第38話 念願のハンバーガーセット
川の氾濫が収まったことを村人へ伝えて帰路についた。
この川の氾濫は子爵領内では問題視されていたらしく、領主への報告はジャレッド先生が研究報告と合わせて行うようだ。一応、領主へはウンディーネの件を全て報告するそうだ。まあ、後のことは先生に全部丸投げしよう。
それより、先生が領主に会うことができる立場だということに驚いた。先生の研究所はそれなりの人数が働いている様子だったし、どこから研究費用が出ているのかと思ったら子爵領の予算からだった。魔道具の作成もしているし、その売上もあるので相当な金持ちなのかもしれない。スピーダーを売るときはいくらで売りつけてやろうか。
さてこれからの予定だが、当初の予定では港町を目指して海産物を食べに行くつもりだった。しかし、計画を変更することにした。狩りをしつつ、もう少しこの子爵領内の霊獣探索をしようと思う。
この子爵領は森を切り開いてできた部分の多い内陸の領地だ。森に囲まれているので林業が盛んなのだが、他にも特産品と呼べるものがある。魔道具作成の時に使う魔結晶だ。この領地内には魔結晶が産出する鉱山があるのだ。鉱山周辺にシルビアさんの相棒になる地属性の・・・いや、俺の金属属性に適応した霊獣がいないだろうかと考えたわけだ。これは俺自身を強化するために必要な探索なのだ。
数日、鉱山周辺で狩りをしながら、シュバルツに魔素の濃い場所を探らせた。そんなに簡単に霊獣が見つかるわけがなかった。しかし、探索したのはまだごく一部。他にも鉱山はあるし、地図作成スキルを駆使して探索は続けたい。
ローレンス商会に今日も遊びに来た。特に用事はない。
いつものようにシルビアさんが笑顔で出迎えてくれる。世間話をして、いつも通りおすすめ商品を購入して散財する。
「そうだ、ルノさん。この後ランチでもいかがですか?」
いつもとは違った出来事が起きた。まさかのランチのお誘いがきた。心の準備ができていなかったので、変な声が出てしまった。
「ぜ、ぜひお願いします!」
現在準備中の飲食ブースに連れてこられた。
飲食ブースの入り口はたこ焼き器が塞いでおり、ボール焼きとベビーカステラのテイクアウトのみが販売されている。その奥に通された。既に厨房は完成しているようだ。フロアにはテーブルや椅子も設置されており、飲食ブースはほぼ完成している。
ホットサンドとアヒージョを注文して周囲を見る。フィデルさんや従業員もここで昼食中のようで、現在は社員食堂状態だ。
「部長、こちらが販売予定のホットサンド三種と季節野菜とチーズのアヒージョです。」
料理長が直々に料理を運んできた。
そういえばオープンまでもうすぐだったな。ランチデートに誘われたのではなく、俺は試食係として呼ばれたようだ。
ふむ、ホットサンドの中身は定番のレタス・ハム・スクランブルエッグにベーコン・チーズ・ほうれん草か。もう一つはフォレストバードの肉にトマトソース・チーズが入っている。これはボール焼きの材料を使いまわしているわけだ。コスト削減になるな。しかし、同じ味で形が変わっただけというのも芸がないし、飽きられないだろうか。全部うまいんだけどね。トマトソースに挽き肉を混ぜてミートソースにすれば変化をつけれるか。しかし、ミンサーはまだ完成していない。ハンバーガーも食べたいし、早く完成させたいな。ハンバーガーといえば、フライドポテトとチキンナゲットも食べたいな。あ、チキンナゲット作るのにもミンサーが必要じゃないか!ミンサーの重要度が増してきたぞ。早く完成させる必要がでてきたな。揚げ物するならフライヤーも作るか。
俺が考え込みながらホットサンドとアヒージョを食べていると、料理長や厨房にいる調理担当の若者たちが緊張した表情でこちらを見ていた。とりあえず、合格を出しておいた。若者たちは安堵した様子だった。
「別に俺の許可をとらなくても好きなものを作ればいいと思うぞ。ただ、個人的に食べたい物があるんだ。調理器具が完成したら持ってくるから作ってくれ。」
料理長にそう伝えて店を後にした。俺の頭の中はミンサーとフライヤーのことで頭がいっぱいになっていた。シルビアさんと一緒にランチを食べていたことも途中から忘れてしまっていた。
宿に戻ってすぐにフライヤーの作成に取り掛かった。焼き鳥の缶詰の空き缶をフライヤー用のバスケットに作り変えていく。網目状に変化させるのは大変だったが何とかできた。器用スキルは魔法にも効果があるようだ。以前より金属の変形がスムーズになった気がする。本体部分も熱を発する魔道具として作り、フライヤーは割とあっさり完成した。
問題のミンサーも肉を切り裂くような構造の刃を取り入れることで、詰まること無くミンチ肉が出てくるようになった。
翌日、出来上がったミンサーとフライヤーと材料を持参してローレンス商会を訪れた。早速、厨房を借りて作ってみることにする。チキンナゲットはフォレストバードの肉を使ってみる。これで鳥ミンチ肉を作って小麦粉を付けてフライヤーに放り込んで揚げる。ソースはトマトソースでいいか。フライドポテトは面倒なので皮付きで作った。
そしてメインのハンバーガーだ。ミンチ肉はオーク肉とブラックブル肉を半々で混ぜてみた。俺は料理人ではないので、細かいことは分からない。卵・炒めた玉ねぎ・パン粉・牛乳・塩を適当に入れてみる。多分、ハンバーグはこんな感じだったはずだ。ハンバーグを薄めに焼いて、レタスとトマトと一緒にパンに挟んでみる。ここでもソースはトマトソースに頼ることにした。本当にソースのバリエーションがない。俺にはソースなんて全く作り方が分からないから仕方がない。我慢しよう。
念願のハンバーガーセットが出来上がった。いざ、実食。
うん?想像してたのと違うけどうまいな。想像と違うのはやっぱりトマトソースが原因だな。よく考えたらトマトソース使うならトマトを挟む必要はなかった。チーズを挟むべきだった。だが、魔物肉が濃い味なのでソースなんてどうでもよくなった。チキンナゲットとフライドポテトもいい感じじゃないか。久々にカツ丼以外の揚げ物を食べたな。この世界、揚げ物がなかったんだよ。フライヤー作って良かったわ。
従業員の人たちからも好評のようだ。
「レシピと調理器具はあげるから店で使ってくれ。」
料理長にそう言っておいた。揚げ物が食べたくなったらここにきて作ってもらおう。
フィデルさんがやってきた。
「ルノさん、この調理器具をあと二台ずつ作ってください。2日以内にお願いします。」
え~。あれ作るの大変なんだけど。しかも2日って・・・。
結局、頑張って2日で仕上げて納品した。報酬はがっぽり頂いた。
数日後、飲食ブースがオープンする日がやってきたので、見に行くことにした。
繁盛しているようだ。しかしまさか、この数日でハンバーガーセットをメニューに入れてくるとは思わなかった。
たぶん、フィデルさんが料理長たちに無理させたんだろうな。頑張れ、若者たちよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます