第3話 修羅場のち修羅場


愛凛side


これはどういうことだ。

なぜ、凛怜が変態女に抱きつかれている?

いつもなら、避けたりして抱きつきを回避するのに、今回はそれをしなかった。それだけでも嫌なのに、極めつけはこの変態から出た言葉だ。


エリス「嫌よ、婚約者に抱きついて何が悪いの?」


この言葉で私の世界は止まった。

は?こんやくしゃ?こんにゃくの一種か?

まさか結婚するつもりなのか?…嫌だ。認めない!

私は認めない。なぜ、私じゃだめなのか?

目の前で凛怜が撃たれた時、私は無力感でいっぱいだった。結果的には生きていたが、私の手からこぼれてしまう事が、私にとっての絶望なのだと身をもって知った。


絶望した私にこの女はさらに追い打ちをかけてくる。


エリス「私達は婚約したのよ。」

紅葉「り、凛怜?本当なの…?」


紅葉姉さんが凛怜にそう問いただす。

そうだ、もしかしたら嘘かもしれない。きっとそうだ、そうに決まってる。と思い、凛怜に視線を向ける。

頼む、嘘だと言ってくれと必死に願いながら…。


凛怜「…本当だ。」


しかし、現実は残酷だった…。世界が昔のように灰色になっていく感覚がする。


一葉「……嫌だ。認めない!私は認めない!」


一葉が涙を流し、大声で叫び、そのまま走ってどこかに行ってしまった。

紅葉「…愛凛。」

愛凛「…分かってる。」

私は紅葉姉さんが言いたいことを瞬時に理解し、部屋から出るのだった…。




一葉side


私は泣いている。生まれてこの方、こんな気持ちで泣いたことなんてなかった。

捨てられた時も迫害された時も辛いなんて思ってなかった。

けど、人間としての温かみを教えてくれた凛怜が私以外と一緒になるなんて、嫌だ!認めたくない!


私は、捨てられるのだろうか、呆れられたのかもしれない。そう思うと、辛くて辛くて死にそうになる。

愛凛「…一葉。」

愛凛姉さんだ、追いかけてくれたんだろう。

一葉「愛凛姉さん…!」グスッ

私は愛凛姉さんに抱きついた。

愛凛姉さんは無言で抱きしめ、撫でてくれている。


愛凛「泣きたい時は泣けばいい。その後で私が絶対笑わせてやる。」

この言葉に聞き覚えがあった。

愛凛「凛怜の言葉だが、安心して泣け。」

と、抱きしめる力が少し強くなって、私は更に泣いてしまった、今だけは許して欲しいとそう願いながら…。



瑠衣side


僕は、少しの違和感を覚えていた。婚約したのは間違いないだろうけど、凛怜の様子に何か違うのではないか?と、思ってしまう。

これは僕の能力だから、感じられることなんだろうけど、やはり気になってしまう。

最初は婚約と聞いて、気が動転していたけど、この違和感が気になり、すぐにでも問い正したい気持ちでいっぱいだった。


瑠衣「凛怜、なにか隠してない?」

僕がそう言うと、凛怜と紅葉の視線が僕に向けられる。

凛怜「…気のせいじゃないのか?」

やはり、怪しい。わずかだが、動揺している。

瑠衣「僕の能力、知ってるよね?」

凛怜「知っているが?」

瑠衣「確かに、婚約したのことに対して嘘のようなものはなかったけど、煮えきれない違和感があった。」

凛怜「…。」

瑠衣「お願いだから、答えて。」

凛怜「…エリス。」

エリス「はぁ、いいわよ。」

と、観念したような顔をしている。


凛怜「…皆にも言っておくことがある。愛凛と一葉には後で俺が言っておく。エリスそろそろ離れろ。」

というと、意外なことにエリスは素直に凛怜から離れ、椅子に座る。

それを確認すると、凛怜の口が開いた。

凛怜「実はな…」


凛怜はなぜこうなったのかを僕と紅葉姉さんに話した。


凛怜「……というわけだ。」

紅葉「…そう。」

と、紅葉姉さんは凛怜に近づき、手を上げた。

凛怜はビンタをされるのだろうと、目を閉じていたが、バチンというビンタ特有の音が出ることはなく。

紅葉「ばか…。」グスッ

泣きながら凛怜に抱きついている姉さんが居た。

凛怜「わりぃ、紅葉。」

本当に申し訳なさそうにしている凛怜は紅葉姉さんの頭を撫でながら抱きしめている。

それを見ていると僕に気づいたのか

凛怜「瑠衣、来るか?」

と、優しく空いている右腕を僕の方に差し出してくれる。僕は勢いよく抱きついた。


瑠衣「ばかばかばか!」グスッ

凛怜「すまなかった、瑠衣。」

もうこの温かさを味わえないと思っていた僕は、久しぶりに泣いてしまった。

もう離さないように、他にいかないように抱きしめる力を強くするのだった…。


紅葉side


婚約と聞いた私は、絶望では表せないほどの苦痛を強いられているような感覚だった。

でも、瑠衣のおかげでそれが偽装だということが分かり、ダムが決壊したかのように、涙が溢れ、凛怜に抱きついていた。

凛怜の温もりを、また感じられる。

それだけで、先程まであった、私の絶望感は一気に幸福へと塗り変わる。

あぁ、やっぱり好きなんだとそう思える。

私と凛怜は同じスラム街で出会い、今まで片時も離れなかった、同じ実験施設に拉致られた時も逃げ出した時もいつも一緒だった。

まだそばにいられる。今はこれでいい。

とりあえず、この話が終わったらお仕置をしよう。


私達を悲しませた罪は大きいわよ?

覚悟してね凛怜?


凛怜side


やっぱ、悪ぃことしちまったなぁと、抱きついて泣いている2人を見て罪悪感が湧く。


エリス「」ムゥ


エリスはその様子を、頬を膨らませ、面白くなさそうな顔をして俺たちを見ていた。

しかし、悪いことをしたという自覚があるのか、ただ、そうしているだけで特に何もしてこなかった。

エリスにも後で謝らないとな。


それに、愛凛と一葉にも説明しねえと…。

今頃泣いているであろう2人を想像し、これから大変になるんだろうなぁと、自業自得にも関わらず、そんなことを思ってしまうのだった…。



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