第12話 街の外への準備

夜、宿屋の自室で缶ビールを片手に、月(のような星)を眺めている。そして、これまでの異世界生活を振り返って考える。俺はまだ訓練以外で一度も暴力行為を働いていない。異世界に来たら初日からゴブリンの首チョンパしてまわるんじゃないのか?盗賊に襲われている馬車を助けて、美人な女性とお近づきになれるんじゃないのか?

そういえば、街に着いてから一度も街の外に出ていない。そうか、外に出ないとイベントは起きないのかもしれない。よし、外に出よう!でも外に何も用事がないんだよな。危険だが魔物狩りでもやってみるか。討伐できたとしても解体の仕方が分からんな。冒険者ギルドで解体の講習があったから教わるとしよう。周辺の魔物の情報も仕入れる必要がある。資料室にも行くか。

よし、今後の予定は決まった。

資料室で情報収集→解体講習→武器防具購入→外の世界へ!


資料室は冒険者ギルド員ではないので、銅貨2枚払って入室する。新人冒険者がよく狩場にする地域を調べる。その地域にいるのは、フォレストウルフ・ゴブリン・ホーンラビット・フォレストバード・サーベルラット。

そして森の掃除屋スライム。魔物の死体を放置していると、スライムが寄ってきて食べてしまうらしい。スライムは討伐しても報奨は出ないので狩る必要はないようだ。ただし、稀に出現する危険な特殊個体は討伐対象となる。

少し森の奥へ入るとオーク・ブラッドバイパー・キラービー・バーサークベア・ロックバード・ソードディアー・・・etc

情報をメモしていく。


そろそろ解体講習の時間だ。解体場へ向かおう。途中、ギルドの売店で地図を買っておく。


解体場のおっちゃんの講義が始まる。特に血抜きの重要性を説かれた。

実習は鴨のような鳥と鹿が準備されていた。既に血抜き済みのものが持ち込まれているので、血抜きはやり方だけ教わる。毛皮の剥ぎ方や内蔵処理などを教わるが、意外とグロさとかは気にならなかった。精神耐性スキルのおかげかな?いまいち効果の分からないスキルだ。

一通り教わり実際にやってみると、すごい力作業だった。トレーニングで筋力強化スキル取得してなかったら、たぶん無理だったと思う。

ちなみに解体講習は大銀貨3枚だった。素材を駄目にする可能性があるんだから、高額にもなるか。非常に有意義な講習だった。


次は武器屋に向かう。金槌のマークの看板の店に入る。多種多様な金属製品が並んでいる。これでこそ、ファンタジー!自分でも扱える武器はあるだろうか。早速、色々と手にとってみる。主にちょっと長めの鉄の棒で訓練していたので、両手用メイスは重すぎた。片手用メイスはなんかしっくりこない。槍は刃物だ、扱い方が分からない。うーん、どうしようか、やっぱり普通の鉄の棒かな。と思ったところで、魔法使いの人が使うロッドのコーナーに目がとまる。木製の杖とかではなく、金属製の棒の先端に魔結晶という魔力増幅効果のあるものを取り付けてあるものだ。その中で極めてシンプルな、金属棒に金属の球体を取り付けたようなロッドがあった。店員さんに聞いたところ、球体の中に魔結晶が埋め込まれているそうだ。近接戦闘も想定した魔法使いの人用の武器として作られたもので、殴ったりしてもいいらしい。自分はこれで殴打するだけなので、魔結晶は不要なのだが。

長さも丁度良い。すごくしっくりくる。これに決めた。

金貨3枚らしいが需要がないらしく、在庫品だからと金貨2枚にしてくれた。身につけるための背中に背負うベルトもサービスでつけてくれた。解体用ナイフも欲しいと言ったらそれもサービスで付けてくれた。

そんなに需要がないのか、このロッド。一体、いつから売れ残っていた品なのだろうか。まあ、魔法使いが近接戦闘する状況って絶望的な状況だけだろうからなぁ。そりゃ、売れないわな。見た目も地味だし。


次は防具だ。フィデルさんのお店に行く。フィデルさんのお店は革製品が主力。つまり、革製の防具もある。

防具はよく分からないので、動きを阻害しないものをという条件で、おすすめのものを一式選んでもらった。

うん、いいんじゃないかな。グローブもいい感じだ。ロッドが滑らないか気になっていたんだ。

サイズ調整があるので、2日後に取りに行くことになった。支払いは受け取るときで良いと言われたので、この日は帰宅することにした。


翌日はトレーニングに明け暮れた。新しい武器に慣れておかないといけない。今までの訓練用の鉄の棒と違って重さも重心も全く違うのだ。自分の武器が手に入るとトレーニングも楽しくなるな。


更に翌日、完成した防具を受け取りにフィデルさんのお店へ。

これで必要なものは揃うな。やっと冒険者っぽい格好になるんだな。冒険者じゃないけど。

そういえば防具の金額聞いてなかったな、いくらなんだろう?

いつもの店員さんがいつもの素晴らしい笑顔で金額を伝えてくれた。

「ではお会計、金貨8枚になります。」


俺はカウンターの前で土下座した。

結局、シャンプー・リンスを追加で卸すことで、金額は相殺してもらった。従業員の方々にもとサービスで多めに差し上げた。

そうだよ、フィデルさんのお店でお勧めでお任せしたらこうなるんだよ。クロコダイルコートの時もそうだったよ。俺は前回、何も学ばなかったのか。

でも、防具は大事だからな。俺はまだ死にたくない。きっとすごく良い革が使われているんだろう。これで良かったのだ。


気を取り直して、町の外へ出る。もちろん防具は装着済みだ。俺の異世界無双がようやく始まる!

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