第6話 シャンプー・リンス無双

「知らない天井だ」

このセリフを言い忘れていた。うむ、今日も良い朝だ。

チョコクロワッサン、アンパン、野菜ジュースで朝飯としよう。あ、チーズも食べよ。

一人の静かな朝食はやはり良い。決して寂しくなんかない。ないったらない。食堂のがやがやとした喧騒も良いのだが、一人の静かな朝も捨てがたい。

さあ、商談に向けて糖分は補給した。宿裏の井戸で顔を洗い、歯を磨く。まだ時間が早い気がするのでバッグの準備だ。昨日買ったナントカライノスのバッグにお金、ボールペン、紙(書類の裏をメモ用紙にしてる)、シャンプー・リンス各20個ずつ入れる。マジックバッグは潜影スキルで影の中に放り込んでおく。影の中は許可したものしか出入りできない。すれ違った人が影に足を突っ込んで落ちるようなことはない。

いざ、出陣。


早すぎた、店が閉まってる。時計が欲しいな。欲しい物リストに追加だ。

近所を散歩するかと思ったところで入り口の扉が開く。昨日の美人な店員さんだ。

「おはようございます。本日お約束していたルノと申します。フィデルさんはいらっしゃいますか?」

「おはようございます!お待たせしてしまい、失礼いたしました。どうぞ奥の応接室へご案内致します。」

「早くに到着してしまってこちらこそ申し訳ございません。」

「いえいえ、とんでもございません。昨日のシャンプーとリンスですが、私も使わせて頂きましたが素晴らしいものですね!商会長も随分ごきげんでしたよ。」

「気に入って頂けて何よりです。」

この人もシャンプー使ったんか。そういえば昨日と髪質が変わってる気がする。うーん、サンプルでもう少し多めに渡してあげればよかったかな。


応接室に入って間もなくフィデルさんが飛び込んでくる。

「おはようございます!ルノさん!」

「おはようございます。フィデルさん。」

「昨日のシャンプーは素晴らしいものですね!石鹸より馴染みやすいし香りが良い!リンスは私にはよく分からなかったですが、女性陣からは好評でしたよ!あっという間に使い果たしておりました」

「いや、それに関してはもっとサンプルを多めに渡すべきだったと反省していたところです。女性の感想も聞くように言っておきながら、サンプルを1つしかお渡ししなかったのは私のミスです。大変失礼いたしました。」

「失礼なんてとんでもございません。その分たくさん買い取らせて頂きますよ!あれは貴族相手にも絶対売れる!」

さっきの美人な店員さんがお茶を運んできてくれた。おっ、紅茶だ。うまいな、これ。

「早速ですが、いくつお売り頂けますか?こちらとしてはシャンプー200個、リンス100個は欲しいところですが。」

200個?20個ずつしかバッグに入れてこなかったんだけど。うーん、潜影スキルは大したスキルじゃないし、フィデルさんには見せてもいいか。

「おお、そんなに沢山購入して頂けますか。準備できますよ。金額はそれぞれ1つ銀貨6枚でいかがでしょうか?」

この金額は事前に決めていた。フィデルさんは雑貨屋というだけあって石鹸も扱っていた。結構小さい石鹸が1個銀貨6枚で売られていたのだ。さっきの貴族にも売れるという発言もあったし、おそらく大銀貨単位での販売価格になるはず。それならこの金額でも利益は十分出るだろう。

「銀貨6枚ですか・・・ちなみに継続仕入れは可能ですか?」

おや、ちょっと高かったかな。確かに結構強気な金額を提示した自覚はあるが。継続仕入れを望むか・・・どうするかな。返答は適当に濁すか。

「そうですね。ずっとこの街に滞在しているとも限らないですが、可能な限り販売は致しますよ。それと金額ですが・・・」

「なんでしょうか?」

「私に関する一切の情報、もちろんボールペンやシャンプーの入手経路も含めて情報の流出をできるだけ防いでください。店員の方の口止めもです。その条件を守って頂ければ銀貨4枚で結構です。」

「それはもちろんお約束しますよ。商人ですから情報を漏らすようなことはしません。」

「それと次回の仕入れは1ヶ月ほど待ってください」

「それも構いません。無理のない範囲で納品頂ければ結構ですので。」

「では今回分の商品を準備いたしますのでお待ちを。」

潜影スキルを使い、影の中からマジックバッグを取り出し、シャンプー・リンスを1個ずつ頑張って取り出す。潜影スキルを使ったときにフィデルさんは驚いたようだが、すぐに受け取りの準備にかかる。

「チャールズ!箱を準備して数を確認してくれ。」

フィデルさんの後ろから、箱を手にしたチャールズさんがすっと現れる。

いつからそこにいたんだ。その箱はどこから出てきたんだ。と問い詰めたいところだが、シャンプー・リンスを取り出すのに必死なので我慢する。

「はい、確かにシャンプー200個、リンス100個、確認いたしました。」

「では、金貨12枚を用意してくれ」

「こちらになります」

これまたどこからともなく、お盆にのった金貨がチャールズさんの手に現れる。と思ったら大量のシャンプー・リンスの入った箱が消えている。

チャールズさんの仕事の速さに驚いていては切りがないので、金貨を受け取ることにする。

「確かに金貨12枚受け取りました。それとこれはおまけです」

朝、ライノス革のバッグに入れた20個ずつのシャンプー・リンスを取り出す。

「従業員の皆様に差し上げてください。」

20個ずつで足りるのかな・・・結構大きい商会だからなぁ。

「おお、よろしいのですか?昨日、試せなかった者達もいたので、喜ぶと思います。」

「今後もお世話になりますので、遠慮せずどうぞ。早速、昨日のキラークロコダイルのコートは頂きますよ。」

「ありがとうございます!こちらこそ、今後とも宜しくお願い致します。」


この後はコート以外に調理器具やランタン、ブランケットなど小物も色々と購入した。革製品が主力商品ということもあって、革靴もあったのでオーダーメイドで作ってもらうことにした。いつまでもジャージを着てビジネスシューズで過ごすわけにはいかない。サービスしてもらったが金貨5枚が消えた。

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