転生吸血鬼は居場所を見つけたい

黒巛清流

第1話 起きたら廃墟

がらんとして何もないひび割れた石畳に神が描かれたステンドグラス。

パッと見はどこかの教会のようだが使われた様子はなく廃墟のようなものだとわかる。


「…スゥ…スゥ」


そこには絹糸のような柔らかな白髪を持ち白い肌の美少女が白く大きなシーツを体に巻きながら寝ていた。ステンドグラスやひびの入った天井の隙間から漏れる光の柱が彼女の周りを映し出し、まるで空から降りてきた天使のようにも見える。


「……んん」


白いシャツにハーフパンツをはいたどこか旅人のような服を着た少女は寝返りを打つと日の下へと出る。するとステンドグラスを通した色鮮やかな光が彼女の白い肌に映し出し…


じゅっ…


その身を焦がした。


「いったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


人のいない廃墟と化した教会に甲高い悲鳴が響いた。










日焼けで赤くなった肌を叩かれたような痛みが走り、ボクは目を覚まして辺りを転げまわる。痛みですっかり目を覚ましてしまったので起き上がって辺りを確認すると異変に気付く。


ここ…どこだ…?


ひび割れた石床に割れた窓ガラス、所々土埃や瓦礫もある。見渡す限り廃墟、どこかの教会のようにも見える。

体には白いシーツのようなものがこのシーツはとても綺麗で清潔だ。体を見渡すと来ている服も汚れは見えないしとてもここで寝てたというには…というか…。


これは…ボクの体じゃない。


詳しいことは何とも思い出せないがボクはこのような女の子では…違う、ボクは男だったはずだ。なのになんでこんな十代前半の女の子ような姿になっているんだ…?

視界の端にうつる白い髪にびっくりするほど白い肌。どこかに自分の姿を見るために鏡がないかを探してみると隅に端がひび割れた大きな姿見があるのを見つけた。前に立ち自分の姿を確認する。


日向には出てないのにキラキラと反射する綺麗な白髪に鮮やかな宝石みたいな赤い眼、日本じゃまずお目にかかれないほどの美少女。しかも口元を引っ張ってみると鋭く伸びた犬歯が見える、見た目も相まって吸血鬼のようだ。

というかさっき日に当たったら皮膚が焼けたな、もう治ってるみたいだけど…肉が焼ける音まで聞こえたのに。

ボクは恐る恐る僅かに差し込む光に指をかざしてみた。


ジュッ!


「いったぁっ!!!」


耐えられないほどではないがそれでも鋭い痛みが走り反射的に手を引っ込める。指見ると肉が焦げる音と焼け爛れた指が見えた。しかし視認した瞬間、しゅぅぅ…と音を立てながら指が元に戻る。どうやらこの身体は再生能力に優れているようだ、それにしても焼け爛れていたのに指に走った痛みは我慢できるほど。見た目と痛みのギャップが変な感じだ。


閑話休題


一通り検証が住んだ後、どうしてこんなことになっているのだろうかと不思議と冷静な頭で思考する。これは別の世界、いわゆる異世界に行ってしまったというファンタジーみたいなものなのかな。そうなるとそもそもなぜ女吸血鬼になってるんだって話だけど、意味が分からない。王道なのだと王様とかその辺に召喚されて魔王を倒せとか…いや、今はそういう作品は少数派かもしれない。


こういうことになる前は何をしてたかを思い出そうとするけども思い出せるのは性別ぐらいで他はもやがかかったかのように思い出せない。というかここはどこだ、捨てられた教会みたいだけど。外の様子を見に行きたいがまた肌が焼けるのは避けたい。日傘とかないかな。

教会内を漁ってみると小さな本と埃の被った妙に真新しい黒いローブがあった。見てみるとほつれや汚れもない、疑問に思いながらも埃を払い袖を通すと少し大きかったが全身がすっぽりと隠れるようになってる。袖も長いしこれなら日の光も浴びずに行動できるだろう。服や靴はすでに着ているから大丈夫。本は後で読もうとローブに突っ込んだ。


外へ移動しながらふとこれからの目的を考える。

とりあえず人がいるところに行きたい…こんな吸血鬼めいた姿で元の日本とはとうてい思えないけどもしかしたらここは地球のどこかかもしれないから…とまぁ違うと思いながらも一応仮説として置いておく。

フードを再度深くかぶり外に出るとそよ風が顔を撫でる。そして辺りを見渡すとかなり広い草原が見え、ここがどこかの丘の上の教会と言うことが分かった。ローブのポケットに手を突っ込むとチャリっと音がした。取り出してみると硬貨が数枚入っており通貨らしきものだろうと言うことが分かる。いくらぐらいなんだろう。


「ゴーティア国記念金貨と100ギル硬貨……-ッ!?」


硬貨に書かれていた文字を口に出すと同時に思わず自らの口を自分の手で塞いだ。再度確認すると日本語とも違い英語でもない見たことのないまるで紋様のような文字。それが読めた、つまりボクはこの世界の文字が読めると言うこと。適当に文字を書こうと宙に指を走らせてみるが問題なく書けた。

妙な違和感に首を捻りながらもボクは歩を進めた、とりあえず人がいるところへと向かいたい。一人でいると不安でしょうがない。

とりあえずは近くに川があったから下流の方へ向かってみよう、川沿いには人が住むとどこかで読んだことがある気がする。木々が生い茂っており日陰になっていてありがたい。

そして先ほどの本のことを思い出し。読んでみようとローブから取り出す、文庫本サイズの本を開いて見てみると…。


…白紙だ。何も書かれてない。

どのページもめくっても何も書かれてなく何だろうこれと思いながら表面を撫でると文字が浮き出てきた。


浮き出てきた文字は日本語ではなく硬貨に書かれていた紋様のような文字だったが今度は読めない。どうしてだろうと思うと本から文字が浮き出て宙に浮いてボクの周りを取り囲むように漂い始める。


「これは……一体……」


驚いて辺りを見渡していると突然その文字が光りだし、ボクへと向かってきた。


「うぐっ」


文字が体に入ると同時、思わず声が漏れて頭を押さえる。急に情報が流れ込んでくるような感覚、許容量を超えても注がれ続けるように頭の痛みが増し。辺りを転げまわる。


「が、あ、アアアアアアアアアアァァァァァァァァァッ!」


割れそうなほど頭が痛い、無理やり頭を掴まれてシェイクされているような気持ち悪さ。頭を押さえ転げまわりしばらくすると急に痛みが引く、その瞬間口から言葉が漏れた。


学習ラーニング完了」


まるで機械のように平坦な声が出たことに驚き、立ち上がりながら理解できた知識を反芻する。魔法と魔力という力の詳細に詠唱呪文の内容、正直恐怖よりもワクワクの方が強かった、魔法とかそういうのが使えると知ると私は先ほどの痛みを忘れいそいそと立ち上がり近くに発見した岩へと口元に笑みを浮かべながら手を向ける。


火をイメージ、形は球体、飛ばすように…。


すると手の少し先から小さな炎の球体が現れて前方に射出された、なかなかの速度で岩にぶつかり小さく爆ぜる。岩がえぐれ、煙が上がった。

私は自分の手を見て口元が大いに緩む。


「すごい、本当に魔法だ…!」


その後色々試してみると色々な属性が存在し。

火、水、風、土、雷、闇、光

属性は大きく分けてこの7つがありそれぞれ適性のような物があった。

ボクは闇>雷>風>土>火の順で適性があり。逆に水や光は全く使えなかった。

光はまあ吸血鬼だし水は流水が吸血鬼が苦手とどこかで見た気がするのでそのせいかもしれない。


歩きながら色々試していこう、ボクは未知の感覚にドキドキしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る