」

凛怜「黙っていてくれ。」

愛凛「…凛怜。」

凛怜「何をしていたと聞いている、愛凛。」

愛凛「わ、私は…。」

私でさえ、ここまで肌をピリつかせているんだ、愛凛には相当堪えると思う。


凛怜「俺が言いたい事、分かるな?」

愛凛「はい…。」


杏華「ちょっと!なに、私達を置いてけぼりにしてるのよ!」

凛怜「杏華、悪いが黙ってくれ。」

杏華「あんたね!」

紅葉「杏華、まぁ見てなさいな。」

杏華「紅葉!」

紅葉「杏華。」フルフル


食い下がろうとする、杏華を諌める。


凛怜「愛凛、お前は俺のなんだ?」

愛凛「刀…だ。」

凛怜「俺の刀は、無抵抗の奴らに刃を向けるのか?」

愛凛「…。」

凛怜「俺の刀は、敵意のない者に殺気を向けるのか?」


愛凛は返答しない。


凛怜「俺はそんな刀を持った覚えはない。」

愛凛「…っ?!」

瑠衣「凛怜、それは…。」

凛怜「なんだ?」

瑠衣「い、いや…。」

凛怜「愛凛、お前には罰を与える、俺から直々に伝えるから、部屋に戻っておけ。」

愛凛「わかり…ました。」ペコッ


そう言って、愛凛は部屋から出ていく、その後すぐ凛怜を見ると、凛怜が視線で何かを伝えてきた。


凛怜(愛凛を頼む。)

紅葉(分かったわ。)


紅葉「…少し失礼するわね。」


視線の意図を汲み取り、私も続いて部屋から出たのだった。




瑠衣side


愛凛と続いて紅葉姉さんが出たあと、執務室の中は、暗い雰囲気が漂っていた。


瑠衣「凛怜、あれは言い過ぎだよ。」

凛怜「あぁ、分かってる。」

自嘲気味に笑いながらもそう言う凛怜は、2人に向き直り。


凛怜「ウチの愛凛が失礼な事をした、本当にすまなかった。」

ラミ「私達は気にしていないよ、それより愛凛ちゃんは良いのかい?」

杏華「そうね、なんであんな事言ったの?」


あれは、愛凛なりに僕達や自分を守ろうとした結果だ。

それを2人も理解してるからこその疑問だった。


凛怜「力を使う意味を持って欲しいからだ。」

杏華「私達が弱いと?」

凛怜「そうじゃない、そもそも強い弱いの問題じゃないんだ。」

ラミ「…どういう事だい?」


凛怜が言いたいことが僕には伝わった。

力を使う意味は、僕らが拾われてから散々教えられた事だ。


凛怜「敵意も悪意もない無抵抗の人間を殺そうとする行為は、獣のそれと何ら変わらない、それこそ化け物に成り下がる。俺は、そんな人間になって欲しくない。本当の意味で化け物になるのは1でいい。」


化け物、僕達が散々言われた言葉だ。


そして、凛怜が言う、その1人が誰の事を言っているのか、容易に想像ついた。


ラミ「はぁ私達は、何もされていないよ?殺気をぶつけられただけ、それでもダメなの?」

凛怜「殺気も立派な攻撃の1つだ、殺す気が無いと出ないんだからな。大きな力を意味もなくふるった者が行き着く先は孤独でしかない。」


孤独…か。それは誰の事を言ってるの?凛怜…。

凛怜の顔が苦しそうで、そう問いたい気持ちでいっぱいだった。


凛怜「2人も十分強いのは分かってる。ただ、愛凛の戦闘センスは紅葉と同等かそれ以上だ。幹部の中で、2番目の強さではあるが、そこは経験の差でしかない。俺と同等の強さに成り得る可能性は十分にある。」


愛凛の戦闘センスは、私から見ても異常だと言える、それに愛凛の能力が合わされば更にその異常が浮き彫りになるのは間違いないだろう。


凛怜「同時に、それはとても危険な事だ、化け物に成り得る可能性を秘めている事になる。」


ただの獣に成り果てる、凛怜が1番危惧している事なのかもしれない。

力の使い方を教えられたあの日から、化け物のようにはなるなと再三言われてきた。

だからこそ、必要以上の武力の行使をしない。

クローバファミリーの絶対的なルールの1つとも言える。


正しいのかもしれない、ただ、やっぱり…。


杏華「言いたい事はわかったわ、ただ、あなたは愛凛ちゃんの気持ちを理解していないわよ。」

凛怜「…どういう事だ?」

杏華「今あなたが言ったことは全てあなたの考えばかりで、愛凛ちゃんの想いなんて全て無視してるって言ってるの。」

凛怜「…。」


杏華「あなたが言うことは正しいわよ。でもそれだけ、人の気持ちは簡単に割り切れるようには出来ていないの。守る為に、必要以上の武力を使う事さえ出来る連中だって存在するわ。」


ラミ「君は極端で不器用すぎるんだよ。愛凛ちゃんが何故あんな事をしたのか理解しているなら、あそこまで言う必要は全く無かったと思うよ。愛凛ちゃんを大切に思うなら君が取るべき行動はなんだったか、考えてみるべきだね。」

凛怜「俺は…。」


瑠衣「凛怜、ここは良いから愛凛の所に行ってあげな。」

杏華「行ってあげなさいな。あなたみたいな変態がいない方が私も得だわ。」

ラミ「そういう言い方はダメだよ、杏華。」

凛怜「…あぁ、行ってくる。」


そう言って、凛怜は走って行ってしまった。


頼んだよ、凛怜。


ラミ「やれやれ、相変わらずだね、凛怜は変わったようで変わっていない。」

杏華「ほんとだわ、一々極端なのは昔からよね…。」


2人は安心したような顔ではあったが、呆れてもいた。

まぁ向こうはもう大丈夫かな?

さて、僕はMIO時代の凛怜の話は興味があるので、話を聞いてみることにしよう。


瑠衣「凛怜はMIOの時、何やって過ごしてたんだい?」

ラミ「そうだねぇ、昔は…。」


そこは僕も乙女だからね、好きな人の事は聞いておかなきゃね…?




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