第6話 傲慢な勇者の終わり



 立ち尽くして戸惑っていると、勇者がこちらの腕をひっぱろうと手を伸ばしてきた。


 しかし、そこにエルコンが割って入る。


 警戒する彼は、剣を抜いていた。


「彼女はもう立派な俺達の仲間だ、勝手に連れていくのを見逃すわけにはいかないな」


 それを見た勇者は、不快そうな様子で思いっきり顔を歪ませる。


「何だてめぇ。俺は勇者だぞ、雑魚が逆らおうってのか?」


 勇者と聞いたエルコンは一瞬驚いた。けれど、彼がその名前にひるむ事はなかった。


「勇者の名前を騙るほど愚かとはな。ますます彼女を連れてはいかせられない」


 どうやら目の前の男を勇者その人だとは思えなかったようだ。


 それを聞いた勇者はますます機嫌を悪くした。


「はっ、痛い目にあわねぇと理解できねぇみてーだな! 剣の錆にしてくれる!」


 勇者はエルコンに突然きりかかった。


 しかしエルコンは、勇者の剣を冷静にかわしてみせた。


「やめてください! 勇者様!」


 勇者は、私の制止の声を全く聞かずに、エルコンを攻撃し続ける。


 慌てて仲間が加勢に入ったが、性格は悪くても勇者は強いから。


 エルコンはすぐ、やられてしまうだろう。


 けれど、戦いは思わぬ方向へ向かった。


 エルコン達が勇者を圧倒し始めたのだ。


 なぜか、勇者の行動が鈍くなっている。


 肉体から血が流れて、そこからウジのようなものがこぼれはじめた。


 そこで私はもしかして、と思った。


 勇者は実は助かっていなかったのではないだろうか。


「皆さん、下がってください! 魔法を使います」


 私は仲間が下がったのを確認しながら、聖なる魔法を勇者に浴びせた。


 すると勇者は、絶叫をあげて苦しみだした。


「ぐぁぁぁぁぁ! きっ、きさま!」


 やはり、勇者はもうとっくに死んでいてアンデットになっていたのだ。


 おそらくモンスターのねぐらに連れていかれた直後は確かっていたのだろうが、私達に会うどこかのタイミングで命が尽きたのだ。


 アンデットが聖なる魔法に弱いから、この光景が証拠だ。


 しかしその事実を、本人は認められなかったのだろう。


 彼は、自分の体の変化に気が付かないふりをしながら、ここまで来たのだ。


 自我が強い人間はアンデットになっても、意識を保つ事がある。


 それが災いしたのだ。


 私は、元仲間としてせめてもの情けをかけた。


「エルコンさん達に失礼な言葉をかけた事を謝ってください。そうしたら苦しまないように浄化します」

「だれが、ぐぁぁっ。はやくこの魔法をやめろ!」


 しかし、勇者は一言も謝罪の言葉を口にしなかった。

 最後まで、自分の事しか考えていなかった。


 なら、聖女としてやるべき事は一つだけだ。


「せめて来世では正しい道を歩めるように」


 罪に見合った苦しみを味わってもらうため。私は時間をかけてモンスターと化した勇者を浄化していった。







 結局、その後私は聖女教会に戻る事になった。


 勇者は選びなおされるようだ。


 次のサポート役は、私とは違う聖女が選ばれる予定だ。


 教会の同僚は私の擁護をしてくれたが、世間の不安を払拭するには仕方がない。

 失敗した勇者のパーティーを再び採用するより、新しい顔がサポートになった方が、世間の人々は安心できるだろうと思って、何も言わなかった。


 その一方で、通常の仕事を続けていたのだが、どうにもうまくいかない。


 聖女の仕事に身が入らなかったため、職を辞める事にした。


 悩む私は各地を転々としたのだが、自然とあの仲間達がいた場所へと、足を運んでいた。


 懐かしい通りを歩く私は、彼等の顔を探した。


 当てが外れたなら、どこかで小さな治療院を開こうと思っていたのだが。


「やあ、久しぶり。ちょうどパーティーが足りてないんだ。一緒にダンジョンにいかないか」


 その心配は当分要らなさそうだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ただの聖女をダンジョンの奥地に連れかないでください。傲慢勇者は実力を見誤って痛い目を見る。 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ