第40話 旅の途中の飯
翌朝、街へ戻ることにした。
戻っている道中もデュンケルは影の中で作業を続けてくれている。
『本当に働き者だなあ、デュンケルは。シュバルツはいつもゴロゴロしているというのに。』
『私の霊獣補正がかかっている暗視・隠蔽・潜影のスキルは24時間365日、常に発動しているのですよ。貢献度が違うのですよ!貢献度が!』
シュバルツがドヤ顔で何かのたまっているが無視しよう。
街に戻ってからは真っ直ぐ従魔ギルドを目指す。
デュンケルの従魔登録をしなければならない。
『そうだ、デュンケル。暇な時に腕輪を作っておいてくれないか?シュバルツが腕につけているように従魔登録タグをつけないといけないんだ。ついでにシュバルツの腕輪も格好良く作り直してくれよ。』
シュバルツの腕輪は俺の金属魔法がまだ未熟だった頃に作った物だ。見た目もシンプルで、出来も良くないのだ。しかし、デュンケルからは拒絶の意志が伝わってきた。俺が作る物に興味があるらしい。
『分かったよ。後で作るよ。でも塗装は頼むぞ?』
従魔ギルドに到着した。受付はゴーレムみたいな四角い顔のごついおっさんだった。彼ならデュンケルと気が合うことだろう。この受付を選んでよかった。デュンケルに影から出てきてもらった。受付のおっさんは悲鳴を上げて奥に逃げていった。
一悶着あったが登録することはできたので、あとで腕輪を作るとしよう。
ジャレッド先生の研究所に立ち寄って報告を兼ねてデュンケルを紹介した。ついでに減ってきた魔結晶も買い込んだ。先生は魔道具師として魔結晶を安く仕入れるルートを持っているらしい。俺はいつも横流ししてもらっている。
鉄や銅などの金属類の在庫も減っていたので、鍛冶屋にも寄って補充していこう。デュンケルの暇つぶし用に多めに買っておいてやろう。きっと何かすごい作品ができるに違いない。
その日のうちにデュンケルたちの腕輪は作った。装飾も頑張ってみようとしたが、やっぱりシンプルな感じになった。だが、以前作ったシュバルツの物より遥かに格好いい出来だと思う。デュンケルに塗装してもらって完成だ。彼らの瞳の色に合わせて、デュンケルは赤色、シュバルツは金色の塗装にしてもらった。
うむ、よく似合っているじゃないか。彼らも気に入ってくれたようだ。
次に目指すのは先延ばしにしていた港町だ。海産物でバーベキューしたい。
しばらく拠点を離れることになるので、ローレンス商会に顔を出しておいた。デュンケルを紹介して港町へ向かうことを伝えた。ちなみにシルビアさんはデュンケルにはシュバルツやフリードの時ほど興味を示していなかった。やっぱりモフモフがいいのかな?地属性霊獣を探す時にはモフモフ属性を条件に加えるとしよう。
目的地となる港町フレネがあるのは南に隣接しているシュミット子爵領だ。オクスリビア子爵領とは交易が盛んで、この街道は立派に整備されており、馬車がたくさん行き交っている。海に面しているシュミット子爵領からは主に塩や海の向こうからやってくる香辛料などの交易品を、内陸のオクスリビア子爵領からは主に木材や鉱石類が取引されているそうだ。子爵同士も交流が有り、とても良好な関係なんだとか。当然、シュミット子爵領も治安が良い。そうでないと交易が成立しない。
街道周辺も綺麗に切り開かれているため、俺がスピーダーで走るのは街道の隣だ。馬を驚かせないように距離をとって低速で進んでいる。低速でもどんどん馬車を追い越せるので、あっという間に最初の村へ到着した。結構規模の大きい村なのだが、特に特産品らしい物はない。交易街道の宿場町といったところだ。近くに鉱山もあるので、労働者の方々もここをよく利用されているようだ。村も見て回ってのんびり旅するのもいいのだが、特におもしろい物はなさそうなので素通りすることにした。次の村も似たような感じの宿場らしいので、スルーしよう。
レラーグの街に着いた。ここがオクスリビア子爵領最南端の街で関所の役割も果たしている。
到着した時間が遅かったため、宿屋はどこも満室だった。仕方がないので影の中で過ごすとしよう。だがせめて飯と晩酌はこの街の酒場で楽しむことにした。おっ、この店は蒸留酒があるようだ。久々に飲んでみるかな。料理も適当に頼んで久々の蒸留酒を楽しんでいると、何やら周りが騒がしい。何だろうかと思ったらシュバルツが影から出てきて俺の飯を食っていた。
『おい、シュバルツ。勝手に出てくるなよ。従魔OKの店かどうか分からんだろう。それと俺の飯を食うな。注文してやるから。』
店員さんを呼んで聞いてみると、一応従魔OKらしい。ただ、くれぐれも問題を起こさないようにと注意された。追加で飯を注文してシュバルツと一緒に食事だ。霊獣は飯を食う必要はないらしいが、シュバルツはもりもり食べる。しかし、たまには喧騒の中で酒を飲むのもいいかと思ったが、こうもジロジロ見られてると飲みにくいな。
『シュバルツ。やっぱり影の中に戻ってくれ。周りの客から見られてると飲みにくい。』
『私は気にしませんよ?』
『俺が気にするんだよ。』
『では、こういうのはどうでしょう。デュンケルにも出てきてもらって、私と一緒に主殿を見えないように囲むのです。我々は体格が大きいので主殿を隠せると思います。』
デュンケルの『それはいい考えだ!』という意志が伝わってきた。俺がダメ出しする前にデュンケルは影から出てきてしまった。真っ黒い格好の俺は真っ黒い大きな狼と真っ黒い大きなゴーレムに囲まれた。隅の席だったので丁度、一人と二匹でテーブルを囲む形になった。隣の席の人は嫌だろうなあ、こんな怪しい連中がいたら。
周囲がざわつき出した。
『余計に騒ぎが大きくなってるじゃないか。というかお前ら重いんだから床が抜けないか心配なんだが。』
『大丈夫ですよ。さっきの店員さんからは従魔OKと言質は取りました。これでのんびり飲めますよ。』
『はぁ。もう何も気にしないことにするよ。衛兵がやってこないことを祈るよ。』
シュバルツは気にすること無くテーブルの上の呼び鈴を鳴らして、店員さんを呼んでメニューを指差して追加注文している。器用な奴だな。
『主殿、これはモロヘイヤ抜きで注文してください。』
注文が細かいんだよ。やっぱり影の中で一人飲みの方が良かったかもしれない。
衛兵が来ること無く飯を済ますことはできた。飯はなかなか美味かったので、多めに注文してマジックバッグで持ち帰った。一応、店員さんには迷惑をかけたと謝っておいたが、結果的には見物客がたくさん来て儲かったので気にしないと言われた。ここは良い店だ。帰る時はまた来よう。
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