第14話 訓練場の主

一悶着あったが、解体場へ持ち込み、解体・査定を依頼する。ゴブリンの魔石は売らずに持っておく。魔石は魔道具の燃料的な役割を果たすのだ。解体が終わるまで酒場で時間を潰すとしよう。

エールとつまみにジャーキーのような物を適当に注文して、今日の反省会だ。頭上から奇襲して一撃で仕留める戦法は、俺のスキル構成では最適解だったといっていいだろう。鹿を鈍器で仕留めたんだ、猟師の人も真っ青だ。しかし、気配察知の慢心もあったし、それよりも大きな問題点があった。俺は怪我をしたらどうするつもりだったのか。治療する手段が何もない。武器と防具が揃って気が大きくなっていたようだ。薬屋に行ってポーションを買うとしよう。結果としては無傷だった上に、獲物を仕留めることもできたので、初めての狩りにしてはこれ以上無い戦果だろう。

うむ、これは異世界無双したと言って良いのではないか!

そうだ。魔物を倒すとスキルレベルが上がりやすいと教官殿が言っていた。確認してみるか。


ステータス

名前:ルノ

性別:男

年齢:26歳

職業:商人

種族:人間

スキル:忍び足Lv2、気配希薄Lv2、精神耐性Lv1、契約魔法Lv1、筋力強化Lv2、クリーンLv1、暗視Lv1、隠蔽Lv5、気配察知Lv2、身体強化Lv2、俊足Lv1、直感Lv1、杖術Lv1

固有スキル:潜影Lv1、障壁Lv2

称号:次元の狭間を超えし者


きた!やっとスキルレベルが上がった!スキルも更に増えてる!

杖術か。てっきり棍術が取得できると思っていたのだが。まあ、何でも良いか、戦力が上がったんだから。さらに研鑽を積んで、自衛力を強化していこう。


査定の結果、手数料を差し引いて大銀貨1枚と銀貨8枚だった。肉は全部返してもらったので、金額はそんなに伸びなかったが、状態がかなり良かったのでいい値段を付けてくれたようだ。肉はマジックバッグに入れておけば腐らないし、いつでも鹿のステーキが食えるぞ。

早速ステーキ焼いて祝杯をあげるぞ!

え?さっきエール飲んだろうって?あんなまずいもんは祝杯とは言わないのだ。


フィデルさんのお店で買った火の魔道具(コンロみたいなやつ)や調理器具を準備する。フフフ、やはり買っておいて良かったな、野営道具。野営って響きがなんか楽しそうだよね。ここ、宿屋の裏のスペースだけどな。さすがに部屋の中で火を使うのは駄目だと思ったのだ。

鹿肉に塩と謎の香辛料で下味を付けて焼いていく。ジビエはしっかり火を通すべきだよな。まだかな、早く焼けないかな。よし、そろそろいい感じだ。いざ実食!

んん~っ!まずいわけがないっ!

初めての自分で狩りをして得た肉なのだ。感動も良いスパイスになっている。

そうだ、ビールを準備しなければ。これがなければ祝杯とは言えないよな。

綺麗な夜空の下で、肉を喰らいビールで流し込む。最高だ。異世界に来てよかった。うん、でもこれもとの世界でもやろうと思ったらできるよな。肉はただの鹿だしな。いやいや、めでたい時に野暮なことを考えるのはやめよう。今はただ生き残ってうまい肉にありつけたことに、ひとりで乾杯!


一夜明けて今日はまず薬屋に向かうことにした。ポーションを買うためだ。

ポーションは高かった。この店は、初級と中級のポーションが売ってあった。初級が大銀貨1枚。中級が大銀貨8枚だった。初級は打撲や裂傷などの治療用。中級は骨折や指くらいの部位欠損でも治るらしい。

悩んだが、背に腹は代えられない。安全が金で買えるのだから。

中級を1本と初級を2本買った。マジックバッグに入れておこう。使うときがなければそれが一番なのだが。

しかし、いざという時になって、この緑や赤の原材料不明の得体のしれない謎の液体を、俺は飲むことができるだろうか。腹壊したりしないかな。あ、無限物資の整腸薬があるからそれも一緒に飲めばいいか。


それからはトレーニングに明け暮れたり、たまに狩りに行ったりした。戦闘講習も何度か受け、教官殿からは新たに格闘術を教わっている。模擬戦では相変わらず全く刃が立たず、ボコボコにされている。


そんなある日のことである。狩りを終えてホーンラビットと鹿を納品して、さあ帰ろうか、と思った所で声を掛けられた。

「なあ、ちょっといいか?」

「ん?俺か?」

見たところ新人冒険者だろうか。安物っぽい防具を身に着けた十代半ばくらいの男の子と女の子である。

「あんたが訓練場の主だろ?よかったら俺達とパーティを組まないか?」

「ちょっと待ってくれ。訓練場の主ってのはなんだ?」

「え?冒険者のみんながそう呼んでたから、そういう二つ名じゃないのか?」

勝手に変な二つ名付けてんじゃねーよ!何だよ、そのホームレスみたいな二つ名は!そりゃ、週に5日は訓練場に籠もってるけどな。最近は狩りするようになったし、ちゃんと働いてるよ!

「とりあえず、その訓練場の主って呼び方はやめて欲しい。俺はルノって名前だ。」

「ああ、すまなかった。俺はライル。こっちはソフィーだ。」

元気な男の子がライル君で、気の弱そうな女の子がソフィーちゃんか。話を聞けば、2人は村から出てきて冒険者登録して間もないらしい。冒険者活動をしつつパーティメンバーを集めているそうだ。ライル君とソフィーちゃんも昨日パーティを組んだばかりらしい。2人の出身は違う村のようだ。

「さっき、ホーンラビットと鹿を納品してたってことは、かなり戦えるんだろ?でもソロだとできることは限られるはずだ。組まないか?」

「すまない、無理だ。俺は冒険者ではないんだ。だから依頼を受注することができない。」

「えっ。冒険者じゃないのか。訓練場をよく利用しているって聞いたから、てっきり冒険者だと・・・」

「訓練場は一般人でも利用できるんだ。自衛のために訓練場は利用しているんだ。俺は商人だよ。ほら商業ギルド証。」

「そうだったのか、それじゃ組めないな。すまなかった、引き止めてしまって。」

「いや、気にしないでくれ。良いパーティメンバーに恵まれることを祈ってるよ。」

そう言って別れて帰宅した。

しかし、若者からタメ口で話しかけられたけど、不思議と悪い気はしなかったな。冒険者同士だとあれが普通なんだろうな。新人といえどパーティリーダーを務めるなら、舐められるわけにはいかないんだろう。


だがしかし、訓練場の主なんて二つ名を俺は絶対に認めない。

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