第4話 この世界の強者

フィデルさんと雑談しながらしばらく進んでいると、馬車が止まった。


「前方左右よりフォレストウルフです!」

!?これまで平和だったので気が緩んでいた。背筋が凍る。

「数は左3、右2!」

そっと馬車から覗いてみる。リンドさんとローガンさんが馬車を守るように位置取り、剣を構えている。その後ろでジュードさんが弓を、サンディさんは杖を構えている。突然、フォレストウルフの足元に氷が発生し、2匹が転倒する。1匹は回避して氷を迂回しながら走ってくるが、ジュードさんが放った矢を受けて倒れる。転倒した2匹はリンドさんとローガンさんが首を刎ねていた。

おお、すごい見事な連携!これがCランクパーティの実力か!それにさっきの氷は魔法か!魔法があるのか!自分も使えるようになるのかな、などと興奮するが、フォレストウルフがあと2匹いることを思い出す。反対側を見てみると、そこには・・・・・


2匹の首の無いフォレストウルフと剣についた血を格好良く振り払うチャールズさんがいた。


あれっ、この人御者だよね。今の一瞬で2匹殺したの?一人で?なんで冒険者組もいい笑顔でチャールズさんとハイタッチしてんの?いや、こっちは助かったけどさ。

「あの・・・フィデルさん。チャールズさんって何者なんですか?」

「ん?チャールズはうちの御者ですよ?」

何を今更?みたいな顔で答えるフィデルさん。

この国では御者の人たちはみんな強者なのだろうか?確かに御者という職業はあちこち移動するわけだから危機に遭遇する機会は多いのかもしれないが・・・

フォレストウルフは毛皮が売れるらしく、冒険者組は解体している。残った死体は穴を掘って埋めていた。死体は放っておいてもスライムがやってきて処理してくれるらしいが、血の匂いが広がるのを防ぐために今回は埋めたようだ。チャールズさんはすでに自分が討伐した2匹の処理を終えて、馬の世話をしている。いつの間に解体したんだよ!本当に仕事が早いな!チャールズさん!


馬車を進めてお昼を過ぎたあたりで休憩をとることになった。馬車に乗せてもらっているお礼にと、カツ丼をみんなにご馳走することにした。みんな不思議そうに眺めていたが、故郷の料理なのだと説明して早速食べて頂く。

「これはっ!食べたことのない味ですが、おいしいですね!お肉のまわりがサクサクでおもしろい。下にあるのはライスですか?これはまた珍しいものですね!」

「うめぇ!」

「おお、これはイケる!うまい!」

「おいしいです~お肉も柔らかいし、卵が甘い~」

「エールが飲みたくなるな。」

「また酒か!まだ真っ昼間だぞ!」

お口にあったようで何より。フィデルさんによると米が存在しているらしい。海向こうの国で栽培されているらしく、港町で一度食べたことがあるそうだ。醤油などの調味料もあればぜひ手に入れたい。その港町とやらにはいつか自分も行ってみたい。隣でフィデルさんが、『飲食事業も検討してみるか、いや米は輸送コストが・・・』と何やらブツブツ呟いているが気にしないことにする。


休憩していると馬に乗った人たちが通り過ぎていった。

「今のは警備隊の人たちですよ。この地域の治安が良いのは彼らのお陰ですね。他の地域は盗賊がいたりするんですよ。それでも魔物被害は切りがありませんけどね。」

「盗賊に魔物ですか・・・。」

馬車の中で地図を見せてもらったりもしたのだが、人類の生存圏がすごく狭い気がする。情報のない未開の地が結構多いのだ。それだけ魔物は脅威度が高いということなのだろう。オセット村では獣人やドワーフなど複数の人種が同じ集落で暮らしていた。種族が違えば、生態や生活習慣、価値観などが異なるはずだ。その違いから差別や争いの火種になりそうなものだが、同じ集落で共存しているのだ。人類共通の魔物という脅威が人族を団結させているとも言えるかもしれないな。


休憩が終わり移動を再開する。


馬車の中で俺はずっと気になっていたことをフィデルさんに尋ねてみた。


「フィデルさん。どうして私を助けてくれたんですか?」


これはどうしても確認しておきたい。命の軽そうなこの世界で他者を助けるのは、裕福な人でもなかなかできることではないと思う。俺のバッグがマジックバッグだと気付いていたようだし、バッグだけ拾って立ち去る方が利益は大きかっただろうに。ただの善人でも街まで送り届けるなんてことはしないんじゃないか?

助けてもらっておいて何だが、この質問の返答次第で今後の付き合い方を考える必要がある。


「勘ですね。」

「勘?」

「商売人の勘で、ルノさんを助けるべきだと判断しました。」

「それは私に利用価値があると思ったということですか?」


確かにこの世界にはないデザインのバッグにスーツを着てる俺を見たら、商売人ならそう判断することもあるのか?


「納得頂けませんか?では補足説明も兼ねて、私の手の内も少し明かしましょう。私の『商売人の勘』というスキルが、ルノさんを助けるべきと告げていた気がしたのです。」

「そんなスキルがあるんですか。」

「滅多に仕事しないスキルなので、あんまり当てにはならないんですがね。でも今回は珍しく、何としてでも助けなければ、という強い衝動に駆られましたね。ああ、でも見返りを請求するつもりはありませんよ。街に着いたら好きなように行動して頂いて問題ありません。」

「分かりました。助けて頂いた恩はいつか何かの形でお返し致します。私に何ができるのか分かりませんが。」


夕方前には防壁が見えてきた。結構立派な街のようだ。


馬車から降りると御者のチャールズさんが話しかけてきた。


「ルノさん、先程の馬車の中での会話のことなのですが。」

「はい、どうしました?」

「くれぐれも商会長のスキルの件は他言しないようにお願い致します。商売人は皆、ステータスを秘匿するものなのです。冒険者などはメンバーとの連携の都合上、スキルを開示し合ったりしますが、商売人は身内にすら秘匿するのも珍しくないのです。それがどんなに大したスキルでなくてもです。」

「そうだったのですか・・・。俺を納得させるために信頼してくれたのかな・・・。」

「私はこの商会に20年勤めていますが、初めて聞きましたよ。商会長のスキルなんて。いくつかこんなスキルを持ってるんだろうなという心当たりがあるくらいなのです。」


俺を助けたのは何か思惑があるんじゃないかと疑っていた自分が恥ずかしくなってきた。

機会があれば、フィデルさんにはもっと俺の事を話そう。俺の事情を知ってくれる信頼できる人物の存在は貴重だ。心置きなく話せる相手がいないと、俺はこの世界で一人になってしまうかもしれない。

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