第8話 秘密

夢から覚めた時、司はどうしてもあの公園へ行かなければならないような気がしていた。

どこから来たかもわからない使命感。

司はベッドから飛び起きると、部屋のすみのポールハンガーにかけてあるジャケットを羽織り、足音のことも気にせずに走り出した。

早く、早く、公園に行かなくちゃ。

ざわざわとする胸。

かじかむ手足。もどかしいまま走った。

公園に着くと、いつものベンチに腰かける誰かの背中とその先にもう一人。

司はなんだか嫌な予感がして、音を立てないように少しずつベンチの方へ近づいた。

「何が目的であの子に近づいたの?あの子は悪くない、悪いのは私とあなたのお父さん。あの子を苦しめないで。」

悲鳴にも似た、必死に訴える声。

その声に司は聞き覚えがあった。母の声だ。

「さっちゃんを一番苦しめているのはあなたです。ご自身の言動を振り返ってみて。私はさっちゃんの心を救ってあげたいだけ。」

今度は希の声。

冷たくて、落ち着いた声色。

司の頭は混乱した、どうして二人が?

司は自分の耳が信じられなくて、声の主の顔が見える距離まで近づいた。

けれど、司の目に映ったのは、ベンチに座っている母と、その母を睨むように見つめる希の姿だった。

「あなたたちが共存することはありえない。あなたがいなくなった後で苦しむのはあの子なの。」

目的?共存?いなくなる?司が一気に受け止めるには重すぎる言葉たち。

希と母が共有する秘密。これ以上知ってしまうのが怖くて、司は逃げたした。


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