第19話 契約魔法の研究者
今日は契約魔法の研究者の人を訪ねようと思っている。
レイクスの街のスキル屋で教えてもらった住所に向かう。結構名の知れた研究者の方らしく、個人で研究所を構えているのだ。ここに契約魔法の研究をしているジャレッド先生がいらっしゃる。
研究所の前に魔法使いっぽい格好の人がいたので、声をかけてみた。
「失礼します。こちらの研究所の方でいらっしゃいますか?」
「はい、ここで働いているものですが、何か御用でしょうか?」
「私はレイクスの街から来た者です。商人のルノと申します。こちらに契約魔法について研究されているジャレッド先生という方がいらっしゃると聞いてきたのですが、面会することは可能でしょうか?」
「先生に確認して参りますので、少々お待ち下さい。」
この人はジャレッド先生ではなかったか。門前払いの可能性もあるんだよな。
「お待たせいたしました。先生がお会いになられるそうです。どうぞお入りください。」
「ありがとうございます。お邪魔致します。」
案内された部屋にはドワーフのおっさんがいた。
「いらっしゃい。レイクスからはるばる来られたそうだね。私がジャレッドだ。どうぞ掛けてくれ。」
「ルノと申します。この度は貴重なお時間を割いて頂き感謝いたします。」
「ああ、そんなに畏まらなくても良いよ。楽に話そうよ。」
「失礼しました。喋り方は商人の癖みたいなものなのですよ。」
「まあ、悪い気はしないがね。それで、早速だが遠路はるばる来て何を聞きたいんだい?」
「先生が契約魔法を研究していらっしゃると伺って参りました。先生の契約魔法に対する見解を伺いたいのです。」
「契約魔法の有効的な使い方を模索しているのかな?期待させてしまって申し訳ないが、私が契約魔法を研究し始めたのは二年前だよ。それまではずっと魔法工学が専門分野でね。魔道具作ったりなんかしてたんだよ。」
「しかし、契約魔法の研究者としてレイクスの街にまで、先生の名前は届いておりました。契約魔法について何か発見して発表されたのではないですか?」
「そうだね、発表したね。そのおかげで私は糾弾されて当時住んでいた街を出て、ここに引っ越してきたんだ。」
ああ、新発見が世間に受け入れられなかったパターンか。お気の毒に。
「事の発端は大気中の魔素を取り込む機構を開発したことだ。」
「それが何故糾弾されるのです?」
「うむ。それはもう大変に称賛されたよ。その機構を魔道具に組み込めば、大気中の魔素も使うことでエネルギー効率は大きく変わったからね。」
全然話が読めないな。このおっさん自分の研究成果を自慢したいだけじゃないのかな。
「その機構は魔素の濃い場所では魔素を取り込む量が多くなる性質がある。」
「例えば魔素溜まりと呼ばれるような場所だね。その他には勇者伝説に登場するような精霊などと呼ばれる超自然的な存在がいる場所も魔素が濃いと言われている。」
ああ、出たよ、勇者。出たよ、超自然的なナントカ。ここで契約魔法の話に関わってくるわけか。何となく話が見えてきたぞ。
「当時、私が住んでいた街は水の都ディーネという街だ。勇者伝説に登場する水の精霊ウンディーネが住んでいた場所だと言われており、そこにディーネの街は建設されたという歴史のある街だ。」
おいおいおい、精霊の住んでる場所を都市開発しちゃったの?本当に精霊がいるのか知らんけど、いたら怒ってるんじゃないのか。
「今でも精霊はいると信じられていてね、その街には精霊ウンディーネを信仰する団体がいるんだよ。ああ、主神ガイアース様を信仰する神殿教会とは全く関係のない、ただの民間団体だからね。」
「もし本当にその街に精霊が存在するのなら、私の開発した機構で判別できるはずなのだよ。しかし、結果は周辺地域と全く変わらなかった。つまり、水の精霊ウンディーネは現在はディーネの街に存在しない」
「そう発表したらね、その民間団体から糾弾されたというわけさ。」
つまりこの人の契約魔法の研究成果とは、ディーネの街の精霊の存在の反証ということか。
「その件をきっかけに私は契約魔法に興味を持ってね。研究対象にしているのだよ」
「しかし、残念ながら契約魔法そのものについての有効的な利用法は確立できていない。」
・・・いや、今は結果は残せてなくても、この人はいずれ契約魔法の使い道に辿り着きそうな気がする。精霊がいる可能性の高い魔素の濃い場所を探し当てる手段を開発し、今も尚、研究し続けているんだ。この人との関係を断つべきではない。俺の直感スキルがそう言っている気がする。
「先生、質問をよろしいでしょうか?」
「うん、なんだい?」
「先生は今現在はどんな研究をされているのでしょうか?それから先生の契約魔法や勇者伝説に対する見解も聞きたいですね。」
「研究内容は専ら開発した機構を使っての魔素溜まりの調査だね。」
「契約魔法については世間一般では意味のない魔法と言われているが、私はそうは捉えていないよ。」
「スキルとは神から賜っているものと言われている。スキルスクロールも神の創造物と言われている。神が意味のないものを作るだろうか?意味があるからこそ存在しているはずなんだ。従って契約魔法の有効的な利用法は必ず存在すると私は考えている。」
「勇者伝説に関しては所詮は伝説だね。まあ、何もないところから伝説は生まれないから、モデルになった人物はいるのかもしれないけど、精霊云々もあんまり信じてないかな。」
ふむ、精霊を信じていないのに魔素溜まりを調査しているのか。おもしろい人だな。
「しかし、残念なことに私自身は契約魔法の適性がなくて習得できなくてね。調査に行くときは契約魔法のスキル持ちの人を雇って同行させるんだよ。自分で検証できないのは何とももどかしいね。」
「あの!その調査の時に私を同行させて頂けませんか!」
「君はスキル持ちかい?ちょっとこのスクロールに触れてもらってもいいかな?」
「うん、確かに適正有りだね。だけど魔素溜まりは危険なところだよ。それでも来るかい?」
「ぜひ、お願いします!」
「分かったよ、魔素溜まりが見つかったら連絡するよ。連絡はどこにすればいいかな?」
「来月には領都に拠点を移す予定です。それまではレイクスですね」
この日は、宿泊する宿屋の名前を伝えて研究所を後にした。
それにしても思ってたより真面目に研究してる人だったな。役に立たないと言われる契約魔法を研究してるって、よっぽどの暇人か奇人だと思っていた。予想以上の収穫に俺は満足して次の目的地へ向かうのだった。
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