第9話 食事
ギルドに入った時にはに昼過ぎぐらいだったけど、外を出た時にはもう夜になりそうな夕方と言ってもいいぐらいの空だった。
「今日は雲もなくて月が二つとも綺麗に見えそうですね」
「えぇ、明かりがなくてもよさそうです」
「とりあえず飯食いてぇ、ギルドだと飲むだけだったし」
キールさんがそういうとお肉が美味しいらしいお店へと向かう。迷子にならないようにとセシリアさんに手を繋がれたが思ったより恥ずかしい。
話を聞いててふと思う、月はこっちでも『月』なんだ。そういえばカードも『カード』と発音するし剣を『たて』と発音したりはしない。もしかして
「シェリーちゃん着きましたよ」
「いらっしゃい」
考え込んでいると着いたようで顔を上げると居酒屋のような建物が見える。看板には…『気付け薬の豪雨亭』
……凄い名前だ。肉より酒の方をおすすめされてそうな名前だけど。入ってみるとムキムキの亭主っぽい上半身裸でエプロンだけ付けた人とウェイトレスさんが出迎えてくれた。適当な席に座るとメニューは壁にかかっているとと言われて壁を見ると木の札がかけられている居酒屋っぽい。だけどもどんな料理なのかさっぱり分からない。
『フリットバード』…バードは鳥かな、フリット…ってなんだろう? 何の言葉だろう。とりあえずサンドイッチがビュッフェサンドとかだと考えると鶏肉料理なのかな? あ、『ベーコン』はそのままベーコンなんだ。
個人的に気になるのは『ビックスカァム』、大きく書いてある様子からおすすめのようだけど…なんだスカァムって…大きいスカァム…一体何なんだ…。
「シェリーちゃんはあれが食べたいんですか?」
「あ…いえ、おすすめらしいですけどどんな料理かなって…」
「ふむ、料理とかの記憶もないみたいですね。結構どこにでもある料理なのですが」
「どんな料理かって言われたら…でけぇ肉だな」
でかい肉…? なんだろう、凄い気になる…。本来は皆で食べるような料理らしいしセシリアさんおすすめの物と一緒に注文してくれた。そういえばキールさんが頼んだのは果実酒のようだ。キールさん13歳なのに大丈夫なのだろうか…?
そういえば中世ヨーロッパだと水が希少だから果実酒とか飲んでたとか聞いたような…あれ、でも魔法で水とか出せるし綺麗な水も出せるはずで…まぁいいか。飲酒に年齢制限がないのかもしれないし。
注文するとムキムキ亭主さんはポーズを取った後に料理を作り始めた、いやキャラ濃いな。料理の設備自体はかなり整っているらしく何か猫耳生えたウェイトレスがくるくると何かを回している。コンロのような物も見えるし水道のような物も見える。やっぱりこう…現代と中世のごちゃ混ぜのような感じで不思議。
これはのちに調べて分かったことなのだがこの世界は数百年ほど前に食糧難や衛生環境の問題により人口が激減したらしくそれの改善に全力を注ぎ、結果食事や衛生とかが現代、つまり前世と同じぐらいになったらしい。
「お待たせしましたー!」
辺りをキョロキョロと見渡していると料理が完成したらしく店員さんが料理名を言いながらテーブルに料理を置いてくれた。『フリットバード』は大きな唐揚げ…というよりフライドチキンかな、油もこんなに綺麗に揚げれるぐらいには使えるのか。とても美味しそう、一緒に置かれたサラダの野菜も瑞々しいしスープも色が濃い。圧倒的に肉料理が多いけど。
「そしてこちらが『ビックスカァム』です」
ドンッとテーブルの上に大きな皿が置かれる。それを見た瞬間ボクは大きく目を見開いた。それは大きな骨が両端についており真ん中にはいびつではあるが楕円形の丸焼きとなった肉。前世ではまずお目にかかれない…所謂、『マンガ肉』だった。
もしかしたらこの時の僕は目をキラキラさせていたかもしれない、おぉーと眺めているとセシリアさんがニコニコと笑っている。ちょっとはしゃぎ過ぎたかな…。
と、そこでフードをずっと被っていたことに気が付く。そういえばまだ日が出てたから一応被ったままだった。少しテーブルから頭を離しフードを脱いで髪の毛を振りほどくように頭を振る。
「…おぉ」
「すげ…」
すると別の席から声がこちらの方に向かって聞こえてきた。そちらの方を振り向くと慌てて数人が目を逸らす。
「ふふっ、シェリーちゃんはとても可愛いですからね。つい見ちゃったのでしょう」
首を捻っているとセシリアさんがニコニコしながらそう言う、ボクの顔は鏡を見たから美少女って言うのは分かっているけどそういうセシリアさんもキールさんもギンリュウさんもかなり顔はいい、というか会う人会う人全員美形な気がする。
カーマさんもムキムキで体育会系って感じだったしヘイロンさんはダンディなおじさんって感じだったしアリスさんはもう美人って感じだった。その人達と比べたとしてもボクは普通かなって思うんだけど…?
「別に普通じゃねぇか? というかさっさと食おうぜ」
キールさんもそう思っているようだった、料理も冷めてしまうし早く食べなくてはと
思ったが…これって『いただきます』ってやっていいのか?
国が違えば文化も違う、これでボクが『いただきます』ってやったらおかしいのではないだろうか…。そうだ、みんなの真似をすればいいんだ。もしかしたらそういうのがない文化かもしれない。
「主よ、今日の恵みに感謝を…」
「今日の糧に感謝を…」
「いただきます」
上から両手を胸の前で組み神に祈るように言うセシリアさん。
その組んだ手を額に当てるキールさん。
手のひらを合わせて一番見覚えのあるギンリュウさん。
全員バラバラ…! 三人のどれをすればいいのかとあたふたした結果。ボクは一番最後であり見慣れているギンリュウさんのを真似した。
「い、いただきます…」
「おや、自分のをやりましたか」
「ちぇー、私のをしてほしかったですよシェリーちゃん」
「…んっ、相変わらずうめぇな」
キールさんはもうすでに食べ始めている。ボクも食べたいけどどれから食べようかな。と思っているとギンリュウさんがいつもの閉じた目をこちらに向けながら『ビックスカァム』に指を差す。
「そういえばシェリーさん、この『ビックスカァム』の食べる時の作法を知っていますか?」
「…? いえ、知りませんが」
「この『ビックスカァム』はナイフやフォークを使わず両端を持って食べるのが作法なんですよ」
「そうなんですか?」
「私も初めて聞いた時驚きました」
「嘘かと思ったがマジだったからな」
「何故なのかは自分も知りませんけどね」
ということを言われたので手に取ってみる。凄くいい匂い、こんがりと焼けているが焦げているわけでもなく中まで火が通っているか少し気になるけど。
そこそこな重さのその肉にかぶりつくと思ったよりも柔らかく嚙みちぎれた、でも噛むとしっかりと弾力もあり噛むたびに肉汁が溢れる。
「お、美味しい…っ!」
「それはよかった」
そのまま衝動に任せて色々な料理を食べることにした。その結果この身体は思ったよりもものが食べられると言うことが分かった。
この後は公衆浴場、所謂銭湯に行って宿に戻るらしい。
…そういえば遠慮なしに食べちゃったけどお金はどうすれば
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