第13話 初めての獲物
現在、新人冒険者の狩場らしい森にいる。
気配察知に集中して、障壁スキルの足場を忍び足スキルを使用して進む。これなら木の枝を踏んで音が鳴ったりなんてことは起こらない。もちろん、気配希薄スキルも全力で発動しているつもりだ。
初めての狩りなんだ。慎重になり過ぎるくらいが良いだろう。
しばらく移動していると気配察知に何かひっかかった。
俺は焦った。
気配察知Lv1は周囲10メートルくらいの範囲を正確に察知できるスキルだ。訓練場ではもっと離れた距離にいた野次馬を俺は自力で察知できていたはずなのだ。つまり、スキルの範囲に入る前には、自力で何となくは察知できるだろうという自信があったのだ。しかし、現実は既に10メートル先に獲物はいる。
おそらく、訓練場は遮蔽物のない見通しの良い場だったから遠くでも察知できていたということか。しかし、今は森の中。しかも相手は魔物が跋扈する自然界を生きる存在。気配を消すなんて日常茶飯事だろう。
自分の慢心を悔いている場合ではない。幸いまだ気付かれてはいない様子。木の枝に当たらないように高所に移動する。高度を保ったまま少しずつ前進する。獲物を視界に捉える。獲物の頭上10メートルの位置から少しずつ慎重に高度を下げて移動する。
気配希薄スキルがこんなに有り難いと思ったことはない。しかし、獲物まであと3メートル程かといったところで、これ以上近づくと気付かれると直感で理解する。
獲物は今、地面に落ちている木の実かなにかを食べている。
狙うのは首だ。
ロッドを構えて飛び降り、ロッドを振り下ろす!
バキャッ!と狙い通り首に直撃し、骨が砕けたような音がする。
やった・・・やってやったぞ・・・
綺麗な毛並みだ。いい値段で売れるんじゃないか?肉はお祝いに自分で食うか。角も売れるらしいな。いや、初めての獲物だし頭は剥製にでもするか。剥製ってどうやって作るんだ?そういえば飾る場所もないし邪魔だな。やっぱり剥製はいらんわ。
この世界での初めての獲物は鹿だった。
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教わった通りに血抜きをする。フィデルさんのお店で買ったスコップで穴を掘り、その上に鹿を吊るす。首を切り落としたかったが、首の骨が邪魔で解体ナイフでは無理だった。首が半分ちぎれた状態だけどまあいいか。血が流れている間も警戒は怠らない。むしろ初めての獲物を失いたくないので、狩る前より神経をすり減らしている。このまま、血抜きが終わってくれればと思ったが、願いは通じなかった。遠くで何かこちらに向かってくる音がする。
距離はまだ遠い。この感じはスライムではない気がする。
高所に登り、鹿から少し離れる。
木の陰に隠れながら、息を潜めて待つ。
視界に捉えた。緑の人型の魔物ゴブリンだ。数は2匹。
2匹相手にできるか?
いや、それ以前に自分の攻撃が通じるのかも分からない相手だ。
1匹で行動している奴でまず強さを検証するべきだ。
しかし、初めての獲物を失うのは惜しい。
退くか・・・挑むか・・・
「ゲギャッ!」
「ゲギャギャッ!」
ゴブリンは鹿を見つけたようだ。嬉しそうに声をあげている。
その声を聞いて俺は決めた。
それは俺の獲物だ。絶対に渡さない。
すぐにゴブリンの頭上に移動する。
その頭潰してやる。鹿を仕留めた時と同じように、ロッドを構えて飛び降りる。
ゴスッ!という音とともにゴブリンの頭が陥没する。仕留めたかは分からないが、すぐさまもう一匹に向かってロッドを横に振り抜く。そのゴブリンは驚いて一瞬硬直していた。
バキッ!と顔面に直撃し、顔が潰れる。
一旦距離をとり、警戒する。2匹は倒れたまま動かない。念の為、頭をもう一度叩き潰してから、ナイフで胸の当たりを切り裂き、魔石を取り出す。これが唯一金になるゴブリンの戦利品だ。
鹿は血抜きは終わっていた。初めての狩りでしかも連戦。とてもではないが、解体をする気力はなかった。マジックバッグに解体前の鹿は入らない。マジックバッグはバッグの口の大きさより大きな物は入らないのだ。潜影スキルで影の中に鹿を放り込み、急いで街へ戻ることにした。
今、解体場へ向かって、街の中を歩っている。だが、なんだか妙に周囲の人から注目されている。
なんだろうか?クリーンのスキルを使ったので、血の汚れなどはないはずだ。
ふと、指を指している人がいたので、その先を見てみると・・・。
足元の地面から血塗れの鹿の頭が生えていた。そしてその状態のまま俺の後ろをすーっと移動してきている。
やっちまった!!!
影空間が狭すぎて入りきってない!頭部だけ飛び出てやがる!
俺、この状態のまま街を練り歩いてたのか。ヤバイ奴じゃないか。もうスキルがバレるとかそういう問題じゃない。どうしよう。取り出して担いで持っていくか。ええい、もういいや。解体場はもうすぐだ。このまま走っていこう。
うわっ。気持ち悪っ。血塗れの鹿の頭が追いかけてくるぅ!
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