第7話 冒険者ギルドにて

キラークロコダイルのコートは高かったがすごく気に入った。これを着て急いで、フィデルさんに紹介してもらった服屋へ向かう。早くジャージ姿を卒業したいのだ。

服は目立たない色合いで丈夫そうなものを適当に買った。上下3着ずつ、大銀貨8枚也。服高いな。これでもフィデルさん紹介パワーを使ったんだが。


次は情報収集だ。ギルドへ行こうと思う。ギルドと言ってもいろんなギルドがあるらしい。安全に働くなら商業ギルドかと考えたが、冒険者ギルドにまず向かうことにした。冒険者ギルドは訓練所のような場所があると聞いている。自衛手段が欲しいのだ。どうもこの世界の住人はやたら戦闘力が高い気がするのだ。商会長という立場の有るフィデルさんでさえ、戦闘の心得がありそうな気配があった。フォレストウルフ5匹に襲撃を受けた際、フィデルさんは馬車の中だったわけだが、クロスボウのようなものを手にしていた。おそらく馬車にフォレストウルフが近づいたら、あれで迎撃するつもりだったのだろう。それに対して自分は丸腰だ。これはまずい気がする。


というわけで到着いたしました。冒険者ギルドでございます。

今の自分はジャージ姿を卒業しているので、不審な目で見られることはない。キラークロコダイルのコートを着ているとなんか強そうに見える気がする。丸腰だけどね。フードを目深に被り、ベテランの旅人のような雰囲気を醸し出すように頑張ってみる。これなら先輩冒険者の人たちに絡まれることはないはずだ。いざ、参る!


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side受付のベテランギルド職員(男)


「はい、こちらが依頼書になります。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

ふう、午前の依頼受注の波がようやく去ったな。ちょっと茶でも飲んで休憩するかな。おっと来客だ。ん?なんかフード被った変な奴がきたな。不審者か?あ、他の冒険者に声かけられて囲まれた。揉め事か?勘弁してくれよ。お、争い事にはならなかったようだな。良かった。こっちに向かってきたな、この街では見ない顔だが。

「いらっしゃいませ。冒険者ギルドです。ご用件を伺います。」

「ここに訓練所があると聞いたのだが、冒険者でなくても利用できるだろうか?」

「可能ですよ。戦闘訓練指導の講習を受ける際に銀貨5枚が必要になりますが、弓の射撃場や普通の訓練目的でしたら無料となっております。ご自由にご利用くださいませ。」

「ちなみに当ギルドに登録いただければ、初心者用の講習が無料で受けることが可能です。」

「初心者用の講習の内容は?」

「基本的な戦闘訓練と最初に受注することの多くなる依頼のために必要な知識・技術の指導ですね。冒険者としての心構えを学ぶための座学も含みます。」

「ふむ・・・」

その後もこの不審者からの質問は続いた。そもそも冒険者ギルドに登録するメリットとはなんぞや?といった感じの質問内容が多かった。こいつは一体何をしにここにきたんだ。しかし、俺はベテランギルド職員。忍耐強く質問に答え続けた。ギルド登録員ではない場合、依頼の受注はできないこと。魔物解体依頼・素材買取の手数料が高くなること。資料室の閲覧に銅貨2枚かかることなど・・・etc

その間に隣の受付窓口では3組くらいお客様をさばいていた。くっ!俺はベテランギルド職員!

「では、今日の午後1時より戦闘訓練1コース(3時間)ご希望でございますね。銀貨5枚になります。」

「はい、銀貨5枚です。長い時間お付き合い頂き、ありがとうございました。」

そしてその不審者は酒場の方に去っていった。

あんなに尋ねておいてギルド登録しないのかよ!


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酒場で昼飯を食いながら、ギルド登録の詳細が記載されてた冊子を読む。

昼飯はサンドイッチとジュースだ。ベーコンがうまい。普通の豚肉ではない気がする。パンもオセット村で食べたものより柔らかくてうまい。ジュースはりんごとオレンジを混ぜたような味がする。メニューには『ジュース』としか書かれていなかったから何の果物か分からん。美味ければなんでもいいか。

周りを見てみるとお昼時とあって人が多い。冒険者っぽい人は半数くらいか。よく考えたら一般市民もここ利用するんだよな。依頼を発注する人のための受付もあったし。緊張する必要は全く無かったな。

しかし、ギルドに入った途端に冒険者に声を掛けられた時は肝が冷えた。先輩冒険者からの手厚い洗礼を受けることになってしまうのかと思った。誰かと思えば『赤の羽根』パーティの人たちだった。安堵した。ジュードさんはぐったりしていた。あれは昨日相当飲んだな。当たり障りのない挨拶をしておいた。

眼鏡のおっさんの受付しか空いていなかったので、仕方なくそこに向かったわけだが、途中で隣の受付のやり取りが聞こえてしまった。隣の人はギルド登録をしていたようなのだが、何やら板のようなものに手を当てるように指示されている。ステータスを読み取り、ギルド証を発行するための魔道具だそうだ。それを聞いてハッとした。ステータスを読みとられると、『称号:次元の狭間を超えし者』が見られてしまうのではないか?なんとなくマズイような気がしたので、ギルド登録は今回は見送ることにしたのだ。ギルド証は身分証明にもなるものなので、欲しいのだが・・・うん、困った時はフィデルさんだ。今度会ったときに相談してみよう。

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