第10話 家族

司が家に帰ると、珍しく母親と父親がリビングにそろっていた。

「ただいま。」

いつも通り、司が手洗いうがいをした後すぐに部屋に入ろうとすると、父親が彼女を呼び止めた。

「司、ちょっと話をしないか。」

断る理由もなかったので、司はわかったと言って両親の目の前にある椅子に座った。

しかし、母親は黙ったまま下を向き、父親はそんな母を見て、何かを訴えかけるような目をして何も言わない。

「珍しいね、父さんがこの時間に家にいるなんて。」

話さないかと言った両親が黙ったままでいるので、司はどうでもいいことを言って沈黙をとりあえず終わりにしようとした。

それでも両親はそれに応じることはなく、気まずい空気が流れる。

司はうまく会話をすることを諦めた。

暫くして、母親が重たい口を開いた。

「今までごめんなさい。あなたに和馬と同じだけの愛情をあげられなくて、寂しい思いをさせたでしょう?」

ゆっくりとでも今にも悲鳴に変わりそうな声で、母はそう言った。

今更、何を言い出すのだろうこの人は。と思いながらそれでも思いをそのまま口にすることは躊躇われて、司は口をつぐんだ。

母親は一呼吸おいて司のほうに目線を向けると、話を続けた。

「本当にあなたは志乃にそっくり。あなたも明日にはもう17歳になるでしょう?言い訳じゃないけれど、あなたの家族について話しておくべきなんじゃないかって思って。」

知らない人にそっくりと言われ、困惑するべきはずなのに司はなぜかほっとしていた。

もしこの人たちが私の本当の家族じゃなくて、もっと優しくて私を愛してくれる家族が他に居たら。

なんて考えた夜が何度あったか、司は覚えていない。

「母さんも、父さんも、兄さんも本当は私の家族じゃないって言いたいの?」

司は何かが吹っ切れた気がした。

「私を産まなきゃよかったなんて言った母さんは、私の本当の母親じゃないんだね?」

その言葉を言った瞬間、司は少し救われたような気がすると同時に、胸が痛んだ。

母の顔は今にも泣きだしそうで、父の顔は申し訳ないというような感じだ。

「そう、私はあなたの母親じゃない。でも、あなたを娘だと思ってしまいそうになることが怖かった。」

いよいよ泣き出した母親の肩を父がそっと支える。

母親は過呼吸になりそうになりながら、必死にその次の言葉を伝えようとした。

「…だってあなたはいつか、いなくなってしまう子だから。」

その時司の頭の中に浮かんだのは、希と母親の会話だった。

いなくなるのは私?

それとも希?

どうして、何のために。

「いなくなるのは私か、希か。そうなの?」

司が呟くと、父が驚いたような顔をした。

「どうしてそれを?」

司は父の質問に答える気がなかった。

代わりに黙って部屋のほうへ歩いていく。

「もう聞きたくない、けど他人の子をわざわざ育ててくれてありがとう。」

司は部屋のドアを音を立てて閉めると、部屋の中で壁にもたれかかり、うずくまった。

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