第42話 約束された勝利

翌朝、ギルドの買取所に行ってワイバーンの素材代金を受け取った。早朝から開いているのは有り難いね。

肉は保管庫に取りに行くことになるが、その前に朝飯にしよう。ギルド併設の酒場へ向かうことにした。

昨日、従魔OKの飯屋を探し回ったわけだが、よく考えたらギルドの酒場は従魔OKだったのだ。今後の旅の間は露店の食べ歩きか、ギルドの酒場が主な食事処となるだろう。


ギルドの酒場はその街によってメニューが大きく異なる。その街の特産品を使ったものなどもあっておもしろい。

この街の場合は魚の加工品が扱われている。これもおいしいのだが、やはり新鮮な海産物は港町まで行かねばならないようだ。

酒類も南方面に来てからご当地ものの果実酒がよくある。俺はビール党だったので、今まで他の酒はほとんど飲んでいなかった。しかし、旅先で色々な酒を飲んでいると興味を持つようになってきた。今では楽しみのひとつなのだ。

どうやら海の向こうからの交易品に蒸留酒があるらしい。それに漬け込んで果実酒を作っているようだ。内陸のリビアでは蒸留酒を見なかった理由はこれか。おそらくこの国に蒸留酒を作っている酒蔵はないのかもしれない。リビアに戻ったら研究させてみよう。そういえばローレンス商会が買収した酒蔵を一度も視察していなかったな。そろそろ最初の仕込みが成功していればビールができているかもしれない。早く帰りたくなってきた。これがホームシックというやつか。


朝食後、解体場の保管庫に案内してもらって大量の肉を受け取った。これでいつでも高級肉が食えるな。帰ろうとすると解体場のおっちゃんに止められた。

「待て。裏口に案内してやるからそっちから出ろ。表はワイバーンが持ち込まれたのを聞きつけて商人共が集まってきた。」

おっちゃんが気を利かせてくれたようだ。ここも良い街だな。


この街でやるべきことは終わった。さあ出発だ。

ここから先は村が三つほどあってその先が港町フレネだ。

街道は相変わらず馬車がたくさん行き交っているが、この辺りは平原が広がっている。平原なら周囲に気を遣う必要はない。スピーダーで爆走して村は全部スルーだ。今日中に港町を目指そうと思う。

街道から少し離れた所でスピーダーに乗った。最高速度で風を切って進む。これだ、この速度だ。この速度こそスピーダーの真価だ。最高のドライブだな。視界の端に警備隊っぽい人たちがいたような気がしたが気にしない。俺は何も悪いことはしていない。


途中で昼休みをとりつつ、ドライブを続けていると夕方には目的地が見えてきた。

海の匂いがしてきた。潮風が気持ちいい。

入り口から離れたところでスピーダーを降りた。悩んだがシュバルツに出てきてもらった。この町では食べ歩きすることになるのだ。町の人達にも見慣れてもらう必要がある。

いつものように少し騒ぎになるが、問題なく街に入れた。

先に宿をとっておくか。オーシャンビューが見える所を探した方がいいのだろうか。どのみち海岸で夜バーベキューするなら海に近いほうがいいよな。完全にバカンスに来た気分で宿選びだ。海に面した高級宿があったのでそこに決めた。一泊大銀貨5枚もしたが気にしない。途中でワイバーンという臨時収入もあったし、フィデルさんからもたくさん報酬は貰っている。普段の狩りでの収入も有り、今や俺は小金持ちなのだ。金が無くてシルビアさんの前で土下座した頃が懐かしいな。あの時は恥ずかしかったな。

いや、暗い過去を思い出すのはやめよう。俺はバカンスに来たんだ。海産物を食いまくってやるんだ。ビールを片手に街を練り歩いてやる。そうだ、リビアの人たちにもお土産で多めに買って帰ろう。マジックバッグに一杯仕入れて帰るんだ。

流石に夜は露店はないので、その日の夕食はギルドの酒場で食べることにした。交易品の蒸留酒を頼み、海産物メインでどんどん料理を注文した。山盛りシーフードピザは絶品だった。これでもかというほど海の幸が盛られていて食べにくかったが。シュバルツもご満悦の様子だ。もちろん、持ち帰り用に多めに注文してマジックバッグに入れておいた。


宿に戻って飲み直すことにした。

ベランダで夜の海を眺め、潮風にあたりながらいつものビールを飲む。

シュバルツもフライドポテトを摘みながら、大皿型ステンレスタンブラー(冷却魔道具搭載)に波々と注がれたビールを飲んでいる。デュンケルも巨大なビールジョッキタンブラーを片手にグビグビ飲んでいる。


霊獣って酒飲むんだな。今度先生に報告しよう。


翌朝、目的の新鮮な海産物を手に入れるため市場へ向かった。

途中の露店で海鮮スープと海鮮サンドイッチで朝食を済ませて巨大な市場に到着した。この生臭さが港町らしくて良い。意外と不快感はない。シュバルツは臭いと言って影に戻ったが。

端から順に見て回って大量に仕入れて行く。ホタテ・牡蠣・サザエなど貝類は好みなので特にたくさん仕入れた。ムール貝っぽいのもあるな。ビール蒸しにして酒のつまみにしよう!魚類も捌いてもらった物を沢山購入した。奥の方まで行くと干物などの加工品を作っている場所があった。あれは鮭とばかな。買うしかない!海藻類もあるな。これも買っていこう。干物も大量に購入して俺は満足して午前中の戦いを終えた。


昼飯は露店でビールを片手に買い食いだ。シュバルツとデュンケルも楽しそうに店を見て回っている。

炙られる海産物の匂いはどうしてこんなに食欲をそそるのか。

そんな中で一際高額な商品が目についた。網の上で踊るアワビだった。さっきの市場にはなかったぞ。これは食わねばなるまい。うむ、火を通すと柔らかくて食べやすいな。確か生だと結構歯ごたえがあったはずだが。どうもこの世界では生で食べる習慣はなさそうだった。俺は生食はそんなに好きではないので気にしないが。

アワビも大量に買って、謎の巨大魚の解体ショーを見たりして午後を過ごした。

交易品を扱っている店があったので覗いてみた。話に聞いていたとおり米があった。でもカツ丼があるから特に買う必要はないな。それより酒を買うかな。む、あの黒い液体は・・・。店主に了解を得て少し舐めさせてもらった。醤油っぽいものだった。今夜のバーベキューに必要な物がこれで全て揃ってしまった。俺は謎の勝利を確信して醤油を大量に購入した。


その夜はビーチでバーベキューだ。網の上でいい感じになってきたホタテに醤油を垂らす。香ばしい香りが漂いシュバルツが涎を垂らしている。

『主殿!まだですか!』

『待て!待つんだ!これで終わりではない!レイクスにいた頃に大量に仕入れていたバターが俺にはある!この時を読んでいた俺に間違いはなかったのだ!』

昼間の露店にはバター焼きはなかった。今回はバター醤油で頂くのだ。シュバルツの皿に焼き上がったホタテを入れてやる。シュバルツはペロッと食べてしまった。

『主殿。私は昼間の露店で満足していたつもりでしたが、間違っていたようです。霊獣として長く生きてきましたが、これほどの物がこの世に存在するとは思いませんでした。』

『そうだろう!そうだろう!俺たちの勝利は約束されていたんだ!さあ、どんどん食え!』

謎のテンションで俺は焼きまくった。懐かしい醤油の味でおかしくなっていたのかもしれない。

『この街は最高ですね、主殿。この貝とタコが気に入りましたよ。』

『満足してくれて何よりだ。だが、シュバルツ。お前は忘れているだろう。』

『まだ何かありましたか?』

『俺たちにはこいつがいるんだ!出てこい!ワイバァーーン!』

網の上に厚切りのワイバーンステーキをのせた。

『おお!そういえば先日のは仮の祝杯でしたね!本祝杯がまだでしたね!』

『そのとおり!俺たちの本当の祝杯はこれからだ!』

綺麗なサシの入ったワイバーン肉は食べたことのない旨さだった。シュバルツの尻尾が盛大に振られている。どうやら満足しているようだ。デュンケルもビールを飲みながら、ビーチの砂で立派なワイバーンの砂像を作って楽しんでいるようだった。


こうしてハイテンションのまま夜は更けていった。

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