第39話 新しい仲間

最近は鉱山周辺の探索を進めながら、スピーダー二号機の開発をしてみたり、ハンバーガーセットを食べに行ったりしている。ローレンス商会の飲食ブースはいつも満席なので、ハンバーガーセットもテイクアウトを始めたようだ。俺はいつも応接室にお邪魔して食っている。景気が良くて何よりだ。

スピーダー二号機は二人乗りを想定して開発中だ。二人乗りだと浮力を得るために底面が大きくなってしまう。浮力を得るための魔道具の数も多くなるので、シュバルツという魔素エネルギータンク有りでも燃費はかなり悪くなるかもしれない。以前、車好きの知人が古い中古の高級車(スポーツカーだったかな?)に乗っていたのだが、その彼曰く、燃費が悪すぎて金をばら撒いて走っているようなものだ、と言っていた。二人乗りより大きくしたスピーダーはまさにそんな感じになる。三人乗り以上の乗り物は動力を変えないと現実的ではないな。


そんな感じで一ヶ月くらい過ごし、三つ目の鉱山周辺の探索をしていた時だった。

『主殿、気配がします。近くにいますよ。』

『ん?何が?』

『霊獣ですよ。探していたんじゃないんですか?』

そうだった。鉱山周辺の探索に夢中になってしまっていた。本命は霊獣探索だったわ。

『おお。本当に見つけられるとは思ってなかったよ。』

さてどんな霊獣かな。地属性・・・いや金属属性だといいな。これは俺自身の強化のための探索なんだ。決して下心から探索していたわけではない。

『この先ですよ、主殿。・・・ん?』

何だ、どうしたんだ。またウンディーネの時みたいな闇落ちパターンは勘弁してくれよ。もう精霊殺しはしたくないんだよ。

『おかしいですね。確かにこの辺から気配がするのですが。』

『隠れているのか?』

『おそらくそうですね。私もでしたが、霊獣は基本的に隠れているものですよ。あ、いましたよ。ここです。』

『どこだよ。』

『この岩壁に擬態しているようですよ。』

『契約してもらえないか、交渉してくれないか?俺にはどこにいるのかさっぱり分からん。』

『さっきから話しかけているのですが反応がないのですよ。とても無口な方のようですよ。』

『契約魔法を使ってみるか。属性は分かるか?』

『金属っぽい感じの気配のような気がします。』

『よっしゃ、適正は有りなんだな。頼むよ。契約してくれ。』

うーん、反応なしか。

「このチョコクロワッサンあげるから契約してくれよ。」

うーん、やっぱり反応なしか。

俺が差し出したチョコクロワッサンにシュバルツがぱくついている。

『モグモグ。駄目そうですね。』

『霊獣が好みそうな物って何かないかな?』

『霊獣によって違うんじゃないですかね。私は影の中が好みです。』

『金属か・・・』

俺は焼き鳥の缶詰の空き缶とビールの空き缶を差し出してみた。

「精錬された金属だが興味はないかな?特に精錬されたアルミニウムはこの世界にはおそらく存在しない珍しいものだと思うのだが。」

少しの沈黙の後、岩壁の一部が動きだした。そして色が徐々に変わっていく。メタリックな黒い体に赤い目が妖しく光る。ゴーレムみたいな感じになった。どうやら空き缶に興味を示したようだ。追加で空き缶をいくつか出してやった。ゴーレムのような霊獣は空き缶を手にとって金属魔法で捏ねて遊んでいるようだ。

待っているのも退屈なので俺も金属魔法でスピーダー二号機の作成を進めることにした。シュバルツには周囲の警戒をお願いしておく。


気付いたら夕方になっていた。いかんな、俺は物作りを始めると周りが見えなくなる。

ゴーレム霊獣は既に作品をいくつか完成させていた。俺とシュバルツの金属像だった。とても良くできているが、俺はこんなに間抜けな顔をしていただろうか。俺のはともかく、シュバルツの像はすごい。金属はどうやったのか知らないが、黒く染められており、金色の眼もちゃんと表現されている。ポーズも躍動感に溢れていてすごく格好いい。このミニチュアシュバルツ像はぜひ影空間に飾っておきたい。

「すごじゃないか。俺と違って芸術センスがあるんだな。この像はもらってもいいか?」

ゴーレム霊獣はサムズアップしている。もらってもいいらしい。さっそく影空間に飾っておこう。先日、影空間内に作業台を設置したんだ。そこに飾っておこう。影空間に入るとゴーレムもついてきていた。シュバルツも入ってきた。どうやら知らない間に契約魔法は成立していたようだ。

『契約してくれたんだな。ありがとうな。よろしく頼むよ。外に出るのが嫌だったらこの空間にいてくれていいからな。』

何となくゴーレム霊獣から『よろしく』といった意志が感じられた。

名前をつけてやらないとな。ん~、黒いこいつを見ていると黒ビールが飲みたくなってくるな。

『よし、お前の名前はデュンケルだ。』


ステータス

名前:ルノ

性別:男

年齢:26歳

職業:商人

種族:人間

スキル:忍び足Lv4、気配希薄Lv4、精神耐性Lv3、契約魔法Lv3(契約霊獣『シュバルツ』『デュンケル』)、筋力強化Lv3、クリーンLv4、暗視Lv4(Lv9:霊獣補正)、隠蔽Lv5(Lv10:霊獣補正)、気配察知Lv4、身体強化Lv4、俊足Lv2、直感Lv3、杖術Lv4、体術Lv3、金属魔法Lv4(Lv9:霊獣補正)、魔道具作成Lv4、引力Lv3、解体Lv2、危険察知Lv4、回避Lv2、料理Lv2、闇属性魔法Lv2(Lv7:霊獣補正)(中級)、斥力Lv2、念動力Lv2、器用Lv2、方向感覚Lv2、地図作成Lv2、強打Lv2(打撃武器専用)、跳躍Lv2

固有スキル:潜影Lv3(Lv8:霊獣補正)、障壁Lv3(Lv8:霊獣補正)

称号:次元の狭間を超えし者、霊獣の契約者


うん、ちゃんと契約できているな。

障壁スキルにも補正がかかった!やった!大幅な戦力アップだ!

強度は確認するまでもないだろう。障壁スキルを試すとなんと三枚目の障壁を出現させることができた。今まで空中移動する時は足場で二枚の障壁を使ってたから、移動中に攻撃をされると障壁がすぐに出せなくて無防備だったんだ。これで安心できるな。


後で分かったのだが、どうやらデュンケルは珍しい金属に反応したというわけではなかった。精巧な空き缶の形に興味を持って、対抗心を燃やしていたようだ。根っからの芸術家というわけだな。デュンケルも戦闘に関しては全く期待できそうにないな。こいつもシュバルツ同様、すごく強そうな見た目なのだが。


もう日が暮れていたので、今日はこのまま影の中で一夜を明かすことにした。

夜もスピーダー二号機の作成を進めていたのだが、デュンケルはとても働き者だった。空き缶を加工する時に、金属魔法で塗装を落としてきれいな状態にしてから丸めて塊にするのだが、この作業を引き受けてくれた。俺が影の外に出て飯を食っている間も作業してくれていた。おかげで作業が捗った。


ちょっと休憩するかなと思って視線を上げると、作業台の上の俺とシュバルツのミニチュア金属像が目についた。デュンケルの像も欲しいな。デュンケルは自分の見た目が分からないのかもしれない。俺が作ってみるか。金属魔法のレベルも霊獣補正がかかっているので、今の俺ならそこそこ上手く作れるかもしれない。流石にデュンケルの芸術性には遠く及ばないだろうが。思えばこれまでいろんな物を作ってきたが、どれも実用性重視で見た目を気にして作った物は一つもなかった。ちょっと頑張ってみるかな。


小一時間頑張って何とか形だけはいい感じで作れた気がする。しかし、俺には着色する技術はない。デュンケルは色魔法を使えるようなのでお願いすることにした。体をメタリックな黒に、目は赤くと注文して塗装してもらった。うん、いいじゃないか。出来上がったデュンケルの像を俺とシュバルツの像と一緒に並べた。


デュンケルは喜んでくれているような気がした。

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