第3話 情報収集

目が覚めると障壁はなかった。意識していなければ障壁は出せないということかな。今あるスキルの中で一番有能そうなスキルだから、頑張って使いこなせるようにならなければ。どんな危険があるかも分からない世界だ。身を守るスキルはきっと役に立つはず。


外に出て宿の裏の井戸で顔を洗い、タオルで顔を拭く。その時、御者のチャールズさんから声がかかる。

「ルノさん、おはようございます。」

「チャールズさん、おはようございます。昨日は有難うございました。」

「いえ、困った時はお互い様ですよ。もうすぐ朝食の準備ができるようなので、一緒に向かいましょう。」

朝食はソーセージに目玉焼き、チーズ、パン、野菜スープだった。このオセット村は酪農が主産業の村らしい。ソーセージもチーズも絶品だった。パンはイマイチだったが、ここでチョコクロワッサンを出すわけにはいかないので、我慢して食べた。ちなみにジャージ姿だったのだが、特に何も言われなかった。フィデルさんはとても興味深そうに見ていたが。


朝食後、各々の荷物を持って外へ出る。宿の前にはすでにチャールズさんが馬車を準備していた。いつの間に馬車を移動したのだろうか。チャールズさんは仕事の早い男のようだ。しかし、これが馬車なのか。荷馬車?幌馬車?って言うやつだったかな?まあ、なんでもいいや。


「こちらは護衛の冒険者の方々ですよ。」

「Cランクパーティ『赤い羽根』のリンドだ。」

「ローガンだ」

「ジュードだよ。よろしく」

「サンディです。」

「ルノと申します。こちらこそよろしくお願いします。」


おお!やっぱりいるのか、冒険者!格好いいな。俺でも冒険者になれるのかな。


俺とフィデルさんが乗り込み、馬車が出発する。

もう少しこの村を見て回りたかったが、フィデルさんたちに迷惑をかけるわけにはいかないので、名残惜しいが我慢する。夕方までにはレイクスの街に到着するらしい。


しかし、この馬車というのは遅いな。自分で走ったほうが速いんじゃないか。


到着までフィデルさんから情報収集しようかな。


「助けて頂いた上に街まで案内してくださって、本当に有難うございます。」

「いえいえ、お構いなく。一人増えたところで大して変わりませんから。こうして話し相手もできたわけですし、私も退屈しなくて済みますよ。一晩経ってみて記憶の方はどうです?」

「やっぱり私がいた場所とここは大きく異なるようです。私はニホンという国にいたのですが、この国はなんという国なんでしょうか?」

「ニホンですか・・・聞いたことのない国ですね。ここはエルマール王国です。」

「エルマール王国・・・知らない国ですね。よろしければこの周辺地域のことなども教えていただけませんか?」

「そうですね、今向かっているのが私が店を構えているレイクスという街です。このあたり一帯はオクスリビア子爵様が統治している地域で・・・」

と、周辺地域の話や通貨や暦・宗教などの話をしてくれた。質問しながら俺は必死でメモをとった。


話が一区切りついたところで、フィデルさんからも質問があった。

「ところでルノさんの使っていらっしゃるのは魔道具のペンですか?」

「いえ、普通のペンですよ。私の国では一般的なものです。」

「インクはどうなっているのでしょうか?」

「ペンの中にインクが入っているんです。インクの補充はできないので使い捨てですが、よろしければ差し上げますよ。」

「おお、よろしいのですか!?ぜひ使ってみたいです。」

紙とボールペンを渡して使い方を説明すると早速文字を書いていた。紙とペンをまじまじと観察している。

「もし気に入って頂けたのであれば、ペンの方はある程度の数は準備できますよ。紙の方は数がないので難しいですが。」

「ペンだけでもぜひ買い取りたいですね!ある程度の数とは具体的にどれくらいでしょうか?昨日拝見しましたが、そのバッグはマジックバッグですよね?」

「はい。そちらの希望数は問題なく準備できると思いますよ。正直に申し上げますとこの国の通貨を持っていないので、この先の生活が不安なのですよ。金額はフィデルさんの希望価格で結構ですので、即金でお願いします。」

「1本当たり銀貨2枚でいかがでしょうか?とりあえず100本用意することは可能ですか?」

「おお、100本も買って頂けるのですか!もちろん準備できます。」

「ではこちらの木箱の中にペンを入れて頂けますか?」

金銭価値がまだはっきり分かっていないが、金が手に入るならいくらでもいい。

本来ならもっと時間をかけて商品の詳細を説明して、交渉すべきなのだろうが、今は馬車の外に冒険者の方々もいる。話を聞かれているかもしれない。金銭の交渉を長く続けるのは好ましくないと判断した。フィデルさんもおそらくそのつもりで価格交渉をしなかったのだろう。

ボールペンを1本ずつ数えながら箱に入れていく。一本ずつしか出せないのが面倒だな。


「はい、確かに100本受け取りました。こちらが料金になります。手持ちがないとのことでしたので、使いやすいように金貨1枚、大銀貨9枚、銀貨10枚としておきました。」

「お気遣いありがとうございます。いやはや、馬車に乗せて頂いた上に、取引にまで応じて頂いて本当に助かりました。」

「こちらこそ!良い取引ができました!」


良かった。現金収入を得られた。これで街に着いてからしばらくは何とかなるだろう。

現金を得るために何を売るか悩んだのだが、手持ちの無限に取り出せる物品の中からボールペンを売るのが最適と判断した。最初は精密な部品などが使われているものは避け、ポケットティッシュを売ろうかと思ったのだが、相手は何に使うものか分からないかもしれない。

ボールペンは話を聞きながらメモをとり、実際に目の前で使ってみせることで、相手が食いついてくれないかと思ったのだ。上手くいけば自然な流れで交渉に入ることもできると考えたわけだが、思惑通りに事が運んで良かった。


それにしても、フィデルさんに救助されたのは幸運だったな。悪党に見つけられてたら一体どうなっていたことやら。フィデルさんから得た情報によれば、このあたりは治安の良い地域らしいが、全く危険がないわけではないとのことだ。たまに街道までフォレストウルフなどの魔物が出てくることがあるらしい。だからフィデルさんは護衛の冒険者を雇っているのだ。


フィデルさんから得た情報も整理する。

通貨は鉄貨・銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨・白金貨で、鉄貨10枚が銅貨1枚分という感じで、価値が上がっていく。一般的な宿屋は1泊銀貨5~大銀貨1枚くらいらしい。ちなみに昨日泊まった宿屋は朝と夜食事付きで1泊銀貨7枚だった。素泊まりで1泊銀貨5枚。ボールペン3本分でおよそ宿屋1泊分か。フィデルさんはかなり良い値段でボールペンを買い取ってくれていたらしい。一体いくらで販売するつもりなのか気になるが、詮索はやめておこう。

暦や時間は不思議なことに地球と変わらないようだった。時計も見せてくれた。魔道具らしい。

宗教はこの国では創造神ガイアースを主神とし、豊穣の神様や学問の神様などもあり、その都度祈る神様が異なっているようだった。ここまで幸運続きなのも神様のおかげかもしれない。街には教会があるらしいので、一度は立ち寄って今後の幸運もお祈りしておこう。今後の予定に追加だ。

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