第24話 力を使う意味(紅葉side)



紅葉side


凛怜があんな事を言った理由は全部わかっているつもり。

だけど、それで割り切れるものでもないって事も分かっている。

まぁ、凛怜と愛凛にはいい薬になるかもしれないわね。


と言っても、本人が気付くかどうかは割と賭けな所もあるのだけれどね…。


まぁ、今は愛凛の事よね。


コンコン

ガチャ

紅葉「愛凛?入るわよ?」


愛凛「…姉さん。」


愛凛は、部屋の灯も付けずに刀を膝に置き、浮かない顔でベッドに座り込んでいた。


紅葉「電気を付けないと目が悪くなるわよ?」

愛凛「…。」

私の軽口にも反応出来ないほど消失し切っているのだろう。


紅葉「大丈夫…ではなさそうね。」

見れば一目瞭然というやつだった。


愛凛「私は…何か間違えたのだろうか。」

そう呟く、愛凛に。

紅葉「あなたはどう思うの?」

と、私が問いかけると。


愛凛「私は、間違ってるとは思っていなかった…だけど。」

紅葉「けど?」

愛凛「兄さんは私が間違ってるとそう言ってるような気がするのだ…。」

紅葉「愛凛、あなたの忠誠心は良いものだけれど、それだけじゃダメよ。」

愛凛「どういう事だ…?」

紅葉「これでも、あなたがどんな想いであの行為に走ったのか、理解しているつもりよ。」

愛凛「…。」

紅葉「あなたはあなたなりに私達を守ろうとしてくれた。違う?」

愛凛「…そうだ。」

紅葉「それ自体は間違ってはいないわ。」

愛凛「じゃあ私は何を間違えたのだ…?」

私に向けた目は不安そうに揺れていた。


紅葉「凛怜が何を言いたかったか、分かる?」

愛凛「分かっている…つもりだ。」

紅葉「凛怜が何を思って怒ったか、分かる?」

愛凛「…あぁ。だけど、私は…。」


紅葉「納得はしていない…といった感じね。」

愛凛「あぁ、分かっているんだ、兄さんが言いたいことも、大きな力を持つことの意味も、分かってはいるんだ…だが…!」ギリッ


割り切れないように歯ぎしりをする愛凛を私は抱きしめた。

愛凛「…姉さん?」

紅葉「愛凛、あなたはあなたの信念があって、凛怜には凛怜なりの信念がある。凛怜は行為自体を間違いとは言っていたかもしれないけど、愛凛の信念を間違いだとは言ってないわ。」

愛凛「…。」


凛怜の言い方は、愛凛のやり方は否定している。

だけど、愛凛の信念を否定している訳ではないのだ。

紅葉「凛怜はあなたに化け物になって欲しくないのよ。」

愛凛「私は異常種だ、普通の人とは違う。もう化け物だろう…。」


私はこの愛凛の言葉にある人を重ねてしまい、深刻な雰囲気なのに。

紅葉「ふふ。」

愛凛「…なんで笑うんだ、姉さん。」


つい笑ってしまい、愛凛は不機嫌になってしまった。

紅葉「あ、ごめんなさい。物言いが昔のあの人そっくりだから、つい笑ってしまったわ。」

愛凛「…?」

紅葉「私達は化け物なのかもしれないわ。」

愛凛「…やっぱr「でも。」?」

紅葉「それは、かもしれないってだけ、私達は人よ。そこに嘘なんてないわ。笑って、怒って、泣いて、悩んで、こんな風に色んな感情があるわ。それは、化け物には無いものでしょ?」

愛凛「…。」

紅葉「凛怜は、自分を化け物だと思い込んでしまっているわ。」

愛凛「兄さんは化け物なんかじゃない!」


私から離れながらそう言う、愛凛の心の底からの言葉が部屋中に響き渡る。

愛凛が急に叫んだので、少し驚いたが、直ぐに胸の中が嬉しさでいっぱいになる。

それと同時にある気配が近づいてくる事に気づく。


紅葉「貴女がどう思っているのかは今走ってきてこっちに来てる、慌てんぼの蝙蝠さんに…ね?」

愛凛「え…?あっ…。」

そう私が言うと。


凛怜「愛凛!」バアン

走ってきたせいか、少し汗ばんだ凛怜がすごい勢いで扉を開け、愛凛の部屋へ入ってきた。


愛凛「に、兄さん…!?」アタフタ

そして、愛凛を抱きしめた。

凛怜「すまなかった…。俺は愛凛の言葉を聞かずに一方的に怒鳴りつけてしまった。本当にすまない!」

そう凛怜が言うと、愛凛は落ち着きを取り戻し。

愛凛「…兄さんは悪くない、私が軽率だったんだ。」



凛怜「違う!お前なりに皆を守りたかったんだろ?俺は、それすら否定するような事を言ってしまったんだ…。」

愛凛「…。」

凛怜「お前の気持ちを教えてくれないか…?」


愛凛「私はただ守りたかっただけだった、兄さんの元仲間でも信用なんか出来ない!私のやり方は間違っていたのか?私は力を示そうと思った訳じゃないんだ。ただ、兄さん達を守る為に…。私はどうすれば良かったんだ!何が正しいのか分からなかった…いや今でも分からない…。兄さんは、なんでこのやり方を否定するんだ?なんで…?」


愛凛の心の叫びが言葉となって、吐き出される。



凛怜「愛凛、俺はな、その力を無闇に振るって欲しくなかった。その力は使い方次第でお前自身を蝕み、お前自身が大切にしてるものをも蝕む。俺は愛凛が愛凛で無くなることが一番怖いんだ。お前がお前達が何も感じなくなってしまう事が一番怖いんだ…何も失いたくない、失って欲しくないんだ。俺のように化け物になって欲しくないんだよ…。」


真剣な顔でそういう凛怜だったが、また愛凛が叫ぶ。


愛凛「兄さんは、化け物なんかじゃない!何も出来なかった、ただ死を待つだけの私達に色んなものを与えてくれたのは、私達の兄さんだ!そんな兄さんが化け物の訳が無い!」


愛凛が私達の気持ちを代弁するかのように、凛怜に言う。


愛凛「兄さんはとても温かい人だ。あの日、出会った時から、私に手を差し伸べてくれた時から、ずっとずっと私に温もりをくれた。力の意味を教えてくれた兄さんが、自分の事を化け物だなんて言わないでくれよ…兄さん…。」

愛凛は涙を流しながらも、必死に凛怜に訴えかける。

凛怜「…ごめん、ごめんな…。」


凛怜は、ただただ謝り続けながら、愛凛の頭を撫でる。

愛凛は何も言葉を発さず嗚咽をしている。

今どんな気持ちなのか、考えるだけでも、私は胸が締め付けられる。

私が言うのは簡単だけど、そんな事をするのは無粋だと思っているから、口を噤むが、愛凛の気持ちは私には痛いほどわかった。


しかし、愛凛にも凛怜にも、お互いの考えを分からせるには良い機会なのは事実、私は黙って見続けることに徹する。



凛怜「落ち着いたか…?」

愛凛「…あぁ、すまない。」

凛怜「大丈夫だ。」

凛怜が、笑って答える。


愛凛「なぁ、兄さん。」

凛怜「ん?なんだ?」

愛凛「わ、私はこれからも兄さんの刀でいいの?そばにいていいの?」


不安そうな様子で凛怜に尋ねる。


凛怜「当然だろ、俺の刀はこれまでもこれからも愛凛しかいない。むしろ、俺のそばにずっといてくれ。」

愛凛「!あぁ!絶対離れない!ずっとそばにいる!私は兄さんのものだ!」



…ちょっとまって、何その求婚みたいなセリフ。

それと、愛凛?さっきまでのシリアスはどこにいったの?ねえ!


凛怜「少々言い過ぎなとこはあるが、まぁそうなるのか…?」


真剣な顔で何言ってるの?ばかなの!?


愛凛「私がずっとそばにいて、兄さんを幸せにすれば、自分が化け物なんて考えはなくなるし、ずっと守っていける!兄さんが化け物じゃないって証明できるんじゃないか!」

凛怜「…なるほど。」


え?なんでそうなるの?てか、なんで凛怜は納得するの?愛凛、軽くトリップしてるわよ?いいの?


…この子、凛怜の事になるとお馬鹿になるって忘れてたわ。


頭が痛くなるわ…。


愛凛「素敵だと思うんだ。姉さんもそうは思わないか?!」

あ、私に振るのね…。

愛凛と凛怜の視線が私に注がれる。


紅葉「…まぁとても素敵な事だけれど、私ではなく私達でしょ?」


もうこう言うしかなかった…。むしろこの状況でここまで言えたことを褒めて欲しいと思う。


愛凛「そうだな!凛怜、私達が付いてるから、安心してくれ!」

凛怜「あはは、そうか、ありがとうな。」ナデナデ


凛怜は愛凛の頭を撫でる。

…もういいわよね?


紅葉「…凛怜、愛凛ばかりずるいんじゃないかしら?」

凛怜「ん?おう、紅葉もありがとう。」ナデナデ


凛怜が私を撫でる、凛怜に撫でられるのはとても久しぶりだ。

この幸福感に身を任せる。

しかし、この幸福感も愛凛の一言で全て無くなる。


愛凛「…兄さん、そ、その、き、今日一緒に寝ないか…?」

紅葉「あ、愛凛?!」

愛凛「い、いや、その…寂しいな…と。」モジモジ

あなた、キャラ崩壊起こしてない?


凛怜「…いいぞ。」

紅葉「ほ、本気なの?!」

愛凛「…ほんとか!」パァ


私は驚愕し、凛怜を凝視する。


凛怜「俺のせいで、寂しい思いをさせてしまったのは事実だしな、それに妹の頼みは断れん!」


…凛怜がシスコンな事を忘れてたわ。


ここで、私が諌めてもいいのだけれど、愛凛のこんな顔を見ると、ダメとは言えない…。(紅葉もシスコン)

ここは、私も…。


紅葉「わ、私も一緒に寝るわ!」

凛怜「お、おう?」

愛凛「姉さん!?」

紅葉「良いわよね?良いでしょ?凛怜?!」

凛怜「お、おう、いいぞ。」

愛凛「…。」ムゥ

愛凛は、私も一緒に寝るのが気に入らないのか、むくれている。


私だって、凛怜と寝たいもん、凛怜の…ばか。








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