第9話 壁と寂しさと
「ねぇ、希。私に隠していること、ある?」
希と母との間に何か秘密があることに気づいた日の昼休み、いつものように特別教室で弁当を食べながら、司は希にそう聞いた。
秘密を知ってしまうことで、なにかが壊れてしまうことが怖くて逃げ出したものの、気になって仕方がなかったのだ。
「、、、私たちの間じゃ、まだ隠し事って言うよりかは教えてないことって言った方が適切なんじゃないかな?」
希は少し黙ってから、そんなふうに言ってはぐらかした。
司はそんな希の態度に、今まで希との間に感じなかった壁が実はあったことにに気づかされたような気がした。
「、、、そうだよね。じゃあ、質問!希のお父さんってどんな人?」
私はどこまで踏み込んで良い人間なのか、確かめるように司は希に質問をした。
「お父さんは、愛情深い人。自分の家族を守るためになんでもする人なの。科学者で研究熱心で、大学の教授をしてる。」
父親のことをどこか他人行儀に語りながら、希の目は遠くを見つめるようだった。
しばらくすると、希はいつものキラキラした目で司を見て、質問を返した。
「司の家族はどんな人たちなの?」
その質問にどう答えて良いか、司は迷った。
司の母のことを話して、司が今まで感じた苦痛を少しでもにじませてしまったら、希は自分を重いと思うかもしれない。
「私には父と母と兄がいて、父は単身赴任でほとんど家にいなくて、母は看護師をやっている人なの。兄とは仲が良くて、でも最近は大学の勉強とバイトで忙しいみたいであんまり顔を合わせることができてないの。」
希は少し寂しそうな顔をして、司の話を
聞いていた。
まだ私には話せないのねとでも言うような
表情に、司は胸がチクリと痛んだ。
話さないのはそっちじゃないの?なんて言えるわけもなく、また壁に触れてしまった気がしていた。
希はそんな司を見て、少しずつどこかためらうように言葉を紡ぐ。
「私には姉がいてね、一人は病気でずっと病院にいるんだけど、もう一人には会ったことがなかったの。お父さんが言うには、私たちよりも私たちのお母さんによく似た子だって。一度は会ってみたいって思ってた。」
希は優しく包み込むように笑って、司の目を見た。そんな顔を見ると、司の心のトゲはどこかに流れていってしまう。
「じゃあ、もう会えたんだね。」
何で会えなかったのかなんて、聞かなくても触れてはいけない事情しか思い浮かばなかったから、司は聞こうとはしなかった。
代わりによかったじゃんと笑って見せると、希は幸せそのものというような顔をした。
「そうだね。会えたんだよ、ようやく。」
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