第24話 領都防衛戦

昼前になって魔物が多数押し寄せてきた。あちこちで防衛戦が始まっている。それにしてもこんな数の魔物が一体どこからやってきているのだろうか。各地で度々、魔物の氾濫というのは起きるらしいが、原因は分かっていないらしい。考えていても魔物は迫ってくるので、いつもの頭上からの暗殺スタイルで仕留めていこう。金になりそうな魔物を優先して狩るつもりだ。

ソードディアーを発見した。角が鋭い刃状になっている獰猛な鹿の魔物だ。以前、レイクスで狩りをしていた時にもこの魔物は遭遇したことがあった。しかし、その時は不意打ちに気付かれてしまった上に、正面からは対抗できず討伐は断念していた。だが、俺も成長しているのだ。気配希薄スキルのレベルが上がっているため、気付かれずに先手を打つことができた。あとは怯んだところをボコボコにしてやった。

木の上にヘビの魔物が3匹いたので、こいつも叩き落として頭を潰した。三匹とも色違いだ。一匹はブラッドバイパーだが、残りの二匹はなんだか分からない。とりあえず影空間に放り込んで一旦解体場に戻ることにした。

ローレンス商会の解体場への持ち込みは俺が一番乗りだったようだ。まあ、最前線には行ってないし、影空間で持ち運びもできるし、空中を走破できるからね。獲物を放出してまた狩場へ戻ることにした。血抜きしなくていいのは楽でいいね。

その後はオークを討伐したり、オーガに挑んで討伐を諦めたりした。俺はまだまだ弱いのだ。


今、俺は城壁の上から状況を眺めつつ休憩している。地上の魔物の掃討は順調のようだが、空からの魔物の対応が遅れているように見える。どうしても遠距離攻撃手段を持つ者は限られてくるのだ。領主軍の弓部隊や魔法部隊が応戦しているが、魔物の分布範囲が広くカバーしきれていない。

俺は腕試しにとロックバードに挑んでみることにした。

ロックバードは以前討伐したフォレストバードの上位互換と言っても良い。大きく、頑強で、なかなか強力な風魔法を使い、そこそこ知能も高いらしい。

風魔法で距離を保ったまま攻撃されると手も足も出ないので、突進してくることを祈ろう。

戦場の端っこの方から空中を移動する。空の魔物はロックバードだけではない。数は少ないがワイバーンという明らかに自分の手に負えない魔物もいるので、気をつけなければならない。まだ戦闘に入らず、様子見しているロックバードが高所で旋回していたので、障壁を駆け上がって接近する。相手も気付いたようで、こちらに突進してきた。

来た!チャンスだ!

足場に障壁一枚作り、迎え撃つ態勢をとる。ちなみに障壁スキルLv3になっても障壁は二枚までしか出せない。

相手がぎりぎりまで接近するのを待ってあと十メートルといったところで、障壁スキルを展開する。

いつもは身を守るために自分の体に対して平行に障壁を展開するのだが、今回は垂直に展開する。刃状は無理だが、できるだけ薄く丈夫に。

勢いよく飛び込んできたロックバードは突然現れた障壁を回避できず直撃する。左の羽根の付け根のあたりにざっくり障壁が刺さった。丁度目の前で止まったロックバードの頭にロッドを叩き込んでやると、ヨロヨロと落下していった。更に追撃を仕掛けるために、急いで足場を展開しながら飛び降りる。魔法を使われる前に、ここで仕留めなければ。ロックバードはおそらく、俺に近づいてはならないと学習したはずだ。次は間違いなく風魔法が飛んでくる。落下途中でロックバードは態勢を整えようとしていた。そこで追いついたので、引力スキルで無傷の方の羽根を引っ張るとまた態勢を崩した。そこに落下速度を加えて渾身の一撃を叩き込む。

今度は完全に動きを止めて落下していった。


地上に戻ってロックバードを回収して、解体場に戻ることにした。


しかし、空中戦は恐ろしかった。あの大きな鳥が眼前まで迫ってきた時はちびりそうになった。やっぱり遠距離攻撃手段が欲しいな。


解体場に持って帰ると解体組のみんなが忙しそうに解体していた。そこには大きな熊の魔物やワイバーンもあった。あの大きな熊が多分バーサークベアかな。最前線組が仕留めたのだろう。流石だな。

ソフィーちゃんもオークを仕留めたようだ。満身創痍といった様子だが、大きな怪我はなさそうだ。トンファーでどうやってオークと戦ったのか、その勇姿を見てみたかった。

最前線組も戻ってきた。

チャールズさんとルーベンさんはロックバードを抱えている。彼らは空の魔物を狙ったようだ。ワイバーンを仕留めたのもチャールズさんだ。きっと雷魔法でかっこよく討伐したのだろう。いいなあ、魔法が使えて。

シルビアさんとロドリゴさんは二人でバーサークベアを運んできた。一匹目のバーサークベアを討伐したのもシルビアさんらしい。熊を狩るのが趣味なのかな。今度、熊狩りにお誘いしてみようかな。いや、駄目だな、俺ではバーサークベアはまだ狩れない。もっと強くならなければ。


夕方には防衛戦は収束した。

『ローレンス商会の討伐品』と書かれた看板が夕日に照らされて輝いている。

そこには山のように戦果が積み上がっている。

そしてそれを唖然とした表情で冒険者の方々が眺めている。

きっとローレンス商会の名は領都に広まるだろう。

フィデルさんは眺めている冒険者の方々にビラ配りをしている。きっとあの革を使って防具を作るから店に来いという宣伝をしているのだろう。

ローレンス商会の主力商品が革製品なのは、仕入れ(現地討伐直送)を従業員にさせているからだろうか。

いや、まさかね。そんなはずないよね。


その後は片付けて、倉庫へ搬入を終えた後は商会で宴会となった。俺も参加した。ビールを大量に放出した。

今日の酒の席はにぎやかだ。

一人も欠けること無く、領都での初仕事を終えて大戦果だったのだ。俺は商会の従業員ではないけれど、仲間の輪に加われた気がする。隣りに座ってるやつの名前も知らないけど。

今日、フィデルさんが俺を呼んだのは、いつも俺が一人で過ごしているからだろうか。この輪の中に参加させるために呼んだのだろうか。

いや、今は酒の席だ。考え事はやめよう。今はただ仲間と健闘を讃えて乾杯だ。


でも自分が討伐した分の買取金額は明日請求しよう。

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