第5話 思わぬ遭遇
「やった、お宝発見。これで、皆の装備をまとめて新調できるぞ!}
ダンジョンの奥深くで見つけたお宝。その中身の質の良さに歓喜する仲間達がいた。
今日のダンジョン探索は好調だった。
ダンジョン内にいつも満ちている闇の瘴気は薄いし、モンスターとの遭遇率も低い。
日によって内部の環境が変化するとは聞いていたが、これほどまで好条件の日は今までなかった。
おかげで、私の魔力もかなり温存できている。
宝の扱いについて話す他の仲間をよそに、エルコンが話しかけてきた。
「君がうちのパーティーに来てくれてからすっかり探索が楽になったよ。ダンジョン探索は奥に行くほど瘴気の影響が強く出てくるから、解毒薬がかかせない。懐が厳しいと足が鈍ってしまうのが悩みだったんだけどね」
ダンジョン探索では、瘴気対策がかなり重要だ。
瘴気を浄化できる人間なんて、聖女になれなかった聖魔法の使い手や、本物の聖女くらいしかいないため、そういった仲間のいないパーティは、なかなか先へ進む事ができない。
「本当にありがとう」
エルコンは、裏表のない表情で礼を言ってくる。
彼だけではない、彼のパーティーの者達は皆そうだ。
「いえ、命を助けてもらったのですから、当然です」
「もしよかったら、これからもずっと俺達のパーティーにいてくれないかな」
「それはちょっと難しいです」
「君にも事情があるのは分かってる。だから、余裕があったらでいいから、その時は考えてくれ」
「分かりました」
聖女の仕事に誇りを持っている私は、己の職務を投げだそうとは思わない。
けれど、聖女になっていなかったら、彼等と行動出来ていたのかもしれないと思うと。
少し残念な気持ちになった(ただ、その場合は、めぐり合えていたかどうか分からないが)。
そんな中、思わぬ出会いが果たされた。
それは、喜ばしい物ではない。
むしろ、忌むべき出会いだった。
私の前の前に現れたその人物は、ダンジョンの中で死んだはずの勇者だったからだ。
そういえば、後日遺品を回収しに行ったとき、彼の死体だけが無かった。
モンスターがどこかに亡骸を持っていく事や、戦闘の苛烈さで亡骸すら残らない事はよくある。そのため、あの状況の後で生きていられるとは思わなかったのだ。
勇者は顔を歪めて、こちらに話しかけてきた。
彼が近づいてくると、なんとも言えないような匂いが、腐ったような臭いが鼻についた。
これは衛生環境の良くない食堂で、かいだことのある臭いの気がする。
「お前、なに人のもんになってやがんだよ。仲間の事も探さねぇでいいご身分だな」
「いっ、生きているとは思わなかったのです。本当に勇者様なのですか?」
「当り前だろ。クソモンスターのねぐらに持ってかれた時は、死んだもんかと思ったけどな。仲間の死体も一緒に運ばれてたから幸運だったぜ」
モンスターは稀に食料を貯蔵しようとして、人間の体を自分の巣に運ぶ事がある。
勇者は、そういった例で生還したのかもしれない。
勇者が言うには、あれから色々な事があったらしい。
息も絶え絶えな状態で巣に運ばれた彼は、共に運ばれた仲間の一部(腰部分らしい。状態からして本人は生きてはいまい)からポーションを抜き取って、体力を回復させたらしい。
私は、元仲間の一人が、腰のポーチにアイテムを入れていたことを思い出す。
勇者が語るような状況になる事は、決してありえない話ではなかった。
それで勇者は、自分の体が万全とはいいがたい状況だったため、息をひそめながら、ゆっくりとダンジョンの奥から戻ってきたらしい。
「お前みたいな使えない聖女、無能共の役に立つわけねぇだろ。知り合いのよしみで俺がきちんと使って使ってやるから、出口に戻るまで俺を守れ」
「そんな勝手な」
彼の身の上は気の毒だとは思うが、こちらだって勝手をしていい体ではないのだ。
命の恩人に迷惑をかけるような事はしたくない。
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