第2話 遭遇

ボクが魔法を覚えた本を確認してみると本はまるで唐突に数十年の月日が流れたかのように古ぼけていた。手に取り持ち上げようとするとぼろっと崩れ、風に飛ばされていった。一回限定使い切りの特別なアイテムのような物だろうか…。


魔法に関しては色々と融通が利くらしく自由に形を変化させたりすることも出来た。

知識によると魔力とは粘土のような物でこれを呪文という型に当てはめて魔法を放つことが出来る。もちろん呪文を使わなくてもさっきのように大体の形を考えて放つことも出来るようだった、もちろんこっちの方が消費する魔力が多い。

手の上で同じ魔力量で属性ごとに魔力の塊を浮かばせてみる、すると闇の塊が一番大きく、火の塊が一番小さい。伝導率というか同じ魔力でも属性ごとに変換率が大きく変わる様だ。塊もパッと消せる、やろうと思えば魔力の塊を弾丸のように貯めておくことも出来そうだ。


ここでふと思いついて日向に出た後、闇の魔力で日傘のように上に幕を作ってみた。ボクがいるところが影となり手を少し出してみたが焼けることもない。いざという時こういう風にして光から避けていいかもしれない。まぁ、闇魔法って大体魔物とか魔人とか悪役が使ってるイメージだから見られないほうがいいかもしれないけど。

それにしてもここには人どころか生き物すらあまり見えない、鳥や兎のような小動物は時々見かけるがよくある魔物のような危険生物は見ない。魔法はあるがそういう世界ではないのだろうか…? 情報が足りない、そもそも人の気配が分からない。一応気配を探れる魔法みたいなものはあるのだが小動物の気配の見分けがつかない程度の練度なので地図で表すなら気配で地図が見えないレベルである。

多少空腹感は感じるが我慢できないほどではない、そもそも吸血鬼だけど普通の食事で大丈夫なのだろうか。今どきの吸血鬼事情を知りたい、なんで神様転生と言われるものではなかったのだろうか。いや、神様が特に何の変哲もない一個人の前に姿を現すって言うのもだいぶ変な話だけどさ。

そのまま歩いていると川の合流付近だろうか、ため池のようなプールのような場所にたどり着いた。木々でドーム状になっておりボクでも入れそうで水浴びなどには最適だろう。いや、何故かというとあんなところで寝ていたからかどうにも埃っぽいのだ、ある程度は払ったといえどうにも気持ち悪さがある。しかしここでもう一つの問題が発生する。流水であるここにボクが入れるかどうかだ。

吸血鬼には強いからか弱点が多く存在する、有名なのは日光に十字架とにんにくだろうか、後は杭とか流水とかも聞く。つまり吸血鬼であるボクは流れる水に入れないかもしれないのだ。とは言っても結局は試すしかない、ボクはそろりそろり指を川に差し込んだ。


………何ともない、手首まで突っ込んでしばらく待ってみるが問題はなさそうだ。

とりあえずこれからシャワーやお風呂の時に気を使う必要はなさそうと言うことが分かりほっと安堵する。体を乾かすのは魔法でどうとでもなるし早速水浴びでも…。


ボクはローブを脱いでシャツのボタンに手をかけた時にあることに気付く、手に感じる柔らかな膨らみ。そうだよ、ボク今女の子じゃん。

…服を脱いでもいいのだろうか、嫌でも今はボクの身体だし…汚いままだとあれだし…。数分ほど固まってしまっていたが仕方がないことなんだ! とボクは服を脱いだ。




魔力で水をすくいあげて体にかける、桶がなくてもこういうことは出来るのは便利かもしれない。水を生み出す適正がなくても操作は出来るようだ。少し冷たいが震えるほどではないのが嬉しい所、お風呂ではないのが残念ではあるが体の汚れが落ちていく感覚が嬉しい。あと身体を見ても興奮はしなかった、いや自分の身体で興奮したら怖いけど。そういう意識は女の子のままなんだろうか、それにしてもこの身体はまるで作られたかのように綺麗な体である。しかも12歳から14歳ぐらいの年齢なのに意外と胸が大きい、着やせするタイプなのだろうか。そんなことを思いながら腰まである長い髪を洗い終わり、ふぅと息を吐く。


がさっ


そんな時、草を踏むような音が聞こえ。ボクはその音の方向に顔を向ける、動物でも来たのかのかなと思うとそこには少年が立ってい…た…?


「…え?」

「あっ! いやっ! 俺は…!」

「……」


女の子の意識というのだろうか。ボクは自然に左手で胸を隠し右手で魔力を使い水を持ち上げ、顔を熱さを感じながらその塊を少年にめがけてぶん投げた。


「──ッ!」

「わ、わるおぼぁっ!!!」


少年に水の塊をぶつけながらボクって男に裸見られて恥ずかしいって感情があるんだ。と心の中でボソッと思った。

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