第8話 LEVEL:Ⅰとは

「何故…レベルが1…何ですか…?」


…レベルが1? 確かにボクは特に戦ってもいないし鍛えてもいない。カーマさんが言ったことがレベルが上がる条件ならボクがレベル1でもおかしくはないと思うけど…。


「なぁ、レベルが1だと何かおかしいのか? 誰でも最初はレベル1だろ?」


ボクと同じく首を捻っていたキールさんがボクが思っていたことを伝えてくれる。他のみんなは分かっているようだけどボクとキールさんはさっぱりだ、すると分かってなかったのに気付いたのかヘイロンさんはどう説明するか悩みながら答えてくれた。


「そうだな…まず、段位レベルを上げるには経験エクストを一定量貯める必要があるが経験エクストを貯める方法は分かるかい?」

「あーっと…魔物を倒したり筋トレしたりとかか…?」

「そう、まぁそれは小さな子供には厳しいが他にも方法はある。経験エクストとは文字通り経験を積む、その者が知らない『未知』を知ることが経験エクストが貯まる条件なんだ」


未知を知る? 知らない町に行ったり世界のことを勉強したりとかということ?

いまいち噛み砕けず悩んでいるとアリスさんが口を開いた。


「つまり、何も知らない赤ん坊ですと『聞く音』『目にするもの』『動くこと』全てが経験エクストに繋がります。シェリーさんは読み書きも出来、見た目の頃は14ほどですがそれですとレベルは少なくとも3はないとおかしいんです。レベル1という数値は生まれてそう経っていない子供と変わりません...」


なるほど、見た目がどう見ても14歳ぐらいなのに能力が生まれたぐらいのものだったからおかしいって言うことになっているのか…。ボク自身がこの身体になったのもつい数時間前のことだ、もしもボクが目覚めた少し前にこの身体が出来たとしたら…ちょっと怖くなってきた。身震いするとセシリアさんがそっと抱き寄せてくれた。


「シェリー君は確か記憶喪失と言っていたね。もしでいいのだが…この中に見覚えがある物はあるかな?」


震えが収まった頃、ヘイロンさんは茶色い紙のようなものを数枚取り出してテーブルの上に広げる。そこには何か魔方陣のような紋章のようなものが書かれていた。髑髏とか蛇とかナイフとかどうにもおどろおどろしいものが多い、見ていても特に見覚えはない。思い出そうとしても特に何も……っ!?


その中の一つを見た瞬間、記憶にはないはずなのにぞわりと背筋が凍るような不快感が全身を走る。息が多少荒くなり体が震え、セシリアさんが「大丈夫?」と背中を擦ってくれた。息を整えながら震える指先でその紋章を指す。髑髏から舌が伸びその舌先にナイフが刺さった紋章だ。記憶には全く残っていないがこれを見るだけで体が震えだす。


「これ…が…記憶には…ないんですけど…怖い…です」

「…ッ、よりにもよって『スケアリード』か」

「…『スケアリード』」


聞くところによるとどうやら闇ギルドと呼ばれる裏社会の組織の名称であるらしくその中でもトップクラスらしい。詳しいことはまだ分かってないらしいけど人体実験とかその辺にも手を出しているとか。何故この紋章に恐怖するのかは分からないが今後も関わり合いにならないほうがいいだろう。

そしてキールさんがボソッと呟いたがもしかして知っているのだろうか。


「…分かった、辛いことをわざわざ答えていただいてもらってすまない」

「今後、《クエスト》…仕事に関することですが受けた後はレベルの確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「それは何故です?」


するとアリスさんはレベルの確認をすることでレベルが上がる上限が凄い高いかそれとも単純に経験エクストを得てないだけか調べるからだそうだ。その辺は問題ないので了承する。アリスさんとヘイロンさんは特殊な権限を持っているらしく全てのギルドカードの情報を閲覧することが出来るとか。ヘイロンさんは分かるけどアリスさんはなんで持っているんだろうか…。

その後退室となり大変なことになったなと頭を撫でてきたカーマさんと分かれ。どうするか悩んだがセシリアさん達が泊っている宿に行くことにした。


…あ、ギルドカードの登録料払ってなかったけど大丈夫だったんだろうか。





「…アリス君」

「えぇ、分かっています」


冒険者がいなくなった部屋でヘイロンは大きくため息を吐きながらアリスの名を呼ぶ。アリスは書類と紋章を確認しながら額を指で叩く。


「いまイーグントにいるのは『イグニッション』『ステラグレイ』ですが」

「いや、彼らに依頼するのはまだ止めたほうがいいだろう彼女がいたという廃れた教会も調べておいてもらえるか?」

「了解しました。しばらく休暇をいただきます」

「頼んだぞ」


その瞬間アリスの姿は消え、部屋はヘイロン一人となった。ヘイロンは椅子に背を預けると呟く。


「彼女は実験体か…それとも…」


その言葉は虚空に消えた。

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