第28話 霊獣シュバルツの実力

みんなにシュバルツを紹介することにした。

影の中から出てきてもらい、首回りをモフモフしながら紹介した。

「契約霊獣のシュバルツです。」

俺はドヤ顔で先生に報告をした。

「契約できたのだな。おめでとう。契約魔法の使用法が立証できて私もうれしいよ。街に戻ったら霊獣に関しても詳しく聞かせてくれ。」

先生の調査も一通り終わったようなので、撤収することになった。


シュバルツは俺の影の中から頭だけ出して、すーっとついてきている。いつぞやの鹿の頭を思い出すのでやめて欲しい。影に引っ込んでろと言ったら外を見たいと言う。じゃあ、外に出て自分で歩けと言えば、面倒なんだもんと言う。勇者はこんな連中を複数従えてよく付き合えたもんだと思う。


帰り道の道中、シュバルツに色々と聞いてみた。


霊獣とは何か?→分からない。

他にもシュバルツの仲間はいるのか?→仲間ではないけど似たような存在はいる。

精霊を知っているか?→知らない。

契約するための条件は?→適正があること、おもしろそうであること。

適正とは具体的には?→闇属性との親和性。

いつからあの場所にいた?→最近。

それまではどこにいた?→いろんなところ。

あの場所で何をやっていた?→魔素補給。


他にも色々と質問した。

どうやら俺は闇属性の適正があるらしい。代表的な属性魔法の中で唯一まだスクロールに出会えていない。最優先で入手するべきと今後の方針に加えることにした。

霊獣に関しては不明点が多いが、あちこち移動しながら魔素を集めている存在といったところだろうか。先生には後日報告しよう。


『そういえば、シュバルツはどの程度戦えるんだ?ちょっと実力を見せてくれないか?』

えっ?私はそんな野蛮な行為はしませんよ?という返答が返ってきた。でかい図体してるくせに何を言っているんだろうか。こいつはお座りしてる状態で俺の背丈位あるのだ。その立派な腕を一振りすればオークくらいならワンパンで倒せるだろう。どういうことなのか詳しく問い詰めてみると、どうやら霊獣というのは基本的に世界に直接干渉することをあまり好まないようだ。そう言われてみれば勇者伝説で精霊が直接戦ったような描写はなかった気がする。あくまでも勇者に力を貸すだけで、実際に戦ったのは勇者本人のみだった。シュバルツには触れることができるので、物理的に干渉できないというわけではないようだが、霊獣の本能みたいなものだろうか。それに何となくシュバルツは特に温厚というか、逃げ腰の気質が強そうな気がする。魔物の接近に気付いたらすぐに影の中に隠れたりするし。

でかい図体に真っ黒の体、金色の眼が鋭く光り、結構な強面で強者の雰囲気を漂わせているのだが。


しかし、契約魔法は成果があったものの、目的の戦力向上にはならなかった。霊獣補正がかかったスキルは現状、暗視・隠蔽・潜影の三つだけ。攻撃手段は相変わらずロッドで殴るのみだ。もちろん、闇属性魔法を習得してからでないとシュバルツの本領は発揮されないと思われるが、当てが外れてしまった。やはり、強力なスキルスクロールを使用するしかなさそうだ。ダンジョン都市を目指すかな。

それに攻撃面ばかり悩んでいたが、防御面も不安を感じた。今回初めてパーティ戦を経験したわけだが、ソロ狩りの時とは違って攻撃を回避できない場面があった。先生をかばって攻撃を受けた時だ。思えばこの世界に来て初めて怪我を負った気がする。痛かった。恐ろしかった。結局最後は影の中に逃げた。ソロ狩りなら危なくなったら空中に逃げればいいやで済んでいたが、ダンジョン探索を目指すならパーティの仲間を守らなければならない場面も出てくるはずだ。黙って仲間が倒れるのを上から眺めているわけにはいかない。スキルレベル上げをもっと頑張ろう。


街に帰還した翌日、ジャレッド先生の研究所で現状の分かる範囲で契約魔法と霊獣の報告を行った。

「なるほど、霊獣というのは世界を放浪している感じなのか?伝説上の精霊は一定の場所に留まっているような印象を受けたが・・・超自然的な存在というのも複数種類存在していそうだな。」

「はい、シュバルツが言うには他にも同様に魔素補給に来ていた存在は稀にいたそうです。今回の調査現場では見ていないそうですが。」

「うーむ、興味深い。実に興味深い。霊獣というのは変異種の魔物の発生を抑えるための存在なのかもしれないな。今後の調査の方向性も考え直してみるか・・・」

「それと申し訳ないのですが、次回の調査からは契約魔法持ちの人材は自分以外の者を同行させてください。」

「む?ああ、適正の件か。」

「ええ、私はほとんどの魔法に適正がありません。今回はたまたま適正を確認していなかった闇属性とシュバルツの相性が良かったので良い結果になりましたが、おそらく私では確率的にお役に立てる可能性がとても低いです。」

「つまり、できるだけたくさんの魔法適性を持っている契約魔法持ちの者が最適というわけだな。」

「そういうことです。シュバルツを通して今後も分かったことがあれば、報告には参ります。お世話になったので協力は惜しまないつもりですよ。」

「ありがとう。今回分かったことに関しては研究成果として発表しても良いだろうか?もちろん個人名は伏せる。」

「構いません。契約魔法がもっと評価されることを祈っておりますよ。」


こうして報告会は終わり、研究所を後にした。

次に向かうのは従魔ギルドである。従魔とは従魔スキルで従わせた魔物である。従魔ですよと分かるようにしないと街の中で揉めることになる。シュバルツは魔物ではないが、霊獣を登録するような場所がないので仕方がない。ちなみに今は影の中に入ってもらっている。


従魔ギルドの受付は狼獣人のお姉さんだった。きっと狼同士でシュバルツとは気が合うだろう。この受付を選んでよかった。シュバルツに出てきてもらうとお姉さんは悲鳴を上げて奥に逃げていった。

その後はなんやかんやあったが、手続きは無事終わった。登録書には魔物の種類を書く項目があったので、ブラックウルフの変異種と書いておいた。シュバルツの名前が書かれたタグをもらった。これをどこかに付けておく必要があるらしい。フィデルさんに革製の首輪でも作ってもらうかなと考えたが、シュバルツは嫌がった。腕輪を提案するとそれなら付けても良いと了解を得ることができた。

焼き鳥の缶詰の空き缶を金属魔法で腕輪に加工した。かっこいい装飾も欲しいが、俺には無理だ。タグを取り付けてシュバルツサイズのぶっとい腕輪が完成した。

右足の付け根の当たりに付けてみた。黒い体躯にシルバーが映えるではないか。うむ、これなら街中を歩かせても恥ずかしくないな。


街中を歩かせてみたら衛兵を呼ばれて騒ぎになってしまった。

うーむ、シュバルツが街を歩ける日は来るのだろうか。ずっと影の中だと可愛そうだしな。街の人に慣れてもらうしかないな。

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