第30話 領都祭

翌日、ローレンス商会にやってきた。昨日考えた案を実演を交えて報告することになった。

店の裏のスペースでたこ焼き器の準備をする。祭り当日に屋台を担当する人たちも集まっていて、興味深そうにたこ焼き器を見ている。

早速、焼き始めて匠の技を見せつけてやる。

「おおお~!!」とギャラリーから歓声があがる。フフン。ざっとこんなもんよ。

そして出来上がったたこ焼きもどきとフルーツ入ベビーカステラの二品を実食して頂く。

反響は良かった。いくつか質問があったので答えていく。

「これは何という料理なのでしょうか?」

「こっちはベビーカステラというものです。もう一つのは昨日考えたものなので名前はありません。好きなように呼んでください。」

シルビアさんからも質問があった。

「焼く工程があると提供までに時間がかかってしまいませんか?作り置きした物を販売したほうが、祭りではいいと思うのですが。」

「ローレンス商会は飲食店としては実績がありません。作り置きの商品でお客様を獲得するのは困難だと思います。目の前で作ってみせるというパフォーマンスは良い客寄せにもなります。見ているだけでも楽しい店というのは、祭りという場では特に盛り上がります。」

「なるほど。確かに作り置きだと面白みがありませんね。では売り場担当の者に技術指導をお願いします。」

「はい!明日には鉄板を用意してきます!」


すぐに鉄板を買いに行った。掛かった費用は後でフィデルさんに請求しよう。報酬も要求しよう。


午後はたこ焼き器作りと専用の火の魔道具作りに取り組んだ。試作で作ったものより遥かに大きいものだ。明日には準備すると言ってしまったさっきの自分をぶん殴ってやりたい。夕方までかかってたこ焼き器は何とか完成した。専用の火の魔道具作りは夜遅くまで自室で頑張った。途中から作業が捗りだした。ステータスを見ると魔道具作成スキルのレベルが上がっていた。これはこれで良い修行になっているようだ。


翌朝、完成したたこ焼き器を持っていって技術指導をした。

何故かフィデルさんも混じって練習していた。途中でシルビアさんが現れて連行されて行ったが。

若者たちは一生懸命練習している。一名、既にコツを掴みつつある有望な者がいる。彼がメインを張るエースになるだろう。祭りまで時間がないがこの様子なら間に合わせれそうだ。祭り当日は彼らの前に行列ができる様子が目に浮かぶ。彼らを見て俺は祭りの成功を確信していた。

ちなみにソフィーちゃんも参加していたのだが、あれは戦力外だろう。ずっと試食してたし。

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領都祭の日がやってきた。

街は朝から祭りの準備が行われていて賑やかだ。シュバルツが隣でのっしのっしと歩っているが、街の人も慣れてきたかな。大きな騒ぎは起きなくなった。

ローレンス商会の出店は商会の店の前だ。後日、店内に飲食コーナーができることを宣伝するつもりらしい。未だにそのスペースは何もないのだが、大丈夫なのだろうか。

立派な屋台が出来上がっていた。前面に大きなたこ焼き器が四つ、後方に肉を焼く鉄板が一つ配置されている。祭りの開始時刻などは特に決まっていないようで、準備ができ次第始めるようだ。

商品はボール焼きとベビーカステラと書いてあった。彼らの間で勝手にボール焼きと呼ばれるようになっていたらしい。

フィデルさんから呼ばれたので応接室に向かった。

「今回の祭りはうまくいきますよ!若者たちもあれから練習を頑張ってくれましたからね!メニューを考案してくださって有難うございました。」

「いえ、報酬はしっかり頂きましたから礼は不要ですよ。それに私も楽しませてもらってますから。」

「そう言って頂けると幸いです。では、店内の飲食ブースで提供するメニューの考案もお願い致します。」

やっぱり店内の計画は何も進展していないようだ。

「私は料理人ではないのでお断り致します。料理人を雇うことをお勧めしますよ。」

シルビアさんが紅茶を淹れて持ってきてくれた。

「普通の料理人を雇っても目新しいものが生まれないのですよ。ルノさんにお願いしたかったのですが、無理強いはできませんね。仕方がないですね。シルビア、飲食ブースのメニューの考案と準備を任せます。来月にはオープンできるようにしてください。」

急に話を振られたシルビアさんが困っている。そんな目でこっちを見ないで!

「そ、そういえばボール焼きを焼いている若者たちの上達振りは素晴らしいですね!彼らの意見を取り入れてみたらうまくいくんじゃないですかね!」

「ふむ、若者たちなら新しい発想もあるかもしれないか・・・」

よし、何とか若者たちにがんばってもらおう。

その後は急いでその場から退出した。

外へ出ると若者たちが商品を焼き始めていた。一番上達の早かったエースの彼が声を掛けてきた。

「部長!見て下さい!俺頑張りましたよ!」

俺は若者たちから何故か『部長』と呼ばれている。一体何の部長なのだろうか。宴会部長かお祭り部長といったところか。まさか飲食部門の部長だと思われてないだろうな・・・。そもそも従業員ですらないんだぞ。

「うん。今日はいよいよ本番だからな。練習の成果を存分に発揮してくれ。」

「はい!」

「ですがルノさんの手際に比べるとまだまだですよ。努力は続けてくださいね。」

フフン。シルビアさんからダメ出しされてやんの。ざまあ。まあ俺の神業には遠く及ばんからな。もっと精進するのだ、若者たちよ。

本当はシルビアさんを誘って祭りを楽しみたかったが、彼女は屋台の現場担当の責任者なのだ。残念だけどお仕事なら仕方がない。俺も技術指導した手前、気になるからここに残って様子を見ていよう。


お昼ごろになるとローレンス商会の前は人だかりができていた。大盛況のようだ。最も返しの上手なエースの彼の前は特に賑やかだ。彼は今日ヒーローになったのだ。

俺とシルビアさんは少し離れた後ろの方にいる。試作の時の小さいたこ焼き器でアヒージョを作って一緒に食べている。気に入って頂けたようだ。

「このアヒージョは店内でも販売しましょう。他にも何かメニューを考えて頂くことはできないでしょうか?」

「お任せください!考えてきます!」

あああああ!!俺の馬鹿あああああああ!!!!

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