第25話 打ち上げ(二次会)

フィデルさん宅へ移動して、今は古参従業員のみで二次会だ。何故か俺も参加している。

フィデルさんが秘蔵の高級ワインを出してくれた。

先程までの宴会と違い、静かな大人の飲み会だ。

シルビアさんはキアラさんと新人教育の進行具合の話をしている。

フィデルさんとロドリゴさんは、今後の魔物の動向予想について話し合っている。

俺はチャールズさんとルーベンさんからダンジョンの話を聞いていた。

この二人はダンジョン遠征出張計画のための視察に赴いたことがあるそうだ。ダンジョンへ出張というのは意味が分からないが、その二人から忠告を受けた。

「ダンジョンに一人で入るのはやめておけ。」

ダンジョン都市は荒くれ者が多いのだが、特にダンジョンの中は無法地帯なのだそうだ。

ダンジョンの話を聞いていると、俺が行くのは当分先だなと思えた。相当な実力者である二人が、本格的なダンジョン出張計画を諦めざるをえなかったというくらいなのだ。まあ、二人の場合はコスト・利益・人員不足といった商会としての判断のようだが。

しかし、ダンジョン都市はスキルスクロールの流通量が多いのだ。早い段階でもスクロールを買う目的で都市に行く価値はある。

「ダンジョンには地上では滅多にお目にかかれないような希少な魔物の素材も手に入る。計画を断念するのは商会としては惜しい。他の商会が扱っていない商品があれば強みになる。」

と、ルーベンさんが悔しそうに語る。

この人はこの商会の色に染まりきっているようだ。もはや手遅れか。

従業員が仕入れのために討伐に赴くというのは、この世界であっても普通のことではない。今日の防衛戦の時にしても『ローレンス商会の討伐品』なんて看板を掲げているような商会は他にいなかった。ローレンス商会が異常なのだ。

「なになに~?ルノくん、ダンジョンに行くの~?」

キアラさんも話に加わってきた。

「興味があったので話を聞いていたのですが、諦めましたよ。」

「え~。ルノくんがいればダンジョンでおいしいビールが飲めるよ~。みんなでダンジョン行こうよ~。」

あんた、さっきの宴会でさんざんビール飲んでたもんな。ダンジョンにビール要員はいらんだろ。

「ふむ。ダンジョン出張計画は人手不足で諦めましたが、ルノさんが加わるのであれば再検討の余地はあるかもしれませんね。」

フィデルさんも会話に加わってきた。

「私が加わってもお荷物が増えるだけでしょう。」

「今は無理かもしれませんが、長期的な計画を練ってみますか?新人の中から伸びてくる者もいるかもしれませんし。」

シルビアさんもダンジョン出張計画に乗り気のようだ。みんな酔ってるのかな?

「ソフィーなんかは筋が良いので、使えるようになるかもしれませんよ。ルノさんもこの短期間でロックバードの討伐ができるようにまでなっています。十分見込みはあると思いますよ。」

おお、シルビアさんから認めてもらえたぞ。明日からのトレーニングが捗りそうだ。

というか、ソフィーちゃん筋が良いのか。いいぞ、その調子で頑張ってくれ。そうすれば紹介した自分の株も上がるというものだ。

こうして酔った勢いでダンジョン出張計画は賛成多数で可決されてしまった。

「では人事も見直す必要がありますね。レイクスからもう少し増員しましょう。」

酒の席で人事を決めるなよ。酔いが覚めてから後悔しても知らんぞ。

-----------------------------------

翌日、俺は金属魔法で物作りに没頭していた。

昨日の防衛戦の影響で魔物肉の買取額が下がっていて、狩りに行く気がしないのだ。

そして魔物の氾濫という危機を乗り越えたことで、街はお祭り騒ぎだ。あちこちに露店が並び、いつもとは違った賑わいをみせている。

そして、その様子を見ていて俺は気付いてしまったのだ。

金属魔法の使い道を。

これしかない!この魔法はこのためにあったのだ!

俺は午前中、焼き鳥の缶詰の空き缶をいくつか取り出し変形させ続けた。

そして完成させてしまった。おそらく、この世界でただ一つの逸品を。


ビールジョッキ型ステンレスタンブラーだ!


これなら冷たいビールをキープしながら、街で肉を食い歩くことができる!

え?昨日も飲んでたじゃないかって?

街はお祭り状態なのだ。野暮なことは言いっこなしだ。

俺は真っ昼間からビールを片手に肉を食い歩いてやるんだ。


そんなこんなで防衛戦の喧騒は去っていったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る