第15話 二人の願い

東京に着くまでの間、二人は話をしていた。

東京はどんな町なのか。

写真でしか見たことのないごった返す人混みに、高層ビルが立ち並ぶ狭い空。

東京はテレビで見たままの姿なのか。

司が質問し、希が答える形で会話が進んだ。

司が希が育ったのはどんなところなのか教えてほしいと言ったときだけ、希は言葉に詰まって少し考えていた。

「ビルもあることにはあったし、もちろん今住んでいる町よりは都会っぽかったけれど、それでも東京っぽくないところかな?」

新幹線の席に付いたボードの下で、希は手を遊ばせている。

「私はずっとあの街に住んでいるから、東京ってテレビの中のやつしか見たことなくて、ちょっとした憧れ?みたいなのがあって。」

司は希との間の空気が少しずつ濁り始めているのを感じて、話を変えた。

秘密を知る勇気を持つと決めたのに、いざ秘密の先っぽに触れると怖じ気づいてしまう。

「私は好きだよ、司の街。あそこは息がしやすくて、私もあの街の一部になりたいなって思ってる。」

希は微笑みながらそう言った。

司はその時、希の笑顔の中に諦めや覚悟にも似た何かがあるのを感じた。

なんとなく、希はこの先司の腕をすり抜けていなくなってしまうのだろうと直感した。

「ずっと、あの街で一緒にいよう。」

司は希の目をまっすぐ見つめた。

司の居場所は希の隣で、希の居場所は司の隣。

そこでしかきっとちゃんと生きられない。

そんな感覚を共有していることを二人の少女はなんとなく聞かずともわかっているようだった。

希は目をそらさずにまっすぐ司の目を見つめ返した。

そして願うような、羨むような光をその目に宿し、司の願いに応える。

「そうだね、ずっと一緒。」


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