第37話 人間の業

先生たちのもとへ戻って状況を説明した。そして霊獣たちの討伐して欲しいという意志も伝えた。

「討伐してあげましょう。それが湖の中の霊獣の救いにもなるでしょう。」

チャールズさんが真っ先に答えた。

「しかし討伐できますか?水の中ですよ?」

「私が水の中から引きずり出します。ルノさんはそこを追撃してください。」

そんなことができるのか、この人は。

結局、先生とシルビアさんは残って、俺とチャールズさんで討伐をすることになった。

チャールズさんをどうやって向こう岸に連れて行こうかなと思ったら、彼は激流の川の上を走って渡った。なんでもできるんだなあ、この人は。そのうち空を飛んだりするんじゃないのかな。でも驚かないよ、だってチャールズさんだからね。


チャールズさんは岸から雷魔法を撃つつもりのようだ。俺は湖の上空で待機している。俺の背中からシュバルツが頭を出している。そんなところからも出れるのか、潜影スキル。

『シュバルツ、相手が出てきたら俺たちの出番だ。接近するから看破してくれ。』

『分かりました。いつでも良いですよ。』

俺がチャールズさんにいつでもOKのサインを出し、チャールズさんは魔法の準備に入った。

・・・長いな、魔法の準備。まだかな、と思った次の瞬間。

ドドォォーーーーンッ!!!

轟音と共に落雷が湖に落ちた。

湖の中から薄い墨のような色の水の塊が出てきた。チャールズさんの方には津波が押し寄せている。すぐに追撃を行うため、俺は距離を詰めて行く。しかし、大量の湖の水がこちらに向かって飛んできた。飲み込まれないように必死で回避して一旦距離をとった。

近づけない。どうやって攻撃するか。ブラックアウトで目眩ましするか。

『主殿、見えました。あれはおそらく元は霊獣より上位の存在です。ネーム持ちです。個体名ウンディーネ。』

ああ、何かそんなような気がしたよ。ウンディーネ闇落ちしてたか。原因はやはり住処だった場所を人間に破壊されたことだろうか。

『我々のような存在は基本的に武力は持ちません。水流操作にだけ気をつけていれば問題ないと思います。それと基本的にああいった自然と一体になったような上位の存在は、死という概念はないはずです。ただし、魔物化しているのであれば魔石があるはず。それを破壊してください。』

『分かった。頑張ってみるかな。』

行くぞ。ブラックアウト!

よし、相手はこっちが見えていない。俺には暗視スキルで相手の位置がはっきり見える。

ん?魔石というのはどこにあるんだ?

『主殿。ブラックアウトが邪魔で魔石が見えません。』

ええい、適当に攻撃してやる!オラオラオラオラ!

ロッドを振り回して連撃をお見舞いしてやった。ブラックアウトを解除する。

バラバラになった敵本体が水面で集まって元に戻った。

『主殿、敵の中心の当たりに魔石が見えましたよ。』

『ブラックアウトは魔石が見えないから駄目か。仕方ない、何とかして飛んでくる水を躱して魔石を奪うか。シュバルツ、レンタルパワーをくれ。』

レンタルパワー状態だと障壁を踏み抜いてしまいそうで怖いんだが、仕方がない。練習してた立体機動走法で水を躱して接近しよう。

よし、これで終わらせてやる。行くぞ。

一気に駆け出し、動きを読まれないようにぴょんぴょん跳ねながら、あんまり格好良くない立体機動で距離を詰めていく。しかし、相手も周囲に水を待機させ始めた。これは攻撃が届かないか、と思ったところで背中から顔を出していたシュバルツが飛び出した。

『ここです!たぁー!』

突然飛び出したシュバルツはすごいへっぴり腰でパンチ(?)を繰り出した。そして水に飲まれて湖へ落ちていった。


よくやった!シュバルツ!これで届くぞ!

俺はシュバルツが流された隙に、敵の側面に潜り込んでロッドを振り抜いた。

相手は中央から上下真っ二つに別れ、魔石が飛び出した。すぐに引力スキルを発動させて魔石をキャッチすることに成功した。魔石を失った後はウンディーネは元に戻る様子はなかった。

『シュバルツ、お前はよくやったよ。短い間だったがお前の犠牲は忘れない。』

『主殿。私は生きていますよ。早く回収してください。』

湖面からシュバルツが顔を出していた。潜影スキルは水の上でも使えるのか。でもやっぱり動けないんだな。

『ナイスファイトだったよ。シュバルツ』

『お役に立てたなら良かったです。』

『でもあのへっぴり腰のパンチはあんまりじゃないか?』

『私は野蛮な行為はできないのですよ。』

『シルビアさんに格闘技教わってみたらどうだ?』

『嫌ですよ。あの人は気配がすごく怖いのですよ。』


シュバルツを回収していると雨が降ってきた。

『雨が降ってきましたね。主殿。』

『ああ・・・精霊が泣いているのかな。』

『あのウンディーネという者が、主殿が言っていたこの世界を救った勇者という者の契約霊獣だったのですよね?』

『そうだな、伝承ではそうなっている。』

『あの者は放っておいたらもっとこの地を荒らすことになっていたはずです。あの者が契約し、手を貸した勇者が守ったこの地を荒らすのは本意ではなかったと思いますよ。それならこの雨は私達に魔物化から解放してくれたお礼を言っているのではありませんか?』

『あんな状態になってしまったのは、人間がウンディーネの住処を破壊してしまったからかもしれないんだよ。人間に手を貸して貢献した者が、人間の業によって魔物に堕ちて、人間である俺が殺した。人間に愛想を尽かして泣いているんだよ。』

『ウンディーネがどう思っているのかは結局は確かめようがありません。ですが私はウンディーネを解放して頂いた主殿には感謝していますよ。これだけは確かですよ。』

『・・・だが救ってやりたかった。人間の俺が。』

俺は手の中のウンディーネの魔石を握りしめて雨が降る空を見上げた。

やっぱり精霊が泣いているように見えた。


先生たちのもとへ戻ってきた。チャールズさんは津波からここまで退避していたようだ。俺は一部始終を先生に報告した。

「そうか、ウンディーネは消滅したか・・・何とも複雑な気持ちだね。これを報告すれば間違いなく私はまた糾弾されるね。」

「一応、魔物化したウンディーネの魔石を回収したので先生にお渡ししますよ。」

「いや、それは君が持つべきだ。ウンディーネの件の発表は伏せることにするから私には必要はないだろう。せめて事情を知る我々だけでもウンディーネを追悼しようじゃないか。」

そう言ってジャレッド先生は湖の方に向かって祈りを捧げた。俺たちもそれに倣って祈ることにした。


帰り道、ずっと気になっていたことをチャールズさんに尋ねてみた。

「あの、チャールズさん。その霊獣はもしや契約されたのですか?」

「ええ、適性は問題ないということでしたので、契約することになりました。名前はフリードと名付けました。」

「おお~、おめでとうございます。」

「ありがとうございます。これもルノさんが今回の護衛依頼を紹介してくださったお陰ですよ。」

あの鷹のような霊獣フリードは雷属性適正らしい。チャールズさんがまた強くなってしまったようだ。

「ちなみにチャールズさんは他にはどんな属性の適正をお持ちなのか、伺っても良いです?」

「地と闇と熱以外は大体適正有りですね。でも適正あるものを全部習得しているわけではありませんよ。」

なんだよそれ!ほとんど全部じゃないか!俺は闇と金属だけだぞ!やっぱり英雄か!英雄なのか!この人は!霊獣いっぱい契約したらレンタルパワーの重複でとんでもないことになるぞ、この人。伝説の勇者でさえ契約してた精霊は四体だった。ポテンシャルだけなら勇者を越える可能性を秘めていることになる。契約なしの状態でもとんでもなく強いのにこの人は一体どうなってしまうんだ。

シルビアさんもフリードを羨ましそうに見ている。

「いいですね。契約霊獣。私も相棒が欲しいです。」

あなたの相棒は俺が立候補したいです。

「先生、調査の際はぜひまたお声を掛けてくださいね。」

「もちろん、その時はこちらからお願いするよ。護衛と契約魔法持ちを兼任できる人材は有り難いからね。」

「シルビアさんは適正は何があるんです?」

「私は地属性をメインに使っていますね。他の適性は確か植物と熱があったような気がします。」

「俺もどこかでそれらしい霊獣を見かけたら連絡しますよ。」

「ぜひ!お願いします!」


『おい!シュバルツ!お前に地属性の霊獣の友達とかいないのか!いたら紹介してくれ!』

『いませんよそんなの。前に言ったじゃないですか。私が同類と遭遇したのは二回だけだと。』

『はあ~。これだからボッチは。お前がもっと社交的な奴だったら良かったんだが。』

『あ、そういえば一度目に会った二足歩行のマッチョな鹿のような者は地属性っぽかったかも・・・』

『そいつは却下で。』

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