第13話 連れていきたい場所
病院から帰った司が、カバンの底に埋まっていたスマートフォンを取り出すと、LINEの通知が数件届いていた。
司は自分の部屋に入って鍵を閉めてから、メッセージを確認しようと画面に映る通知のお知らせをタップした。
通知のうち1件がクラスのグループLINEのもので、それ以外はすべて希からのメッセージに関するものだった。
『ゴールデンウィーク、もう終わっちゃうじゃない?』
『そういえば、さっちゃんとお出かけしてないなと思って』
『予定が2日連続で空いてるがあったら教えてほしいな。』
『一緒に東京観光、しない?』
メッセージは今から1時間半ほど前に送信されていた。
東京観光という言葉に司はそそられた。
遠いと言えば遠いというくらいの距離にある東京。
テレビやスマートフォンの画面でしか見たことのない、高いビルだらけの街。
小さいころからの憧れの有名なテーマパーク。
今までにもらったお年玉をすべてはたけば行けるだろうか。
新幹線代だけでもかなりの額になる。
司の頭の中で、大きな範囲を占めていたはずの自分の出生に関する秘密と希の秘密が通知を開いた瞬間、別の悩みに場所を乗っ取られてしまった。
『行きたい!』
『期間中はいつでも暇だよ。』
お金の問題はさておき、いつもなら母親の説得が難しいからと諦めていたが、本当の母親ではないと打ち明けたあの人からは前のような恐怖は感じられなかった。
今なら何を言っても、何をしても、怒鳴られたり叩かれたりすることはないだろう。
あの人は司が近くにいると、怯えたような顔をして遠くへ行ってしまう。
司は両親に確認もせずに返信した。
返信してから3分もたたないうちに司のメッセージに既読が付き、希からのメッセージが返ってきた。
『じゃあ、来週の水曜から木曜は大丈夫かな?』
もちろん答えはイエスだったが、司は一瞬終わっていないゴールデンウィーク課題のことが頭をよぎった。
水曜までに終わらせよう。
そう決意してまた返信する。
『大丈夫だよ~』
すると希からすぐにメッセージが返ってくる。
『やった!じゃあ、集合場所とかはあとで決めよう!』
『あと、新幹線代とか宿泊費は気にしなくていいよ。父がさっちゃんのために用意してくれるって。』
お金の心配もなくなった。
今度、美味しいお菓子の入った紙袋を渡して、お礼をしなければ。
そう思いながら司はぺこりとお辞儀をするキャラクターのスタンプを送った。
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