第31話 男のロマン

祭りは大成功に終わった。ローレンス商会の名前がまた広まったことだろう。飲食ブースがオープンしたらそちらでもボール焼きとベビーカステラは販売するそうだ。屋台メニューのつもりで提案したんだけどな。あの盛況ぶりならまあいいか。若者たちもせっかく腕を磨いたわけだしな。俺は頑張った若者たちにビールを放出し、つまみにアヒージョを作ってやった。


問題の飲食ブースだ。厨房は普通な感じで造っておいてもらうとして、メニューの考案はまだ時間的に猶予が有る。

ランチ的な感じのメニューでと言われている。

ハンバーガーが食べたいなと思ったので、挽き肉を作るためのミンサーを作ろうとした。しかし、上手くいかなかった。そんなに難しい構造ではないから作れそうな気はするんだが、肉が詰まって出てこなくなる。刃が噛み合ってないのかな。

ミンサーの開発は継続するとして、取り急ぎホットサンドを提案することにした。直火式のホットサンドメーカーなら簡単に作れる。持ち手は木を取り付けて作った。持ち手のほうが作るのに時間がかかったかもしれない。

自分用のものも一緒に作っておいた。

がっつりレストランってわけじゃないから、これで十分だろう。メインは雑貨屋なのだ。飲食ブースが目立ちすぎるのも良くない。五つほど作ってシルビアさんに渡しておいた。中の具材はお店の人たちに考えてもらおう。ホットサンドは何を入れてもうまいから良いよね。そういえばボール焼きのエースは料理長に就任するらしい。うむ、彼ならきっと良いものを作ってくれるはずだ。


面倒事から逃げるというわけではないが、ダンジョン都市を目指そうと思う。治安が良くない地域らしいのでスキルスクロールを買ってすぐに帰る予定だ。影空間が広くなったので、一人でも夜営の心配はない。問題は移動手段だ。シュバルツに乗せてくれといったら断られた。こいつは怠け者なので、もうマスコットだと思うことにした。いよいよ乗り物の開発をする時がきたかもしれない。いつかは空を飛ぶ魔道具をと考えていたが、空を飛ぶ前に地上用の乗り物の開発のほうが先だろう。空を飛ぶ前段階ということで、宙に浮いた乗り物にしたい。イメージしているのは、有名な某宇宙戦争映画のエピソード1に出てくるような宙に浮いた車やバイクのような乗り物だ。動力をどうするか。とりあえず物を浮かす研究だ。無重力状態をイメージして魔結晶を魔道具化させてみた。魔石と繋いでみるとフワフワと浮いた。浮力が安定しないから駄目だな。風で浮き上がらせるか。確か宙に浮いたバイクは元の世界でも既に開発されていた。それも風の浮力で浮いていた。大きなプロペラファンが風を起こすのをイメージして大きめの魔結晶を魔道具化させた。直接魔石に繋ぐと飛んでいってしまうので、有線でスイッチをつけた。魔道具化させた魔晶石をシュバルツの腹につけてみた。

スイッチオン!

ブワッとシュバルツがちょっと浮いた。成功だ!これならいける!

腹の部分だけしか魔導具はないので、体はくの字に曲がっている。シュバルツは困ったような顔でこちらを見ていたので、スイッチをオフにして下ろしてやった。

巨大なシュバルツが浮いたのだ。乗り物+俺の重量くらいは問題なく浮かせられるだろう。

動力は決まったので、乗り物本体を作ることにしよう。底のベース部分は焼き鳥の缶詰の空き缶を加工するか。足りないので焼き鳥の缶詰を一杯空けて、中身は大きな瓶に入れてマジックバッグに入れておいた。魔道具が起こした風を通すための穴を空けて機体の底部分を作っていく。底は正方形にした。魔晶石を付けたら厚さが20cm位になってしまった。中央前後に大きめの魔晶石2つ、左右にバランスをとるための小さい魔道具をいくつか配置した。予備浮力として意味がないかもしれないが、最初に作った無重力魔晶石も四角につけておいた。

座席は大量のビールの空き缶を使うことにした。しかし、アルミだと強度が弱い。確かアルミに銅を混ぜるとジュラルミン合金になるんだったか。航空機の機体なんかにも使われている合金だと聞いたことがある。適当に銅を金属魔法で混ぜてみた。ちょっと硬くなった気がする。ジュラルミン合金もどきを椅子っぽい形にして底部に取り付けた。自転車のハンドルみたいなものも作って座席の前に取り付ける。

これだけだと浮いても前に進まないので、後方にも風を噴射するように魔道具を取り付けた。あ、ブレーキもないと止まれないじゃないか。前方にも風の魔道具をつけて逆噴射させて止めるか。これでバックもできるな。

見た目は正直格好良くはない。正方形の底部に座席とハンドルしか付いていないからな。でも十分ロマンを感じる乗り物ができた。SF映画を見る度に宙に浮いた乗り物に乗りたくなったものだ。夢が一つ叶った。

ちなみにここまで一週間かかっている。風力の調節が難しかったのだ。浮力が強すぎたり、左右のバランスがとれなかったり大変だった。

乗り方はまず、底部の魔道具を起動させて機体を浮かせる。20cm位浮く。そして後方の魔道具ブースターを起動させて進む。ハンドル操作で左右に曲がることもできる。止まる時は後方の魔道具ブースターを停止させて前方の魔道具ブースターを起動させる。

後方の魔道具ブースターは六つ取り付けてある。二つずつ起動されて速度は三段階調節可能だ。

障害物などの緊急回避手段として1m程高度を上昇させる強力な風魔道具も底に四箇所付けたが、これはできれば使いたくない。止まってる状態でも1m以上の高さから落下するのは、機体が叩きつけられそうで怖かった。進行しながら使用すると着地に失敗するかもしれない。

そして、これだけ大量に魔道具を付けると魔石の消費が尋常ではない。しかし、このエネルギー問題に関しては最初から目処はついている。ジャレッド先生の大気中の魔素を取り込む魔道具を譲ってもらえたのだ。これを組み込むことでエネルギー消費は半分に抑えられると言われている。しかも精霊などの超自然的な存在がいる場所は魔素濃度が高いので、より魔素の取り込む量は増える。俺には霊獣シュバルツというエネルギータンクが付いているのだ。俺が乗ってシュバルツは影から頭だけ出してもらえば、周囲の濃い魔素を取り込めるわけだ。魔石消費はかなり抑えられるはずだ。


俺はこのロマンを詰めこんだ乗り物『スピーダー一号機』でダンジョン都市を目指すことにした。

あ、シュバルツ。お前は出てくるな。お前が乗ったら墜落するんだ。影から頭だけ出していなさい。

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