第36話 荒れる河川
翌日、森の奥地を目指して狩りをしている。
新しいスキルを慣らしつつ先に進む。狙いはオーガだ。
新スキルを一通り検証できたころオーガを発見。契約魔法によるシュバルツのレンタルパワーを発動させる。
ウィークポイントからの強打のコンボ!オーガの頭が凹んだ。しかし、オーガは倒れなかった。ブラックアウトで身を隠してからのもう一発頭に強打!膝をついたがまだ息があるようだ。本当に硬いな、オーガは。とどめの一発を頭に叩き込んで今度こそオーガを倒した。
シュバルツに看破をさせていたのだが、このオーガは頑強レベル3らしい。頑強レベル3以下の相手なら俺は勝てるわけだ。目安にするとしよう。まだ強打スキルはレベル1だし、すぐにそれ以上の相手でも勝てるようになるだろう。
スキル検証を終えて領都に戻ってきた。そうだ、ジャレッド先生にレンタルパワーのことを報告しておこう。
「やあ、ルノ君。私の魔道具は役に立ったかな?」
「こんにちは、先生。お陰様で納得のいくものが作れましたよ。」
先生の大気中の魔素を取り込む魔道具を譲ってもらったからな。スピーダーのお披露目もしておくか。
スピーダー一号機を先生に見せてあげると、とてもはしゃいでいた。うんうん、先生ならきっとこのロマンの詰まった乗り物を理解してくれると思ったよ。シュバルツがいないとすごく燃費が悪いけどね。
スピーダーのお披露目を終えてから、契約した霊獣から力を借りて身体能力が向上することを報告した。
「私はこれをレンタルパワーと呼んでいます。」
「複数の霊獣のレンタルパワーが重複する可能性か。有り得るなあ。勇者伝説がますます真実味を帯びてきてしまうな。私はあの話はあまり好きじゃないんだ。」
ウンディーネ信仰者から糾弾されたもんね、先生。
「ところでルノ君。今度調査に一緒に行かないかい?」
「魔素溜まりですよね?以前にも申しましたが、私は役に立ちませんよ。」
「うむ。今回は目的の場所まで辿り着けない可能性が高くてね。契約魔法の使い手も雇う気はなかったんだよ。でも一度は調査に行こうとは思っていてね。その場所に辿り着けない理由なんだが、すごい激流の大きな川が道を阻んでいるんだよ。川向うの方から濃い魔素が流れてきている可能性が高いという報告でね。ルノ君は空中移動をしていただろう?君なら川向うの様子を見に行くことができるんじゃないかと思ってね。」
「なるほど、それなら私でもお役に立てそうですね。」
「うむ。川向うで見てきたことを報告してくれるだけでいいんだ。もちろん報酬は用意するよ。」
「分かりました。行きましょう。私も霊獣や精霊には興味がありますからね。」
「出発は少し先になるかもしれない。護衛は前回と同じでカルバンとクレイグに頼むつもりなんだが、彼らは最近忙しいみたいでね。彼らは普段、酒蔵で働いているんだが、経営が上手くいってなかったんだ。それが最近どこかの商会に買収されて酒造りの研究に没頭しているんだよ。」
ん?酒造りの研究?まさかその商会はローレンス商会なのでは?酒蔵を買収したのか。
「その買収したと思われる商会に心当たりがあるので、ちょっとクレイグさんたちをお借りできないか聞いてみますよ。」
俺はローレンス商会へ向かい、フィデルさんに面会を求めた。
確認してみるとやはりクレイグさんたちの酒蔵を買収したのはローレンス商会だった。俺は事情を話してクレイグさんたちを借りれないか尋ねてみた。
「今は新しい酒造りの大事な時期なのです。彼らをお貸しすることはできません。代わりと言ってはなんですが、チャールズとシルビアをその調査の護衛につけましょう。今の話だと契約魔法の使い手がいたほうがよろしいのですよね?チャールズとシルビアは契約魔法持ちです。うってつけではないかと思いますよ。」
すごい過剰戦力を護衛に頂けることになった。川を見に行くだけなんだが。とりあえず出発の目処がたったので、先生に報告しておいた。そして2日後に出発となった。
旅のメンバーは俺、ジャレッド先生、シルビアさん、チャールズさんの4名だ。
目的の場所は徒歩で3日くらいの場所らしい。そこで俺は提案してみた、走っていきましょうと。
「ジャレッド先生は俺のスピーダー一号機に乗ってください。速度は一番低速でお願いします。」
先生以外の護衛3名で走ることにした。このメンバーなら問題あるまい。むしろ俺がついていけるかの方が心配だ。
スピーダーの速度に合わせて走っていく。
「このペースなら1日で近隣の村までは行けそうだね。いやあ、この乗り物は素晴らしい。尻に負担がかからないのが最高だね。燃費は悪くてもいいから、そのうち一台作ってくれないかい?」
「材料の手配に時間がかかるので、当分先になっても良ければ作りましょう。」
夕方に近隣の村に到着した。ここで一泊して明日の朝一で出発予定だ。
どうやら目的の川はこの村の住人からは大変恐れられているようだ。絶対に近づいてはいけない危険な場所として認定されていた。昔は下流の方に村があったそうだが、川が頻繁に氾濫するようになりいくつもの村が流されてしまったのだとか。曰く、天気が荒れているわけでもないのに常に激流が流れている。年配の方からは昔に比べて川の荒れ方が激しくなっている気がする、などの話を聞くことができた。不思議なことにここより上流側は荒れていない普通の川なんだとか。そこから川向うに渡って反対側に回ると巨大な湖があってその湖も大変荒れているらしい。
翌朝、出発して昼前には目的の川が見えてきた。
確かに普通ではない川だった。川幅は驚くほど広く、とんでもない激流が流れている。
『ん?この場所は・・・。』
『どうした?シュバルツ?』
『主殿、以前私に「私以外の霊獣に会ったことがあるか?」と尋ねられたことを覚えていますか?』
『ああ、覚えている。会ったことがあると言っていたな。そういえばどんな奴と会ったんだ?』
『私が同類と思われる者に遭遇したのは二度です。一度目は二足歩行するマッチョな鹿のような存在でした。』
そんな霊獣とは契約したくないなあ・・・。
『二度目はその姿を見ておりません。ただ同類の気配が近くにあるのを感じただけです。それがこの場所です。』
『ここに霊獣がいるのか?』
『以前、確かに私はこの付近を通ったことがあります。当時から川は荒れていました。その川の向こう側から同類の気配を感じたのです。今は感じませんが。』
『今は不在か。残念だな。』
さらに川に近づいて行き、ジャレッド先生はこの当たりで調査をすることになった。ここから俺は別行動で空中移動で川向うを目指す。川の半ばあたりでシュバルツから念話が入る。
『主殿、同類の気配を感じました。この先にいます。』
『おっ、当たりか。この川の荒れ具合も何か関係あるのかね。』
川を渡りきり、一旦そこで着地する。目の前にはもう巨大な湖がある。ほとんど川と湖がくっついていると言ってもいいくらいに陸地が少ない。
『主殿、いましたよ。上です。』
『ん?上?あの鳥か?』
『はい。ですが以前私が感じた同類の気配はあの鳥ではありません。ああ・・・これはもう駄目です。』
『どういうことだ?何が駄目なんだ。』
『この湖の中に以前私が感じた気配の者がいます。僅かながらその気配を感じます。』
『つまり二体の霊獣がいるのか。この場に。』
『たぶん、上に飛んでいる鳥の霊獣も湖の中の存在に気付いていて心配しているのだと思います。ですが、湖の中の者はもう駄目です。』
『だから何が駄目なんだ?』
『ほとんど魔物化しています。』
『霊獣って魔物になるのか?』
『分かりません。ですが強い魔物の気配の中に僅かに同類の気配があるのです。私は気配察知に特化した霊獣なので分かるのです。霊獣が魔物になったのか、あるいは魔物に取り込まれたのか・・・この川と湖の異変はこの魔物が荒れているからです。』
『ふむ、一応状況は分かった。一旦戻って先生に報告をしよう。』
『主殿。無理を承知でお願いしたいのですが。この魔物となった同胞の者を討伐していただけませんか?この者の気配の状態はあまりにも酷い有り様です。同類として見るに堪えません。』
『しかしなあ。湖の中だろう?どうやって討伐するんだよ。あ、鳥の霊獣がこっち来たぞ。』
『ちょっとこの者にも話を聞いてみますので、お待ち下さい。』
でかい鷹みたいな奴だな。格好いいな。
『主殿、この者もやはり湖の中の者を心配していたようです。気配の状態からしてもう助からないだろうと伝えたところ、討伐して欲しいという結論になりました。』
二匹の霊獣がとても悲しそうな顔をしている。
『もちろん、お願いするわけですから私も今回はできるだけの協力はしますよ。』
そう言ってシュバルツは後ろ足で立ち上がり、前足でシャドーボクシングのようなことをし始めた。
『いや、シュバルツは無理しなくていい。何にしても俺一人ではどうにもならんだろう。一旦、先生たちのもとに戻って報告する。』
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