第43話 海ダンジョン
次の日、俺はこの港町でのもう一つの目的地へと向かった。
その目的地とはダンジョンだ。この港町にはなんとダンジョンがあるのだ。
ただし、全く人気がないダンジョンだ。何故なら入ったらすぐ海が広がっているからである。このダンジョンが内陸にあったなら利用価値は高かっただろう。しかしここは港町。すぐそこにも海がある。ダンジョンの海は魔物が多いため、自然界の海よりも危険が伴う。結果、俺のような観光客が記念に覗きに行く程度しか人は訪れない。ダンジョンは放っておくと魔物の氾濫が起きたりするらしいが、このダンジョンでは過去に一度もそういった事は起きていない。海中から魔物が陸に上がってくるようなことはないのだろう。一応、警備の人はいるが出入りは自由だ。
ダンジョンの入口は地下へ続く洞窟のようになっていた。警備の人に挨拶して入らせてもらった。
階段を降りていった先には話に聞いていた通り海が広がっていた。何故か空もある。完全な別空間ということだな。洞窟周りだけが砂浜になっていて、小さな島のようだ。海の方へ気配察知を集中させながら海岸沿いを歩ってみた。しかし、どうも海中は気配察知では探りにくいようだ。シュバルツにも試してもらったが、魔物の反応はあるが確かに分かりにくいとのことだった。
俺は割と本気でこのダンジョンを探索しようと思っている。過去に探索を試みた冒険者の人たちはいたらしい。船を準備して海へ乗り出したそうだ。しかし、出航してすぐ魔物に襲われ、船に穴を空けられて退却したという結果で終わったとのこと。つまり未だに2階層へ降りる場所すら見つかっていない。2階層への階段が海中にあるようならそもそもお手上げだが、スタート地点の小島のような場所にあるのなら俺の空中移動で辿り着けるのではないか。
誰も探索していないダンジョン、夢が広がるな。戻ってこれるように方角を確認して出発だ。
しばらく進むが海が広がっているばかりだ。何もない。
「ミャーオ。ミャーオ。」
鳥の群れが飛んできた。ウミネコかな。いや、ダンジョンは普通の動物は発生しない。いるのは魔物だけだ。つまりあの鳥の群れは魔物だ。
『シュバルツ、近づいたら看破よろしく。』
『了解です。主殿。』
ウミネコは左右に別れてこちらを囲みだした。そして一斉に火の玉を発射してきた。
一発一発は大したことなさそうだが、数が多すぎて防ぎきれそうにない。急いで障壁を駆け上がって上空に退避する。
『シーキャットです。暗視はないようです。単体では大して強い魔物ではないですよ。』
『分かった。視界を奪って一匹ずつ叩き落とすか。』
ブラックアウトとサイレンスを発動させるとウミネコはウロウロしだした。近づいては殴ってを繰り返していく。途中で面倒になって引力スキルで引き寄せて撲殺に切り替えた。二十匹以上いただろうか、撲殺したウミネコは霧散して消えていった。ダンジョンでは魔物の死体は残らない。ドロップ品と思われる物が海に落ちていく。
戦利品ゼロか。人気がないわけだよ、このダンジョンは。頑張って討伐しても全部海の藻屑だ。
昼過ぎまで進んでみたが、海が広がるばかりでたまにウミネコの大群に襲われるだけだった。一度だけ単体で飛行する真っ黒の鳥の魔物に遭遇したが、すごい速度で突っ込んできて障壁にぶつかって死んだ。
今日のところは引き返すことにした。明日は違う方角を探索してみよう。
探索開始から三日目、ついに陸地が見えた。スタート地点より少し大きいくらいの島だ。離陸して地図に方角とおおよその距離を書き留めておいた。島にはヤシの木と思われる植物が数本生えていた。魔物の気配はない。ぐるっと島を散策してみると草むらの中に大きな細長い木の箱があった。
これはっ!ダンジョンお約束の宝箱か!でも箱の形が全然宝箱っぽくない!
『シュバルツ。看破で罠があるか確認できるか?』
『多分できますよ。その箱は普通の箱のようですよ。』
『まさか、一階層で宝箱があるとはな。探索者第一号の特権だな。』
念の為、ロッドの先端を差し込んで慎重に蓋を空けた。
中にあったのは・・・なんだろうか、これは。
巨大なロケットランチャーのような物が入っている。
ダンジョンでは魔道具を越えた力を持つ、古代の遺物・アーティファクトと呼ばれる謎技術で作られた物が産出することがあると言われている。これもその一つだろうか。
持ち上げることはできるが大きすぎて構えることができない。デュンケルなら両手で何とか構えれるという大きさだ。試しにデュンケルに構えてもらって、引き金らしきものを引かせてみた。
ガチンッ!と大きな金属音が鳴ったが、特に何も起きなかった。
デュンケルはしばらくその謎物体を色んな角度から眺めて調べていた。そして影の中に入って鉄の塊を持ってきた。その鉄の塊を細長く槍のような形に変形させて謎物体の尻の方から詰め込んだ。
数メートル先のヤシの木の方に向けて再度構えて引き金を引く。
ガキンッ!ボッ!という音とともに鉄の槍は木の幹に風穴を空けて海の彼方へ飛んでいった。
ああっ!貴重な金属物資が海の藻屑に!
デュンケルからは『これ、おもしろい。』という意思が伝わってきた。
この謎の物体は巨大ロケットランチャー型のバリスタみたいな物だったようだ。射出機構が一体どうなっているのかさっぱり分からないが、これがアーティファクトなのか。連射はできそうにないが、デュンケルに持たせておけば良い切り札になるだろう。
宝箱の中身は想像していたものとは大きく違ったが、良いものが手に入った。
この日の探索はここまでにして撤退することにした。
翌日も違う方角に向けて探索を進めていると、入り口の時のような洞窟がある小島を発見した。
おそらく、あれが二階層への入り口だろう。高度を下げながら小島へ向かって進む。
『主殿!魔物の反応です!』
巨大なサメのような魔物が海中から姿を現し飛びかかってきた。
跳躍して躱して様子を伺う。相手もこちらを伺っているようだ。俺の真下をグルグル泳いでいる。
『キラーシャークです。魔法は持っていないようです。さっきの突撃だけ気をつけていれば問題有りません。頑強Lv2。暗視もなしです。』
『でかいだけのサメか。それなら問題ないな。』
多分、このサメが次の階層への階段を守るボスなのだろう。ここは一階層だから大した魔物ではないようだ。だが、船で攻略するのは難しいだろうな。
俺は高度を上げたまま進み小島へ離陸した。そして二階層への階段を降りて行った。
ボスのサメは無視した。
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