第14話 東京へ

水曜日の朝、司は大きなスーツケースを持って、駅の新幹線用の改札口の前に来て辺りを見回した。

県内で一番大きくて、新幹線が止まる駅、そして大型連休後半とだけあって、人は多い。

司はしばらくして、壁に背中をつけて待っている希を見つけた。

「希!おはよう。待たせちゃったかな?」

待ち合わせ時間の10分前に来た司は、いつも早めに来る希の性格を考えて、少し申し訳なさそうにそう言って希の方へ駆け寄った。

「ううん、私もちょっと前に着いたの。それに、まだ時間の10分前だもん、気にする必要ないから大丈夫。」

そう言って笑いながら、司の手を握った希の手は冷たかった。

司は「ごめん」とは言わずに、笑ってありがとうと言った。


二人は駅弁を買ってから、余裕をもってホームに行き、新幹線が到着するのを待った。

「ねぇ、ご両親にはちゃんと伝えた?」

希が心配そうに司の方を見てそう聞いた。

司は予想通りの質問と希の表情に、少し笑って返す。

「父さんに伝えたから大丈夫。」

実際のところ、司は面と向かって父親に東京へ行くことを伝えたわけではなかった。

朝、家を出るときにまだ起きていなかった両親に置き手紙を残しておいたのだ。

もし、希と東京へ行くことを伝えていたら、きっと反対されて司は家から出られなかっただろう。

希と司は関わるべきではないとあの両親は思っているから。

この数日、司はただ初めての東京観光に胸を躍らせていたわけではなかった。

秘密と向き合う覚悟を決めていたのだ。

それが例え、希との関係を壊しかねないものだったとしても。

希がいなくならないで済むように、立ち向かうためには知らないままではいられないということにちゃんと気づいていたのだ。

「、、、希。」

司は新幹線の到着を待つ希の横顔を見つめて呼びかけた。

その瞬間、新幹線の到着が近いことを知らせる音が響く。

司の声はその音にかき消された。

希はワクワクした表情で司の方を見た。

「もうすぐだって!」

司は希の無邪気な表情を見て、言おうとしていた言葉を飲み込んだ。

今はまだその時じゃないと。

代わりに司は希に笑顔を返してみせた。

「楽しみだね。」

新幹線の音で消される前に司がそう言った。



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