第22話 波乱の第1歩



一葉side


私と凛怜が、執務室へ出た後、私は疑問に思っている事をぶつけた。


一葉「良かったの?」

凛怜「ん?何がだ?」

一葉「凛怜がいないあの状況で、昔の事を話される事は予想出来てるはずだよ。いいの?」

私はそう聞くと、凛怜は笑顔でこう答えた。


凛怜「あぁ、かまわないさ。」

一葉「なぜだい?」

凛怜「信頼してるからだ。もちろん、一葉もな?」

一葉「ふふ、そっか。」ギュッ

私は、その答えに嬉しくなり、凛怜の腕に抱きついた。

凛怜「…あの、一葉さんや、なぜ腕に抱きつく必要が?」

若干、照れた様子の凛怜に。

一葉「いいじゃないか、まだ一緒にお出かけもできていないんだから、これも利子の内だよ。」

と、答える。

凛怜「そういうものなのか?」

一葉「そうそう、そういうものだよ。それより、あの話は受けるの?」

凛怜「まだ、決めてはいないな。」

一葉「なんで?」

凛怜「不確定要素が多いからだな。グローリーファミリーとの繋がりなんて一切ないし、その娘とも繋がりを持ったことも勿論ない、もしかしたら。」

一葉「凛怜を釣ろうとするための口実かもしれない…かな?」

凛怜「あぁ、そういう事だ。」


危惧している事は、分かる。

昔ならいざ知らず、今の凛怜は一ファミリーのボス、迂闊に世間に出る訳にもいかないだろう。

個人的には、女装している姿を見てみたいって言うのもあるんだけどね?


ただ、凛怜の言う可能性を排除出来ない現状において、護衛に付くという判断はあまりにも早計だとは思う。

どんな形に転ぶにせよ、私の領分はしっかりやらせてもらうとしよう。

でも、その前にこの温もりをとことん感じさせてもらおうかな?


私は情報管理室へ着くまで、私はこの温もりを楽しむのだった。



凛怜side


くっ、俺だって男なんだぞ?

少々無防備過ぎないか?お兄ちゃんは心配です…。


一葉「凛怜だからだよ。」

凛怜「あの、心を読まないで?エスパーなの?」

一葉「異常種だよ。」

凛怜「いやまぁそうなんだけどね?そういう事じゃないんだよなぁ!」


一葉「凛怜が分かりやすいだけだよ。むしろ、隠し事なんてできると思わない方が賢明だよ。」

凛怜「お、おう。」


まぁなんというか、喜んでいいのか…?


一葉「喜んでいいと思うよ。」

凛怜「…そうか。」

もう諦めました、はぁ…。


そう話している内に、情報管理室へ着く。


凛怜「入るぞ、よぉ、お前ら元気だったか?」

「ぼ、ボス!?来るなら事前に言ってくださいよ!」

「そうですよ!こっちは何も用意出来ないじゃないですか!」

凛怜「お、おうごめんな?」


こいつらなりに気を使いたかったのだろうか、とりあえず謝っといたが、威厳はまるで無い始末である。

一葉「こらこら、ボスを困らせないの。」

「あ、隊長!そうですね…すみません、ボス。」

凛怜「いや、大丈夫だ。気を使ってくれようとしたんだろ?ありがとうな。」

「いえ!そんな!」

「お身体は大丈夫なのですか?」

凛怜「あ、あぁ、大丈夫だ。ピンピンしてるぞ!」

こういう気遣いはくすぐったいものだな…。


一葉「まったく、相変わらず甘いんだから!威厳を持とうとしないの?普通。」

凛怜「俺には元々無いからな。」

「いえ、そんな事ないです。そのままのボスが1番いいです!」

凛怜「お、おう、ありがとうな。」

「はい!」

そう主張する部下達に、何だか食い気味だなと、苦笑いするしか無かった。


一葉「はいはい、皆仕事の時間だよー?」

「あ、はい!」

「承知しました!」

おぉ、さすが、切り替えが早いな。


一葉の一声で、皆が定位置に付き、PCを操作し始めた。

俺はすかさず、部下たちに頼み事をする。


凛怜「調べて欲しい事がある。グローリーファミリーの現状、そして敵対組織の詳細情報だ。調べられる範囲でいい。お前らの仕事もあるだろうから、無理しない程度にやって欲しい。」

「了解です、ボス。」

「ボス直々のお願いは最優先にしますよ!」

一葉「だ、そうだよ?」

凛怜「そ、そうか?ま、まぁ無理しない程度にな?」

「頑張ります!」


画面を覗き込むと、訳の分からない文字や数字の配列が表示されていた。

それに、キーボードで、何かを打ち込んでいる。


凛怜「おぉ、なんかよく分からんけど、すげえな。」

「あ、えぇ、ボス!?」

凛怜「ん?おう、これはなんだ?」

俺は、画面を指差して、部下の1人に質問する。


「これは、他のファミリーのメインコンピューターへ、ハッキングする為のコードですね、これを元に、IDとパスワードを割り出して、隊長が開発したソフトを使うと…。侵入に成功しました!」

凛怜「なるほどな、って一葉が作ったソフト?」


「そうです、これはどんなセキュリティソフトもバレないようにする優れものです。国もMIOもどこにだって侵入可能になるんですよ!」


一葉の奴、相変わらずとんでもないもの開発するよなぁ…。


凛怜「そうか、悪用はするなよ?俺達は、あくまで必要な情報だけを抜き取れればそれでいい。」

「あはは、分かってますよ。」

凛怜「ん?なんで笑うんだ?」

「あ、すみません、その、マフィアのボスがそんなことをおっしゃるので、つい可笑しくて。」


たしかにおかしい話か…。

凛怜「まぁ、他所は他所だ、俺達は必要以上の事はしない。これじゃ不満か?」

「いえ、とてもボスらしいと思います。」

凛怜「そうか。」

一葉「私の直属の部下を口説かないでくれないかな?ボス?」ジトー

「た、隊長!?」

凛怜「こら、人聞きが悪いぞ。俺が口説くなんて、そんな高等テクニック出来るわけないだろ。」

「ボス…。それはそれで胸を張って言うことじゃないです…。」

凛怜「事実だからな。」

一葉「変な所で距離が近いのも悪い癖だよ?邪魔にならないようにしなきゃ。」

凛怜「すまん、俺邪魔してたか?」

「い、いえ!全然大丈夫です!はい!むしろ…。」

凛怜「ん?」

一葉「」ギロッ

「ヒッい、いえ、なんでもないです!」


何故か怯えている、部下に首を傾げながら。


凛怜「そうか、あ、そうだ、情報はどれくらいで集まりそうだ?」

一葉「最低でも、1日はかかると思ってくれた方がいいかな。」

凛怜「なるほど、分かった。」

一葉「もっと早めがいいなら、そのようにするけど?」


一組織の情報が1日以内で集められると考えたら、相当早いだろう。

ウチの情報管理員は、とても優秀だ、これ以上望むものならバチが当たるだろう。


凛怜「いや、大丈夫だ、これは俺の個人的なお願いだからな。」

一葉「遠慮なんてしなくていいのに…。」


凛怜「馬鹿、身体を壊したら元も子もないだろ?情報の管理や他ファミリーの調査を任せっきりだからな、ちゃんと休めてるか?」


「はい、ちゃんと休めてますよ。」

「大丈夫です!休暇も貰えてますから!」

一葉「だそうだよ?」

凛怜「ならいいが、何かあったら言えよ?」

「はい。」

「承知しました。」


一葉「心配性だね、私から言わせれば、凛怜こそ、自分の事に気を使って欲しいんだけどね?」

凛怜「ちゃんと労るよ、お説教受けちゃったしな?」

一葉「…あれは凛怜が悪い。」


一葉がそう不満げに言いながら、自分の席へ戻る。

ふむ、からかいすぎたかな。


凛怜「さて、俺は俺でやる事があるし、ここらで失礼させてもらおうかな。」

一葉「そうなのかい?私としては発明品を見せようと思ったんだけどなぁ、この異空間ポケットとか。」

凛怜「…それって、どr…。」

一葉「それ以上は、いけないよ?」

凛怜「お、おう。まぁ、またの機会にだな。」

一葉「しょうがないなぁ。」


不満げなのを隠そうともせずに、表情に出してはいたが、そんな場合でもないので、ここはグッと堪えることにしよう。


凛怜「またここに来るよ、皆、無理しないようにな。」

「はい、お疲れ様です、ボスも無理しないでくださいよ。」

凛怜「分かってるさ、一葉、あとは頼んだ。」

一葉「任せておいてよ、終わったら連絡するからここに来てね。」

凛怜「あぁ、了解した、それじゃな。」

そう言って、情報管理室から出て、歩き出す。



凛怜「はぁ、まためんどくさい事になりそうだな…。」

と、空を見上げながら、そんな愚痴をこぼしながらも、自分の足は動き続けている。

着実に闇へと踏み出しているとも知らずに。

まだ出せていない決断が今後を左右するとも知らずに…。


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