第27話 変異種との死闘

朝食を済ませて出発だ。魔素溜まりまでもう一息だ。

森の深部に入っているので強力な魔物が出る可能性もあるのだが、森はとても静かだった。

何事もなく、昼過ぎには合流予定地に到着した。

今は監視を行っていた冒険者パーティと情報交換を行っている。

監視している範囲内では今の所、変異種等の強力な魔物は確認できていないとのことだ。しかし、通常の魔物もほとんど姿を見せておらず、森がいつもより静か過ぎるので何か異常が起きている可能性はあるとのこと。

魔素溜まりの区域に侵入し、中心地を目指しながら調査することになった。

ここからは編成が変わる。冒険者パーティの斥候の方が先行してくれることになった。

中央を俺とジャレッド先生が進む。

「今までの魔素溜まりとは違って明らかに様子がおかしい。全員警戒を強めてくれ。」

「ルノ君。ここからは契約魔法を使用するように念じながら進んでくれ。どこに何がいるか分からんのでな。」

なるほど、確かに。精霊が気配察知にも引っかからないような存在である可能性もあるわけだ。

ジャレッド先生は魔素調査のための魔道具をいくつか起動させながら歩っている。

しばらく進んだところでジャレッド先生が叫んだ。

「全員、前方を警戒!周囲の魔素が急に動き出した。前方に集まるように移動している。」

魔素というものは見えないので、どうやって警戒したものかと思っていると、前方の地面から何か黒いものが現れた。

大きな真っ黒の狼だった。今の出現の仕方は俺の潜影スキルと酷似していた。

「変異種か!前衛組、前へ出ろ!」

冒険者組がすぐに動き出すが、黒い狼は飛び上がって木の上に登った。

黒い狼はこちらを観察するように金色の眼でじっと見下ろしている。

敵対心は感じない・・・気がする。

俺は『契約魔法使用!』とずっと念じている。黒い狼と目が合った。そして何となく理解した。こいつは魔物ではない。もっと別の何かだ。間違いなく契約魔法は反応していると確信した。

「あの狼に攻撃はしないでください!敵ではない可能性が高いです!先生!契約魔法が反応したような気がします。」

「おお!契約できたのか!?ということはあれは精霊か?」

「いえ、多分契約はできていません。何となく契約魔法スキルを通じて何か感じ取ったような感覚があっただけです。あれが精霊かどうかは分かりません。ですが、魔物ではないのは間違い有りません。」

「そうか・・・近づいても大丈夫そうだろうか?」

「うーん、今のところ敵対心は感じないんですが、こちらの対応次第では牙を剥く可能性はあるかもしれませんね」

「では距離を保ったまま調査してみるか」

その時、黒い狼はすっと目線を別の方向に向けた。なんだろうかと、俺もその方向を見てみる。

魔物の気配だ!

「右側の方角から魔物が来ます!狼は放っておいて構いません!」

「変異種のオーガだ!」

冒険者組の斥候の人も気付いたようだ。

一旦、狼のことは忘れよう。まずは生き残ることが優先だ。


青いオーガがすごい勢いで走ってきた。カルバンさんが盾を構えて攻撃を受けるが、盾ごと殴り飛ばされた。すぐに冒険者組の盾持ちの人がカバーに入る。俺も空中移動でオーガの気を反らすように移動する。隙をみて攻撃をしたいところだが、入り込めない。弓矢で攻撃している冒険者もいるが、矢が刺さる様子はない。前衛組の何人かがブースト系のスキルを使っている。盾持ちの人が何とか攻撃を凌いで、背後からクレイグさんたちが攻撃を仕掛ける。

「魔法撃ちます!離れてください!」

冒険者組の魔法使いの人が叫ぶのに合わせて、斥候の人が瓶をオーガに投げつけた。瓶は割れて液体がオーガに降りかかる。そのタイミングで火の玉がオーガに着弾した。オーガが激しく燃え上がった。どうやら瓶の中身は油だったようだ。オーガは火を消そうと地面を転げ回っている。

そこにジャレッド先生がロマン砲・・・じゃなかった。ドリル魔法を撃つために走り寄ってきた。しかし、敵は転げ回っていたため、狙いは外れて足に直撃。先生はすぐに二発目を撃つ準備をしている。前衛組も追撃をしようとしているが、敵は腕を振り回していて近寄れない。

先生が魔法の準備をしていることに敵が気が付いたようだ。先生の方に向かってきた。足を撃たれているので最初のような速さはないが、先生は避けられないだろう。俺は空中から先生の前に飛び降りた。真正面からは受けきれないと判断して、攻撃を受け流すように斜めに二枚重ね障壁を展開する。自身もロッドを構えて受けの態勢をとる。

一瞬意識が飛んだ。気がついたら数メートル先に吹き飛ばされていた。障壁を砕いた上でこの威力。直撃したら即死だな。敵は俺に攻撃対象を移したようだ。こちらに向かってくる。敵が飛び上がって腕を振り上げてきた。その後ろに先生が二発目のドリルを撃つ態勢になったのが見えたので、俺は潜影スキルで影の中に潜った。影の中なら安全だ。とりあえず全身が痛むので、下級ポーションを飲んだ。意外とハーブティーのような味で飲みやすかった。

外に出ても問題ないだろうか。影の中からは外の様子がわからないのだ。

どうしようかなと考えていると目の前に大きな狼の顔があった。


狼の顔があった。


思わず叫びそうになった、影から飛び出しそうになった、色んな物が飛び出しそうになった。


はあ・・・さっきの黒い狼じゃないか。びっくりさせるなよ。どうやってここに入ってこれたんだよ。自分が許可した物しか入れないはずだぞ。ああ、お前も潜影スキル使えるんだったな。

でも他人の影空間に勝手に入るのはマナー違反じゃないか?

え?おもしろそうだったから入ってみたって?

こっちはおもしろくないよ、びっくりしたんだぞ。ん?何かお前の考えてることが何となく分かるな。テレパシーってやつか?

ん?ステータス見てみろって?どれどれ・・・


ステータス

名前:ルノ

性別:男

年齢:26歳

職業:商人

種族:人間

スキル:忍び足Lv4、気配希薄Lv4、精神耐性Lv3、契約魔法Lv2(契約霊獣『   』)、筋力強化Lv3、クリーンLv3、暗視Lv3(Lv8:霊獣補正)、隠蔽Lv5(Lv10:霊獣補正)、気配察知Lv4、身体強化Lv4、俊足Lv2、直感Lv2、杖術Lv3、体術Lv2、金属魔法Lv3、魔道具作成Lv2、引力Lv2、解体Lv1、危険察知Lv2、回避Lv2

固有スキル:潜影Lv3(Lv8:霊獣補正)、障壁Lv3

称号:次元の狭間を超えし者、霊獣の契約者


うっそ、まじで!契約魔法が仕事してるよ!

お前は霊獣なのか。精霊ではないんだな。空欄になってるのは名前がないのか?俺が決めていいのかな。

えっ?かっこいい名前で頼むって?俺ネーミングセンスないんだよ。期待するなよ。

ん~、黒いお前を見てると黒ビールが懐かしくなってきたな。よし、お前はシュバルツだ。

うんうん、気に入ってくれたか。ところで外の様子はどうなってる?外は出ても大丈夫か?

そうか、魔物は死んだか。よし出るか。みんなは無事かな。


「おお、ルノ君。無事だったか。さっきは助かったよ。ありがとう。」

「すみません、遅くなって。影の中だと外の様子が分からないもので。変異種は討伐できたのですね。」

「うむ、ルノ君のおかげで二発目はしっかり当てることができたよ。あとはみんなでタコ殴りだね。」

「負傷者は・・・大丈夫そうですね。」

「ポーション飲めばなんとでもなる程度の怪我だよ。」

今は戦後処理をしているようだ。


さてシュバルツのことはどう説明したものか・・・

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