第41話 ワイバーン襲来
翌日、領間の関所になっている街の南門を出た。ここからがシュミット子爵領だ。
山を大きく迂回するように街道が続いている。つまり山の中を突っ切って行けば最短距離だ。
スピーダーで街道をのんびりドライブしながら行くか、空中移動で山を抜けるか。
街道がすごく渋滞しているから山の中を進むか。おそらく馬車の事故でもあったのだろう。
俺は霊獣探索も兼ねて山の中を突っ切ることにした。
空中移動しながら荷馬車のことを考える。荷馬車の事故が多いのだ。破損して動けなくなったり、轍に嵌ったり、魔物に驚いて馬が暴れたりと結構な頻度で起こっているようだった。その度に道が塞がってしまう。荷馬車に代わる貨物車を作ることはできないだろうか。動力の魔道具はどんな物にするのか、タイヤはどうやって作るのか。やっぱり俺には車を作ることなどできそうにないな。単純なスピーダー方式か。だがスピーダーは積載量が限られる。いや、荷物だけ載せたものを浮かせて連結させればいけるかもしれないな。二人乗り用スピーダーが完成すれば座席無しで積載量150kg位までならいけるんじゃないだろうか。荷馬車に比べると積載量少なすぎるな。やっぱりスピーダーで貨物車は無理か。スピーダーはマジックバッグ持ちの人向けだな。
『主殿!ワイバーンです!』
考え込んでいる間に結構進んでしまっていたようだ。
ワイバーンか。今なら倒せるかもしれないな。よし、挑んでみよう。
『シュバルツ、デュンケル。レンタルパワーをくれ。』
空中を走っていたため、既に相手に補足されている。地上に降りて襲ってくるのを待つとしよう。
少し距離を置いてワイバーンは風魔法を放ってきた。障壁二枚で防ぐが、一枚ヒビが入った。スキルレベル8の障壁にヒビが入るとは、ちょっと舐めすぎていたかもしれない。風魔法は見えないのが怖いんだよな。翼を羽ばたくような動作をすると一瞬緑色に光る。それが風魔法の発動の合図だ。使ってこないが火魔法も持っているはずだ。警戒しなければ。
ワイバーンは俺の頭上を旋回しながら様子を伺っている。ロックバード戦の時みたいに突撃してきてくれたらカウンターかましてやるんだが。時々止まっては風魔法を撃ってくる。旋回している範囲が広いから意味ないかもしれないが、ブラックアウトで視界を奪ってみるか。少なくとも俺の姿は隠せる。
『シュバルツ!接近したら看破してくれ。暗視スキル持ちかどうかを知りたい。』
ブラックアウトとサイレンスを発動させて、一気に障壁を駆け上がる。旋回する動きを呼んで先回りするように接近する。
『暗視Lv5です!』
くそっ!見えてるのか。そのままワイバーンを正面から迎え撃つ姿勢をとる。
『頑強Lv4、風魔法Lv7、火魔法Lv5、聴覚Lv5、気配察知Lv3サイレンスも効きませんね。これは逃げましょう。』
ワイバーンは風魔法を放ち、そのまま突撃してきた。障壁で風魔法を防ぐと、ワイバーンは急に方向を変えて俺の背後に回り込んで風魔法を連発してきた。障壁を出し直し、闇魔法のシールドも発動準備させる。今度は頭上からも風魔法を撃ってきた。頭上はシールドで防ぎ、気配希薄を発動する。シールドは半透明な障壁と違って視界を塞ぐ障害物だ。シールドから思い切って飛び出して側面から距離を詰める。相手の反応が遅れ、ウィークポイントからの強撃コンボが左翼に当たった。怯んだ隙にさらに間合いを詰めて追撃を仕掛けて殴る殴る殴る。
魔法は使わせないぜ!オラオラオラオラオラ!
爪を振り回して反撃してきたので、相手の頭上に回り込んで躱した。
『デュンケル!今だ!出てこい!』
俺の背後から超質量物のデュンケルが飛び出し、ワイバーンに組み付いた。ワイバーンは必死で羽ばたいていたが、そのままゆっくり墜落していった。俺もすぐに追いかけて、ワイバーンの頭を殴りながら降下した。地上に着陸する寸前で全力の強打を叩き込み討伐することができた。
『主殿、おめでとうございます。しかし無茶をしますね。』
『ああ、勝算の低い戦いは俺らしくなかったな。逃げるべきだったと思うよ。デュンケルも巻き込んですまなかったな。』
デュンケルは珍しく気分が高揚しているようだ。役に立ったのがうれしかったのだろうか。
折角の大物だ。血抜きをして回収しよう。
『いやはや、本当によく倒せましたね。私が以前見たワイバーンよりスキルレベルも高かったですし、これは強力な個体ですよ。』
『みんなで協力した戦果だよ。三人の勝利だ。』
『そうですね。今回も私は大活躍してしまいましたね。今夜は祝杯ですね。』
霊獣二匹がハイタッチを交わしている。
本当に俺一人では討伐することはできなかったな。
相手の気配察知のレベルが低かったから、いけるんじゃないかと思ったんだよな。それに俺は真っ黒の格好をしているから、暗視スキルを持っていても相当見えにくいのではという賭けでもあった。結果、相手は接近を許してしまったわけだ。しかし、頑強レベル4の装甲は俺の攻撃では仕留めきれず、デュンケルに頼ることになってしまった。
だが、今回の戦闘で思いついたことが有る。武器を改造しよう。ロッドの先端を尖らせて刺突武器としても使えるようにすれば決定打になるだろう。
流石に一日で山越えは無理だな。見晴らしが良く周囲を警戒しやすい高台があったので、ここで今夜の祝杯をあげるとしよう。
『本当ならワイバーンの肉で祝杯といきたいのだが、ワイバーンの解体ができんからな。今日は他の肉で我慢だな。』
『ワイバーンの肉は食べたことがないので楽しみですね。』
『高級肉扱いらしいからな。楽しみだな。』
港町で海鮮バーベキューを想定してバーベキューコンロを作ってきている。このバーベキューコンロを使って炭火で焼いたブラックブル肉で今日は祝杯だ!
どんどん肉を焼いていき、ビールで流し込んでいく。今日は快晴。満天の星空だ。大自然に囲まれて星を眺めながらの酒は最高だな。生き残って良かったな。
翌日、早朝から山越えを再開する。そんなに大きな山ではないのですぐ越えられるはずだ。
遠くに街が見えてきた。グローネの街だ。あの街を越えて行った先に目的の港町がある。
森を抜けた所でスピーダーに乗って進み、夕方前には街に到着した。
宿を予約しておき、冒険者ギルドの解体場に向かった。ワイバーンの解体依頼をお願いするためだ。
「おう、いらっしゃい。解体依頼か?」
「ワイバーンの解体をお願いしたいのですが、どこに出したら良いでしょうか?」
「ワイバーン仕留めたのか!ここに出してくれ。」
影の中からワイバーンが出てきた。デュンケルが出してくれたようだ。気の利くやつだな。
「こいつは大物だな。久々に腕がなるぜ。」
「肉以外は全部買い取りでお願いします。肉はこのマジックバッグに入る大きさにしておいてください。」
「分かった。今日中には終わるだろう。明日取りに来るといい。」
観光しつつ従魔OKの飯屋を探す。しかし、どこもシュバルツの姿を見ると入店を断られてしまった。シュバルツがどんなに悲しそうな顔をしても駄目だった。仕方ない。露店で買い食いするか。
魚の干物なんかもあったが、これから港町に行くわけだからここで食わなくてもいいかな。でもマジックバッグに保管する用は買っておくか。結局、買い占めてしまった。
露店で買い込んで広場でシュバルツと飯を食う。シュバルツは魚のすり身団子が入ったスープをうまそうに食っている。スープの入った大きな深皿はローレンス商会でシルビアさんに勧められて買ったものだ。シュバルツ用に大きめな皿がいるはずだと言われて皿は一杯買っている。最近は料理のストックをマジックバッグに入れておくようにと、鍋を一杯買っている。これも大変役に立っている。今日の露店で買ったものは全部鍋単位の量で買ったからな。やっぱりシルビアさんの勧める商品に間違いはないな。
スープパスタみたいな料理があったがこれはうまいな。これからは露店巡りもいいかもしれないな。
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