最終エピソード
「砂塵を纏う者」
それではそろそろ、最後の話をするとしよう。
私自身が体験したギガントマキアだ。
もったいぶるものでもないが、折角だから聞いていってくれ。
―――――――――――――
「・・・・・・何?・・・・・・ヒレー・ダッカーが?・・・・・・そうか・・・・・・」
無灯だが薄明るい部屋に男は居た。
男はやがて、通信相手の近況報告を聞き終えて席を立つ。
それから、強く日差しの差し込む窓枠に腕を乗せた。
「・・・・・・またしても、”
男の目前には、果てなき肌色の地平、陽炎ゆらめく灼熱の砂漠が広がっていた。
ここは、広大な砂漠にただ一つ設けられた、リズ連邦軍の警備基地である。
草木の生えぬ死の土地、適したごくわずかな生命にさえ苦労を強いる過酷な極限環境において、
生体兵器であるアームヘッドもまたそれを得意とはしなかった。
猛暑と極寒の二極の中で恒温を保つことは厳しく、また変温化すればパイロットが耐えられぬ為、対処には手間がかかる。
その上、対アームヘッド兵器として一般的な水圧レーザーは、空気中の水分を利用する上、高熱の大気中では蒸発が早くなり威力が半減する。
更に、人型が最も効率が良いとされるアームヘッドは、砂の上の二足歩行では自重で沈むなどして、専用の改造か非人型に妥協するか等、これもまた手間がかかる。
ゆえに、砂漠がアームヘッドの主戦場になる事は無く、各国は砂漠運用を重視せず、万が一の保険として若干数の開発をするに留まった。
この基地もその少数の内の一つで、先の男以外には三人程度しか人員がおらず、そのメンバーも入れ替わりが早い。
男は砂漠の上に浮かぶ、何もない青空を見上げながら、電子煙草を吸った。
獅子騎士、疾風の蒼燕、蜘蛛魔女、アームヘッド・トレーナー、リジアン・サムライ・・・・・・そして"
名の知れた者、親交のあった者、それから優秀な同期たちまで、ことごとく破り、葬っていく・・・・・・セイントメシア。
しかし男には、そうした者たちの仇を討つということとは、自分は無関係であろうと思っている節があった。
男、デザルト・サンダースの同期からは、ヒレー等数多くのエースパイロットが輩出され、彼自身も優秀な能力を持っていた。
しかしそれは他の者とは異なり、悪路や岩場といった劣悪な環境、悪条件下でこそ真価を発揮するというもので、
デザルトは戦車乗り時代からの大半を、こうして砂漠で過ごし、隔離された外界に思いを馳せていたのである。
もちろん仕事がない訳ではない。戦車が主兵器の頃には砂漠での戦闘も多く、砂を利用した戦法で数多くの戦績を上げていた。
今でも敵軍のアームヘッドの出入りがあるが、そのパイロットの全てが砂漠に不慣れなため、デザルトには造作もない相手なのだ。
デザルトは、外のエースパイロットがすべて血染の羽毛に敗れでもしたら、砂漠から引っ張り出されるだろうが、それは当分無いと考えていた。
「接近する敵影なし、か」
本日の業務の大半を終えたデザルトは、砂の上に出る。
それから、敷地内の岩盤に鎮座する愛機の元に向かうのだ。
「よう、パランワルド。今日も暑いな?」
デザルトのアームヘッド・パランワルドは、砂漠戦闘用に特別な改造を施された機体である。
改造元はDH重工で不採用となった試作機の一機であるため、同型のものは存在しない。
デザルトは、アームヘッドが生物に近いと聞いた時から、こうして時折話しかけているのだが、
パランワルドには特に機械的な改造部分が多い為、彼は戦車と対して変わりない印象を持っていた。
砂嵐の度々起こる此処では、機体のメンテナンスが特に重要になっている。
今、この基地の人員もそれぞれ、砂色のサンド・ヴァントーズの整備を行っているところだ。
陽炎のゆらぐ装甲の表面に、豪快に水をぶちまける。
パランワルドはどこまでも無表情で、デザルトは水が勿体ないと思った。
こまめに掃除しているため特に問題もなく、この日この基地だけは平和のまま過ぎていった。
それから三日間、戦闘のない日々が続いたが、ある時緊急報告が入った。
存在が確認されたプラント帝国軍の輸送大部隊の航路が、おそらく砂漠を通過していくというのだ。
その内訳は、輸送用アームヘッド・長月が四機、空には航空輸送機が五機、護衛と思しき神無月が一機だ。
輸送機の中にも護衛が入っていると考えて、この基地四人だけで防ぎきるのは厳しいと思われる為、
砂漠を超えた先に迎撃部隊を用意するまで足止めしておけという通達だった。
しかしデザルトには密かだが固い自信があった。長月は非武装のアームヘッド。
輸送機に収納されている飛行型アームヘッドの数は知れないが、ともかく自分より砂漠慣れしている者は居まい。
おそらくこの砂漠の中だけで全てを撃墜できる。いや、やってみせるのだ。
砂漠中に転々と設置された、広範囲レーダーが次々と輸送部隊の接近を感知する。
デザルトと砂漠基地の面々は一足早く行動を開始。待ち伏せをかけるのだ。
「行くぞ、パランワルド!」
機体に飛び込むデザルト。
全身のあらゆる隙間、エアダクトから砂を吐きこぼしながら立ち上がる機体。
胴部の油圧レーザーの砲口からも砂交じりの蒸気を吹き出し、パランワルドは巨大な大砲とロングナイフをそれぞれ握りこむ。
やがて平たい砂地に足を沈めると、踵に装備されたサンド・スクリューを始動、爪先のボードで砂を裂きながら滑り出す。
サンド・ヴァントーズ部隊もデザルト同様に砂上を滑っていき、やがて散開し持ち場に向かっていく。
この砂漠一帯にはあらかじめ、砂色にカモフラージュされたジャミング・バリケードを幾つも設置してある。
レーダー妨害電波を発する隔壁に、パランワルドは身を隠すようにしながら、輸送部隊と距離を詰め、やがて最も近い発射台岩盤へと身を沈める。
岩盤の穴に嵌り、寝そべったパランワルドは、右手の大砲をジャミングバリケードの間に構え、左手のナイフを地に突き立てる。
そして・・・・・・砂塵の向こうに見える輸送部隊の姿、その先頭の神無月を避け、脇の輸送機に照準!
轟音と共に砲撃!!
それは本来、複数の戦車を一挙に撃破するための大質量砲!
大砲は砲口からだけでなく各部の廃炎口からも爆炎を噴き、その反動を抑えようとする!
しかしその反動は立てたナイフが地を削り砂を巻き上げるほどに強い!
吐き出された巨大な鉛弾はまっすぐに輸送機へと向かっていた!
「接近物体有り!実弾の模様!」
通常、アームヘッドに対する実弾攻撃は
機内に格納された複数のアームヘッドは既に起動することで輸送機自体を守る役割を果たしていた。
対戦車用の実弾、その上遠距離からの砲撃などは大した被害を生まぬ!
パランワルドの砲弾が輸送機の覚醒壁に直撃!
止まったかに見えたそれは・・・・・・次第に加速していく!
球状の弾の表面を高速回転するものが無数。
肉眼で捉えられるものではない、それは砂だ!!
バリアーを削りきる弾丸!やがて爆炎が周囲の機体を照らす!!
「何だ!?」
早くも一機の輸送機が墜とされたことに動揺するプラント軍。
その砲弾は複数機体による防壁を完全に貫通して爆発したのだ。
サンド・ヴァントーズは迅速に地を滑り、墜落した輸送機に追撃をかけている。
その間にデザルトのパランワルドは、次なる砲台へと滑らかに移り次の標的を捉える!
大質量砲の第二射!再びの撃墜!!
「早くしろ!!」
残った輸送機からはあわただしく護衛アームヘッドが出撃!
飛行能力を持った高機動型弥生が大半だ。
だがその中に一際派手な姿あり!!
他機体よりも重武装なそれは、マシンガンを乱射しながらパランワルド目がけ降下!
「ちぃっ!!」
デザルトは仕方なく砲台を跳び離れる。
「逃がしませんよ!!」
ド派手な赤緑の高機動型弥生・改は、バックパックについた対生体六連装ブラスターを連射!
砂上を滑るパランワルドを、執拗に追尾する!
デザルトは設置ジャミングバリケードで敵弾を防ぎながら、次の砲台岩盤へ向かう。
追う弥生は次に、対生体毒ランチャーをも始動し三種類の弾丸でパランワルドを攻撃!
高速で逃げるパランワルド!攻撃を避ける間に砲台ポイントへの予定コースを外れる!
「来るのか・・・・・・!」
デザルトは攻撃目標を弥生に改める。
弥生は全身の武器を一斉掃射しながらパランワルドを蜂の巣にせんと迫る。
だが砂上の敵機は突如Uターン!追い越した弥生が振り向くも、デザルトの姿無し!
砂より出ずるパランワルド、弥生の背後のジャミングバリケードに大砲を乗せる!
そして発射!強化バックパックを貫通破壊し、高機動型弥生・改は弥生に退行!!
「がふっ!」
墜落した弥生はすぐさま立ち上がり背後に長槍を振りぬく!敵はいない!
パランワルドはジャミングバリケードの間に隠れながらその様子を覗く。
対して弥生はマシンガンで牽制しながら次の接近をかける!
「ほほー、貴方が”砂塵を纏う者”なんですね、知っていますよ!」
「噂にはなってるようで結構だ」
デザルトはバリケード群の隙間から大砲を撃ち、反動で機体の軌道を変えていく。
「ほほー、それでは私”
「知らんな」
「貴様・・・・・・!貴様・・・・・・ッ!」
派手弥生は大砲をかわしながらパランワルドとの距離を詰める!
マシンガンが、デザルトの足元で爆ぜ、砂を崩して足止め!
「知らんと?知らんとぅ!?」
「仕方ないだろう、ずっと砂漠に居たんだ。
”血染の羽毛”レベルのパイロットでなきゃ知らんよ」
「貴様には!とっておきのプレゼントをやらねばなああ!!!」
赤緑の弥生がバリケードを蹴倒し跳躍!!
弥生の斬撃を、パランワルドのナイフが受け止める!
しかし弥生は衝撃を意に介さず、連続して長槍を振るう!
若干遅れ気味にそれを弾いていくパランワルド!
「流石に速いか、新しげだものな」
「そんな旧型ッ!壊れてしまえば新機体がプレゼントされるだろうぞ!!」
「まだ必要ないけどな」
「生き延びられればなあああ!!!」
全力で槍を振り落す弥生!
パランワルドはジャミングバリケードを蹴飛ばし、それを斬らせて側面スライド移動!
弥生の目がそれを追った時、デザルトの大砲は煙と共に巨大な薬莢を棄てていた!
至近距離で火を噴くパランワルドの大砲!弥生の右腕ごとマシンガンを破砕!
「プレゼントにはそのコアを貰おう」
「なめるなああああ!!」
弥生の肩ブレード、更に頭部が回転してホーンを突き出し、四刀流の形になった。
更に激化した斬撃を、パランワルドは防ぎきれない!
「不味いか!?」
ホーンによる刺突を辛うじてさけるも、デザルトは幾つもの切り傷を作られた。
パランワルドは大砲を投げ置き、ナイフとマントを構える。
「子供に渡した瞬間細切れになるプレゼントの包装紙のようになれえええ!!!」
更に熾烈な弥生の連続斬撃が迫る!!
それを弾くのはナイフとマント、違う!その表面を高速移動する、砂粒だ!!
奇妙な受け流しに首を傾げ憤怒する”
更に接近、加速、斬撃!
四つの刃が完全にパランワルドを抱え込む距離!
「近づきすぎたな、”選択・ロス”!」
「なんだ?プレゼントはなあ、貴様の死だああああああ!!!!(きまった・・・!)」
弥生の毒牙が一斉に振り落される・・・・・・!!
そのまさに直前!
パランワルドの頭部、ホーン後部が爆発的に火を噴き、
超加速したアームホーン刺突を繰り出す!
それは弾き出される杭打ち機のごとく、弥生の胴体を貫徹!!
パランワルドに刺さる直前で止まる、弥生の刃。
ド派手な弥生はド派手に体液を噴き出しながら、静かに後ろに倒れこんだ。
その残骸は砂風にさらされすぐさま乾き果てていった。
「危なかったな・・・・・・性能の差を埋めるのは容易でないが、こうして出来れば問題ない」
デザルトはパランワルドに言いながら、大砲を拾って長月を追う。
一方サンド・ヴァントーズも、護衛の高機動型弥生を撃退し、地上の長月を一機沈めた所であった。
その後は神無月によって妨害され防戦を強いられていた。
パランワルドはそれを横目に、残りの六機の輸送機へと加速をかける。
最大速度で標的を追い越し、バリケードに囲まれた砲台用岩盤に飛び込む!
そして再び大砲が業火を噴く!風穴の開いた輸送機が墜落!!
その攻撃に気付いた神無月が、パランワルドへ向け一直線!
それは飛行型アームヘッド最速!
天空より瞬時に繰り出されたホーン攻撃を、岩の窪みに屈み間一髪で避けるデザルト!
転回した神無月は、すぐにパランワルドの真上に飛行、そのまま垂直降下で止めを狙う!
寝返りを打ったパランワルドは上空へ向け大砲を構える!降りつつアームヘッド形態に変形した神無月がホーンを振り下ろす!
砲台岩盤に突き立てられるアームホーン、その根元にある神無月の頭部はゆっくりと、胴部と分断された。
首部分がまるごと砲弾に持っていかれたのだ。
再び窮地を逃れたパランワルドが立ち上がる。
戦況を見ると、襲われている間にサンド・ヴァントーズがまた長月を倒したようだった。
敵は残り四機。その全滅はもう目前だ。
デザルトがその旨を僚機に伝えようと向き直った時である。
三機のヴァントーズが次々に首を奪われ、新手の機影が向かって来ていた!
「!?」
デザルトはとっさの判断でサンド・スクリューを逆回転、踵から砂へと沈む。
敵機はパランワルドの鼻先にアームホーンを掠めたあと、長月を背にするように見下ろしていた。
「”血染の羽毛”・・・・・・!」
デザルトは静かに呟いた。
セイントメシアは、太陽の前で後光の射すように威圧的に佇んでいた。
「・・・・・・まさか、本当に相まみえることになろうとは・・・・・・」
パランワルドは、その存在感に気圧されるようにして動かなかった。
「少し、遅かったな・・・・・・」
メシアの中で幸太郎が独り言ちる。
睨み合う二機を尻目に、生き残りの輸送機は道を急いでいく。
デザルトは最早それを追うことは不可能だと感じていた。
迎撃部隊の用意も、もう大半は出来ているだろう。
だが、このセイントメシアがそちらへ向かったらどうなるか?
「デザルト・サンダースだ。輸送部隊の護衛にセイントメシアが出現した。至急迎撃部隊の再調整を」
「了解」
この敵と遭遇しては、もう後には引けない。
せめて時間稼ぎが出来るなら、そういう次元の戦いになるのだ。
デザルトはそう思って、しかしそれ程までに自信をそがれるのは如何なものかと自嘲する。
有りえないと思っていたシチュエーション、しかしそのシミュレーションを試みたことは何度もあったのである。
幾多の同僚を討ってきたこの敵の虐殺を、ここで止めることが出来るならば・・・・・・!
”血染の羽毛”はその死神の鎌を振るって、迅速にパランワルドへ駆けた。
一撃で仕留める心算なのだ、デザルトの意地が刺激される。
セイントメシアの刃の一振り!
しかしそれを受け止めたのは砂粒を纏った砲弾だ!
それぞれ別の強い反動に仰け反る二者。
パランワルドはスクリューで砂の壁を巻き上げながら高速で後退!
セイントメシアは砂塵の中を突破する、しかしその中に撃ちこまれる大質量弾!
上昇して避けたメシアは、水圧レーザー砲で牽制しようとする。
レーザーは高速でパランワルドの足元に着弾するも、わずかに砂を爆ぜるに留まる。
お返しとばかりに胴の三連油圧レーザーを連射するパランワルド!!
それは大気からの摂取が出来ず弾数に乏しいものの、威力を削がれることはない!
メシアは数発のレーザーに抉られながらも、パランワルドに接近!
その二振りの翼で叩き斬る!またしても弾かれた?
パランワルドは砂を纏ったマントでアームホーンを受け流したのである!
それは如何なる能力か?
パランワルドの装備する静電気マントは、砂を吸い寄せてその身に纏わせることが出来る。
デザルトの異名、”砂塵を纏う者”とは主にこれが由来だ。
しかしそれだけではない。
デザルトとパランワルドの調和能力「バイ・バイ・バビロン」の内容は、
触れた物を加速させることが出来る、というものだ。
それも軽くて小さい物ほど、加速度が上昇し負担も少ない。
よってデザルトは、静電気マントの上で吸い寄せられた無数の砂を超加速して電流の流れに乗せて砂のバリアーを張ることや、
球状の砲弾の表面に吸着した超高速の砂を周回させることで、敵の装甲を貫く強力なグラインダー・ボールを生むことが出来たのだ。
「原始的なアームヘッドのようだが・・・・・・調和使いだな?」
流石の”血染の羽毛”でもこれだけで能力の全貌を知ることはできない。
「貰った!」
パランワルドはマントの裏で大砲の薬莢を射出、更に装填!
砂塵の衣を翻し、至近距離で砲撃!!
「ちぃっ!」
セイントメシアの瞳が咄嗟に赤く光った。
高速で唸る弾丸はメシアの装甲を削りきることなく爆散した。
「目の色が赤・・・・・・あれは防御能力の兆候?ならば!」
デザルトは、メシアと戦うことがないと思っていながらも、自然と情報を蓄えてしまうような男なのだ。
攻撃を諦めたパランワルドは、サンド・スクリューの逆回転と調和による足元の砂の加速で素早く砂の中へと潜っていく。
砂中では機体を包む砂が超加速して流れを生み出し、パランワルドを運んでいく。
一方巻き上げられた砂塵を抜けたセイントメシアは、振り向いて敵が消えたのを知る。
それから幸太郎は、この相手が今回の出撃で唯一注意すべきと告げられていた”砂塵を纏う者”であろうと理解する。
「砂漠最強のアームヘッド・・・・・・どれほどのものか!」
メシアの目が氷のような輝きを放つ。透視能力!血染の羽毛は砂の下の敵を見透かして追い詰める!
急降下と共に目の色は深い緑へ!パワー上昇の調和!
振り下ろされた鎌は砂の海を割り、そこに大砲を構えるパランワルドの姿を露出!
大砲の一射!怪力で弾き落とすメシア!だがそこへ静電気マントから放たれる無数の砂!
メシアの防御調和が発動するより早く、その装甲に食い込む砂の弾丸!!
「”血染の羽毛”とはいえ調和をいくつも同時に永続させることなど!」
超加速した無数の砂は、セイントメシア全体に降りかかり、空へ押し戻すように食い込む!
メシアが再び防護を発動しきって砂を弾くが、パランワルドは再び砂に潜っていた。
「繰り返してこちらを徐々に削る心算・・・・・・時間稼ぎか?」
幸太郎は先ほど同様、透視で敵の位置を見透かす。
しかし手は出さぬ。一筋縄ではいかぬと分かれば待つこともある。
待つといえどもこの暑さ・・・・・・”血染の羽毛”とて時間が経つほどに消耗する。
パランワルドは案の定、砂の中から大質量弾を砲撃!
セイントメシアはそれを硬化で防ぐ。
背後の地面から飛び上がる”砂塵を纏う者”!外套を掃って微細な弾丸を放つ!
”血染の羽毛”の瞳が瞬間的に複雑に光る!飛行調和!加速調和!
砂の壁を避けきったメシアの、血染めの翼が斬りかかる!
対しパランワルドが構えるは、加速砂の流れるロングナイフ!
激しくかち合うホーンとナイフ!
流れる砂はヤスリのごとくアームホーンを傷つけようとする。
もちろんホーンは切断されないが、逆にナイフが切断されないのが異常なのだ!
押し合いの中で退くナイフ、それはパランワルドが懐にすり抜ける為だ!
敵の後頭部が爆発!!メシアにはそう見えた。
そして!
杭打ちのごとしパランワルドの加速アームホーンは、セイントメシアの肩を貫いていた!
左翼をアームキル!!
驚く血染の羽毛もただでは下がらない。
即座に脚部のホーンで回し蹴り!砂に潜る途上の敵のバックパックを破砕!
足元の砂を加速させ一気に後退するパランワルド。
「ようやく一太刀浴びせられたってところだ・・・・・・。
だが勝つには、あと六回このまぐれを起こさねば」
それはまず常人には不可能だ。
七つのコアを持つメシアに対し、パランワルドは一撃のアームキルも耐えられない。
調和による加速飛行で追跡するセイントメシア。
それが誘いであろうとも、遠距離武器は実質使えない故、接近戦に持ち込むしかない。
長月の護衛へ引き返す選択肢もある。だが”砂塵を纏う者”はここで倒しておくべき相手だ。
前進しながら砂上、砂中へと交互に移動するパランワルド!
低空飛行で追いついたセイントメシアが一閃!
しかし目前の砂中から、こちらへ向け加速したジャミング・バリケードが出現!
メシアはそれを踏み台にして交わす、敵を追い越していた!
背後から大質量弾!!上昇で回避、更に砂粒の弾丸!
メシアは装甲を強化、だが代わりに飛行と加速がやや弱まる、真下から蹴り飛ばされてくる加速バリケード!
飛んできた盾に跳ね飛ばされるセイントメシア!
「私が”血染の羽毛”と戦えているのは、これまで挑んできた者たちがいるからだ!見ていろ!!」
サイドワインダーのごとく砂上と砂中をくねくねと進むデザルト!
横ばい移動ですれ違うたび、大砲・砂粒弾丸・バリケード投擲のいずれかで距離を取った攻撃を仕掛ける!
それゆえ、いつの間にかセイントメシアが前方で逃げる形になっている!
”血染の羽毛”の前方に巨大な砂丘!追いつめようとする”砂塵を纏う者”!
その頂上に埋まるようにして突っ切る!!
砂の壁の向こうにメシアが見たのは、周囲に緑もまばらな巨大砂漠湖だ!
デザルトは感づく。正面へ砲撃!更に粒子弾丸!滑らせていたバリケードもダメ押しで蹴撃射出!
砂漠湖に飛び込むセイントメシア!その瞳は湖の色に溶け込むよう。遊泳能力!
加速砂とバリケードは水面に叩きつけられ無効化!更に機体を冷却!
この広大な砂漠の、唯一の水場に逃げられるというのはデザルトの盲点だった。
パランワルドは急激に進路変更し湖の沿岸を滑り走る!
並走するのは、湖面からサメの背びれのように不吉に出ているメシアのホーン!
鋭利な背びれは前進しながらも次第にデザルトへ近づいてくる!
ついにセイントメシアが水中から奇襲!
その左腕に持つ、幾多の戦士達を葬ってきた死神の鎌で、パランワルドの息の根を!!
”砂塵を纏う者”は同時にメシアへ向き直り、背後へ跳躍!
狙いすました大口径対戦車砲の一撃!!
”血染の羽毛”の左上腕を貫通!メシアの左腕が、もがれた!!
腕が取れてもその先の鎌の斬撃の威力が失われることはない!
同時にパランワルドの大砲が両断され爆発!!最強の武器を失うデザルト!
そのまま激突した二機は絡み合って砂丘に突っ込む。
血染めの翼!パランワルドの静電気マントが裂かれる!
至近距離で砂の弾丸!メシアの片目がひび割れる!
アームホーンキック!油圧レーザー用タンクを盾に防ぐデザルト!
噴き出し飛び散る油!その向こうで爆炎が!
降ってくるのはロケット加速したパランワルドのアームホーン!
セイントメシアの右脚をアームキル!!
同じく頭部ホーンの刺突を返す!デザルトの真横でコクピットガラスが砕けた!
何故外した?幸太郎も汗だくで憔悴しきっているのだ。
両者はもう一度アームキルを試みる!!
ホーンの衝突!覚醒壁の衝突!その力場が砂嵐を生じ爆ぜる!!
それぞれ灼熱の砂に突き刺さる二機。
倒れこんだデザルトが、砂塵の向こうに見たのは、静かに佇む満身創痍のセイントメシアだ。
急加速するような気配もなく、ゆっくりと歩を進めていく。
「・・・・・・もはや・・・・・・ここまでか・・・・・・」
割れたガラスから入った砂がデザルトの汗を汚した。
パランワルド、お前はよくやったよ。
あのセイントメシアを二度もアームキルしたんだぞ。
砂漠の力を借りたって言っても。充分だよ。
これでお前の仲間達も報われる・・・・・・報われる?仲間達?パランワルドの?
でも私の仲間は・・・・・・俺は何かを残しただろうか?何も残らなければ、報われるとは?
俺は負けただけだ、そして死ぬ。無意味に・・・・・・仲間たちのように?
残るのは結果だけなのだ。過程の努力では誰も報われない・・・・・・知らなければ、見ていなければ?
全力で挑み、果てる。その敗北は自身にとっての名誉になるが、真に名誉あるものとは?
吹きすさぶ砂風の音がノイズとなってデザルトの意識を覆っていく。
セイントメシアが歩みを止めた。
パランワルドが膝を立てていた。
砂色のアームヘッドの瞳は静かに紅く輝いている。
そして立ち上がる。その周囲に砂の渦を巻きながら。
薄れゆく意識の中デザルトは、彼を包み響き渡る雑音が、次第に獣の唸り声に変わっていくのを覚える。
セイントメシアの目前、パランワルドはその刃から毒液のようなものを滲み出させていた。
それが超常的な現象であることが幸太郎にはよく分かる。
砂交じりの体液を流しながら、”血染の羽毛”を睨んで唸るアームヘッド。
「パランワルド・・・・・・?
これが、お前だっていうのか・・・・・・?」
デザルトは、ただ感じる。意識に潜り込む異物感を。
異なる記憶が脳裏をよぎってくる。
デザルトがなったのは、蠍の化け物のような野蛮な姿をした機械生命体。
同じ無数のそれが砂漠で蠢いていた。
不毛の星。戦闘民族。蠍の長・・・・・・。
パランワルド・・・・・・?
これが、お前だっていうのか・・・・・・?
”狩るのだ”
何?
”狩るのだ。戦士を。救世主を狩るのだ。
狩る。メシア。カルノダ。
カル。カルノダ――”
ざらついた声が体に染み渡る。
意識が薄まる。パランワルド―蠍の長の獰猛な意識が流れ込む。
お前の声か、パランワルド。
俺はお前を戦車と同じ鉄の塊だと思っていた。
でもお前には魂も前世も目的もあったんだな。
だが俺は・・・・・・。
このままお前に取り込まれて、死ぬのか?
俺はお前が俺を助けるために立ち上がったのかと思った。都合のいい、人間の悪い癖だな。
だけど俺はお前を、愛機だとか、相棒だとか、そういう風に信じてたんだぜ・・・・・・?
”だからこそだ。
奴らにより奪われた我らの文明を取り戻し、共に新たな帝国を築き上げるのだ。
共に奴らを狩り、我らの栄光、未来を勝ち取るのだ、デザルト・サンダース”
その名を呼ばれた時、ぞっとした衝撃が体を走る。
全身が何かに引き寄せられていた。融合が始まったのか。
俺を生かす術がそれだけだと。そう言いたいのか?
鉄の獣に生まれ変わる。蘇る。生きていく。
いいね。いや、だめだ。
それは俺じゃない。お前だ。
俺が俺として何も残さず消えるなら、せめて俺のままで・・・・・・。
唸り、毒液を撒きながら、飛びかかっていくパランワルド。
セイントメシアは静かに見上げている。
「――――――!!」
デザルトは言葉にならない叫びを上げた。
砕けたガラスの向こう、眩い光に手を伸ばして。
デザルトとパランワルドは、セイントメシアの放つ光に包まれていった――。
「・・・・・・俺は・・・・・・。
・・・・・・生きているのか・・・・・・?」
それを口に出せたのが生きている証だ。
デザルトは砂漠にはいなかった。
病院の個室のようだった。空調が涼しい。
あれからどうやって助かったのかは、全く覚えていない。
私たちが戦ったあの砂漠には、砂の結晶で出来た闘技場の遺跡のような残骸と、
それを封じるように描かれた、古代の仮面の地上絵だけが残されていたという。
私はあの日、二重の意味でアームヘッドの恐ろしさを知ることになった。
”血染の羽毛”、そして自身の愛機すらも・・・・・・。
そしてただ思うのは、死ななくて良かったという事だけだ。
何も残さずに死んでしまったら、そこに、名誉の死など存在しない。
お前も、そう思っていたんだろう?
パランワルド。
―――――――――――――
私の知っている、ギガントマキアの話はこれで終わりだ。
ここまで、長話に付き合ってくれて有難う。
この昔話を、どうするかは君の自由だ。
忘れるもよし、記憶の隅に留めるもよし。
だけど、他の誰かに語り継いでくれたなら、それが一番嬉しいな。
それが、私たちが燃やしてきた命を、名誉を残すことになると思うから。
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