第23話 不穏な領都

領都へ拠点を移す日がやってきた。

今回の領都移動は馬車三台での大移動だ。レイクス店から領都本社へ異動になった従業員の方が三名増えたのだ。引っ越しの荷物とかがあるのだろう。いつもの護衛の『赤の羽根』パーティも領都へ拠点を移すと聞いているが、今回は同行していない。今回は護衛は不要らしい。本社異動の従業員の方が増えたためだろう。やはりローレンス商会はみんな強者なのだ。


領都に近づくにつれて魔物の襲撃が増えていった。こんなことは珍しいらしい。確かに前回は領都近辺は一度も魔物の襲撃はなかった。従業員の方の一人が東側の森の様子がおかしいと呟いていた。俺には普通の森にしか見えない。気配察知には自信があるのだが、斥候としての実力も自分はまだまだのようだ。

襲撃を撃退しつつ領都には無事到着することができた。

前回泊まった宿屋へ長期滞在の予約を入れて、今日はのんびり体を休めることにした。明日からはここを拠点に魔物狩りを頑張るのだ。


翌日、冒険者ギルドにきた。依頼掲示板の周りに人が集まっている。どうやら東側の森の浅い箇所でバーサークベアという強力な魔物が目撃されたらしい。よし、今日は安全そうな西側で狩りをしよう。


初めて入る森なので今日はあまり奥までは入らないようにしよう。道順や地形の把握、安全な狩場を探すのが今回の目的とするか。森中腹部に差し掛かったあたりで、オークを討伐した。今の俺なら頭を三回殴ったら大体討伐できる。今日はここで引き上げるとしよう。


買取の窓口でお金を受け取って帰ろうと思ったが、ロビーのあたりが騒がしい。何事かと思って様子を見に行くと、朝の東の森の件だった。森の浅い箇所にいるのはバーサークベア以外にもオーガなどの強力な魔物も複数確認されたそうだ。さらに森の奥から斥候の人が持ち帰った情報によると、多数の魔物が領都側に向かって移動してきているらしい。既に街道にはゴブリンやフォレストウルフも多数確認されており、東門は封鎖。大規模な魔物の氾濫が起きているとして、領都軍も動員して事態の防衛にあたるそうだ。明日の午後には街道に魔物が押し寄せてくる可能性があるらしく、冒険者ギルドではCランク以上の冒険者は領都防衛に強制参加。それ以下の冒険者や戦闘員の方々の参加も募るとのことだ。


うーむ、大変な時に領都に来てしまったようだ。明日は狩りに出るのはやめよう。宿屋でおとなしく金属魔法と魔道具作成の修行だな。


翌朝、俺は何故か東側の城壁の外でローレンス商会の従業員の方々と一緒に整列している。

新しく雇われた従業員と思われる方々からは、こいつは誰だろう?という視線を向けられるが、俺も何でここに呼ばれたのだろうという気持ちでいっぱいだ。

ソフィーちゃんも並んでいる。以前のような気の弱そうな表情はない。手にはトンファーを持っている。なんでその武器を選んだのだろうか。きっと蹴術も習得しているに違いない。

そこにフィデルさんが登場して演説が始まった。

「みなさん。おはようございます。ご存知の通り、今領都は魔物の氾濫という危機に見舞われています。これは領都に進出したばかりの我々にとって、名前を売る大きなチャンスです!」

何を言ってるんだろう、この人は。

「人員の配置ですが、前線にチャールズ・シルビア・ロドリゴ・ルーベンの4名。新人の方々はここで運ばれてきた魔物の解体作業をお願いします。キアラ・ソフィーもここに残って解体組の護衛をお願いします。」

ロドリゴさん・ルーベンさん・キアラさんというのがレイクスから領都に異動になった方々、つまり強力な戦闘員だ。

「その他の方は自分の実力に見合う獲物を安全第一で討伐してここに持ってきてください。」

フィデルさんの後ろには『ローレンス商会の討伐品』と書かれた大きな看板がある。

そして、フィデルさんの言う『その他の方』とは該当者は多分、俺しかいない。

「何か質問はありますか?」

質問したいことがありすぎて考えがまとまらない。すると、シルビアさんが挙手をした。

「はい、シルビア。何でしょうか?」

「ソフィーも討伐に出すべきだと思います。ここの護衛はキアラのみで十分かと。」

ソフィーちゃんは顔が真っ青になっている。

「ふむ、ソフィーの教育担当はシルビアに任せてはいますが・・・大丈夫なのですか?」

「問題有りません。実戦経験を積むまたとないチャンスです。」

「分かりました。ではソフィーも自分の実力にあった魔物を討伐してください。」

「ソフィー。あなたはオークを討伐してきなさい。」

シルビアさんからの厳しい教育指導に、ソフィーちゃんは白目を剥いている。

「では各自、持ち場について準備をお願いします!くれぐれも安全第一で行動してください!領都での初仕事です!気合いを入れていきましょう!」

こうしてよく分からないままに領都防衛戦に加わることになった。

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